ダンジョニアン男爵の迷宮競技
スカイは幅が三十センチぐらいしかない一本橋を歩いていた。その下にはぐつぐつと煮えたぎる油の池が在った。そして巨大な手の平の形をした鋼鉄製の振り子が十個も連なって揺れていた。
「おいスカイ、油が飛び跳ねて橋が、ぬめっているかもしれん、ハンカチ渡すから橋を拭いてくれ」
マグギャランが後ろから言った。
「バカ、避けながら拭けるかよ」
スカイは巨大な手の平を避けながら言った。
そして一気に前に進んだ。
だが6番目の巨大な手の平がリズムを変えて動いているため、スカイは止まった。
「6番目の巨大手の平の前では止まれよ」
スカイは後の2人に言った。
突然、声が聞こえてきた。
「いやぁ、ボクだよ司会のシキールだ。君達はアンラッキー・セブンで頑張っているようだけど、プレッシャーを掛けるため、これから、この油の温度が発火する温度に極めて近い三百度であると言うことが、どういうことだか教えてあげるね」
スカイは手の平の振り子を避けながら前に進んでから辺りを見回すと天井の一部が開いてラッパ型のスピーカーが出ていた。
「うるせぇぞ!三百度の油が、どうした!この野郎!」
スカイは叫んだ。
「そんなこと言っていいのかな?もっとプレッシャー掛けちゃうよ」
シキールが言った。
天井が開いて、スカイの横を皮をむいて内蔵を抜いて首が切り落とされた子牛が尻尾をロープに吊されて降りてきた。
「あぶねぇ!」
スカイの右横に油を撥ねながら落ちると音を立てて揚げ始めた。辺りに香ばしい匂いが直ぐに漂い始めた。
「三百度の油は子牛の肉をアッという間に揚げてフライド・カーフにする力を持って居るんだ。いい音で揚がっているね。直ぐに骨の随まで火が通るよ。君達も落ちると竜田揚げになるからね。おっと竜田揚げにするには衣を付けないとダメかな」
シキールが言った。
「スカイ、俺、渡れない。ダメだ、すまん。ああっダメだ、さっきまでは渡れるつもりでいたが、子牛が揚がっている音を聞いて香ばしい匂いを嗅ぐと、俺、ダメだ。油で揚げられてフライになって死ぬのだけは嫌だ。先祖に顔向けができん」
急にマグギャランが怖じ気づいて青い顔をして軽くジャンプをしていた。
「何、ビビって居るんだよ!」
スカイが叫んだ。
「くそ度胸だけで生きている、お前と一緒にするなよスカイ。三十センチぐらいしか幅のない橋でだな、しかも煮えたぎっている油の中に突き落とすための振り子が動いて居る橋なんぞ。こんな物渡れるか」
マグギャランが情けない声で言った。
コロンもマグギャランの隣りで顔を青くして首を横に振っている。
「根性だよ!根性!お前等、根性見せろよ!よし、見ていろ!うぉりゃ!」
スカイは子牛を吊した紐を両手で引っ張って持ち上げた。
「こんな物食っちゃる!」
スカイはナイフを抜いて子牛の肉を切った。
そしてスカイは子牛の肉を食べた。まだ生の部分が在った。
あちっ!あちっ!
「それ実は人肉なんだよ。あーあ食べちゃった」
シキールが言った。
「ぶっ!」
スカイは人肉と聞いた瞬間に吐き出した。
「ウソだよウソ。君はリアクションが、分かり易くて面白いね。好きだよ、単純で」
シキールが含み笑いをしながら言った。
「うるせぇぞ!シキール!てめぇ!コンチクショウ!こんな橋、走って渡ってやる!」
スカイは叫んだ。
スカイはナイフを鞘にしまうと、振り子を避けて橋を駆けだした。そして橋の向こうに辿り着いた。
「早く来いよ!オマエ達!」
スカイはマグギャランとコロンに両手で煽って叫んだ。
「ダメだスカイ。俺は渡れない」
マグギャランは頭を押さえて言っていた。コロンは青ざめた顔で首を横に振っていた。
「来いったら来いよ!」
スカイは言った。
「ふーん。なかなか、決心が付かないよね。油で揚げられるのは誰でも嫌だからね」
シキールが言った。
「ああ、当然だ」
マグギャランが言った。
「でも、君達が、そうやって、ビビリで渡れないで居るとね、困ったことが起こるんだな」
シキールは言った。
「もう、十分、困っているぞシキール!」
マグギャランが叫んだ。
「このダンジョン競技に初めて参加する君達は知らないようだけど。このダンジョン競技は三時間の制限時間以内に各迷宮ゾーンをクリアーしないと。ダンジョンの中に毒ガスが充満する仕組みになって居るんだ。そして君達はゲームオーバーで死亡することになるんだよ」
シキールが言った。
「何だと!」
マグギャランが叫んだ。
「ふざけんじゃねぇぞ!」
スカイは叫んだ。
「それじゃ、プレッシャーを掛けたところで、更に意地悪するけど、振り子のリズムを変えてみるから」
シキールは言った。
手の平の形をした振り子のリズムが変わり始めた。
スカイが渡ったときより、更に難易度が上がったようだった。
「不味いぞスカイ!何か前よりも、もっと渡りづらくなって居るぞ!」
マグギャランが叫んだ。
確かに十個の在る振り子の内、六個目でリズムが変わっていたのが、二個目でリズムが変わって、七個目と八個目は一気にスピードを付けて渡らないと駄目なようになっていた。
コロンが前に出てきた。
「コロン!」
スカイが叫んだ。
コロンは呪文書を左脇に抱えて、右手で杖を持った格好のまま一本橋を歩き始めた。
「二個目の振り子に気を付けろ!二個目は一個目を渡った後ダッシュしないと!直ぐに飛んで来るぞ!」
スカイは叫んだ。
一個目の振り子をコロン何とか、かわした。
だが二個目が物凄い速さでコロンを煮えたぎる油の中に突き落とそうと飛んできた。
コロンは右横を見て慌てて、走り出した。
間一髪。平手の形をした1メートル近くある振り子をコロンは、かわした。だが、コロンが右手に持っていた杖が振り子に弾かれた。
コロンは大きくバランスを崩した。
「コロン!」
スカイは叫んだ。
コロンは両手で、バランスを回復しようとしている。
だが、コロンは呪文書と杖の両方を持っている。そんな格好ではバランスを取れるものではない。
だが、コロンは腰を曲げて両手を伸ばして何とかバランスを取った。
そして、橋を渡りきった。
「ああっ!スカイ!俺は渡れぬ!渡れぬぞ!」
マグギャランが上を向いたまま小刻みにジャンプして弱音を吐いていた。
「早く渡れよ!」
スカイは言った。
「駄目だスカイ!俺は油で揚げられて死ぬことだけは先祖に顔向け出来ん!」
マグギャランは上を向いて小刻みにジャンプしていた。
「ここで渡れなかったら毒ガスで死ぬんだぞ!」
「油で揚げられて死ぬより、毒ガスで死んだ方が良いかもしれん。スカイ。後のことは任せた。俺は、ここに居るから先に進んでくれ」
マグギャランは、腰を下ろして座って、スカイ達に手を振った。
「死ぬことなんか考えるんじゃねぇ!何か、良いことを考えろ!」
「良いことだと?こんな状況では何も浮かばぬぞ!」
「この橋を渡ったら何か良いことが起きるって考えるんだよ!」
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道