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ダンジョニアン男爵の迷宮競技

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 「さあ、アンラッキー・セブンが何故、アンラッキーと呼ばれるか、あの地味でダサイ女魔術師を相手に見せて上げよう。観客の諸君。初めての人も常連さんも、みんなも見たいよね?本当に、みっともない小娘だね。背が小さいし。三つ編みで冴えない眼鏡を付けているし。生きてる価値無いよね?さあ、だから殺してあげよう。第七パーティ「ザ・ワイドハート」の魔術師コロナ・プロミネンスは、あのギロチンの刃の下で胴体を分断されて横たわることとなる。このスイッチを押すと、あのギロチンが作動するんだ。みんな、よく見て居るんだよ。私の手の動きを。ササッと素早く残像を残して押しに行くからね。でも、やっぱり画面を見ていた方が良いかな。みんなが楽しみのスプラッター・ショーの始まりだ」
 司会のシキールがポケットから赤いボタンのスイッチを取り出した。
 観客席から歓声と口笛とホーンが鳴り響いた。
「まさか。公衆の面前で殺すのか」
 観客席に居る、シー老師は、余りの残忍さに口から言葉が出た。
だが、巨大なテレビに映し出された、まだ少女の魔術師がギロチンの刃に近づくと歓声が沸き上がっている。
 このスタジアムに集まった観衆の下劣さにシー老師は呆れていた。
隣から声を掛けられた。
 「ふふふふ。アンタどうやら一見さんのようだね。これがダンジョニアン男爵の迷宮競技だよ。参加者が皆殺しになることも珍しくないのさ。全パーティの全滅予想クジも販売している。全滅とは皆殺しのことさ。一見さんには、ちょっとばかりキツすぎるかな。ふふふふふ」
シー老師の左隣に座っている緑色のサングラスを掛けて帽子を被った青いポロシャツの坊主頭の四十台の男が言った。
「お前は一体何者だ」
 シー老師は隣の男に言った。
 「ふふふふ。俺かい、俺の名前はギャンブラーYとでも覚えて置いておくれ。トラップシティ界隈に出没する、さすらいのギャンブラーさ」
隣の男は馴れ馴れしく手を出してきた。
 握手が、したいらしい。
 どうしょうもないゴロツキのようだった。
 シー老師は手を弾いた。
「えっ、つれないな。君も賭けの為に来たんだろう」
 ギャンブラーYは言った。
「違う」
 シー老師は言った。
 「それじゃ、なぜスタジアムに居るのさ。本当は賭けているんだろう?正直じゃないな」
 ギャンブラーYは言った。
 「さあ、みんなカウントダウンを開始するよ?
 3、
 2、
 1」
シキールはカウントダウンを開始した。スタジアムの観衆達が一斉に唱和を開始した。
「正気なのか。武覇山の拳術家として見過ごせぬ」
 シー老師は武闘着のポケットから銅貨を取り出した。
 コロナ・プロミネンスがギロチンの下を潜ったとき。
「死刑!」
 司会のシキールは大仰な仕草で叫びながらスイッチ目がけて手を振り下ろした。
シー老師は親指で銅貨を弾き飛ばした。指弾という技だった。
シキールの手の中からスイッチが銅貨に弾かれて飛んでいった。
「あれ?」
 シキールは首を傾げた。
 観客席からドッと笑いが起きあがった。
ギロチンは動かなかった。
シー老師はホッとした。
ギャンブラーYは怒りだした。
 「あんた、今、何やったんだい。あんた。賭けに介入したらダメだよ。これはルールなんだよ。時短スピード・クジをやっているんだから。彼等、第七パーティはね、アンラッキー・セブンから出発したんだからフリー・バトル・エリアに入る前に全滅しなければならない。時短スピードクジは何分間で皆殺しになって全滅するかを楽しむクジなんだよ。その為にアンラッキー・セブンのルートには罠が沢山仕掛けられているんだ。どんな罠で哀れなアンラッキー・セブンのパーティが全滅していくかを見ながら賭けを楽しむんだよ。これはダンジョニアン男爵と観客達の相互の信頼の上で成り立っているクジなんだ」
 ギャンブラーYが言った。
 だが、シー老師を、そっぽを向いていた。
すると、ギャンブラーYとは反対のシー老師の右隣に座っていた娘が拍手をしていた。
 「なかなかの腕前ですね御老体。どうやって、あんなに遠い距離まで銅貨を飛ばすのです。指で弾いただけなのに」
 シー老師の右隣に座った娘が言った。



「こりゃ慎重になった方が良いな。制限時間以内の三時間以内にクリアー出来るかは難しいぞ。あのギロチンの罠以外にも罠が在るかもしれない」
 スカイは歩きながら罠を捜して言った。
 ガタンと後ろの方で音がした。
スカイは音のした方を見ようとした。
 するとスカイの横を杖と呪文書を手にしたコロンがダッシュして走って行った。
 続いてマグギャランが真剣な顔でスカイの横を走ってきた。
 「スカイ罠だ!走れ!」
 マグギャランが叫んだ。
スカイは後ろを見た。今まで歩いてきた床が次々と抜け落ちていった。そして床の底の穴には鋼鉄の槍が無数に生えている。実に大掛かりな作りの罠だった。
 やべぇ!
スカイの足下の床がぐらっと来た。
 落ちるぞ!
 スカイは全力で走り出した。
床がスカイが走り抜けた所から落ちていった、いや、今立っているところも、ぐらっと来た。
「ヒィィィィィィィン!」
 前の方からコロンの悲鳴が上がった。馬の嘶きのような声だ。前の方では次々に壁から回転する丸鋸が突き出されている。丁度脛の高さの所を丸鋸が回転して通っていく。
 コロンは見かけによらず器用に両足でジャンプして避けていた。マグギャランも足をバタバタして避けていた。
スカイも床が抜ける前に刃物ゾーンに突進していった。
 スカイは足下に迫ってくる丸鋸をジャンプして避けながら先へと進んでいった。
何なんだよ、この迷宮競技は!



「迷宮競技だって言うけれど、やっぱり一本道だよ。だって全然分かれ道が無いもん」
 ルルが前の曲がり角を指で指しながら言った。
「ムニィ。クネクネと曲がっている一本道を進むだけムニィ。罠なんか何処にも無いムニィ」
 ニャコが頭の後ろに両手を組んで頭の耳と尻尾を揺らしながら言った。
 「甘いわねルル。ニャコ。フラクター元老院直属の特殊任務班が動いているのよ。そんな簡単な物じゃないわ」
 ウロンが腕を組んだまま右手で眼鏡を上げながら言った。
暫くの間、無言で歩いていた。
「あ、扉だ」
ルルが言った。
「何か書いてある」
 楚宇那が言った。
 「これはルールみたいね。これから先にある迷宮は「三本の鍵の迷宮」と呼ばれる迷宮ゾーンよ。つまりここから先は迷路になる。そして第一チェックポイントに入るための扉を開けるには赤、緑、青の鍵を集めなければならない」
 サファお姉さんが読み上げて言った。
「へぇー、どうなっているのかな」
ルルが扉を開けた。
 「ルル!かってにドアに触ってはダメよ。私が調べてからにしなさい」
 サファお姉さんがキツイ声で言った。
 「え?だって普通のドアだよ。あ、バニーガールだ。宝箱が在るよ」
 ルルはドアの向こうを見て言った。