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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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あの世で お仕事 4

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「六法堂。あんた、時空を間違えたのではないのか? 七百もの人数の内、半数が居る筈の場所に、誰も居ないなど考えられぬわ。」
と、言った。六法堂は、
「私は、自在に時空を行き来出来ます。例え誰かが、少々時空を操作していたとしても、看破る事も出来ますから、時空を間違える事などありません。」
と、答えたが、南大門は、
「いや、時空というものは、複雑怪奇でな。天界のエリートに対して、釈迦に説法かも知れぬが・・・」
と、あくまで自説であるが、と、断りを入れて話し始めた。

かつて南大門が、ある大学の研究所で、一緒に研究をした科学者が居た。仮にその名を、コンちゃんとしておこう。優秀な人物であったが、交通事故で、若くして亡くなった。それから三~四十年後、南大門は、かつての研究所で学問に励む、コンちゃんの姿を夢で見た。その風貌は、死を迎えた若い時のものではなく、明らかに年齢を重ねて居た。
たかが夢というかも知れないが、南大門には、それが只の夢だとは思えなかった。何故なら、夢の中でコンちゃんは、当時の技術では到底造り得ない様な機械を使って、実験をしていたからだ。
勿論、南大門も、以前から荒唐無稽な言動で、お前気は確かか? と本気で心配される様な事ばかりしていた。だから、他人が少々奇抜な事をしでかしたとしても、大抵の事には、順応する能力と柔軟な理解力を持っていた。
その南大門が、どう考えても理解の範疇を越えた機械が、コンちゃんの目の前に在った。コンちゃんは、その機械を自在に操り、彼が目指して居た、超弦型時空移動機を、鼻歌交じりで製作していたのである。死んだ人間が、別の世界で生きて、研究を続ける事など、有り得ぬと考えるのが普通だが、果たしてそうなのか? 南大門は、コンちゃんが、実際に別の世界で生きるとすれば、どの様な場合そうなるのかと考えた。
彼は、それを次元・空間・時間の三つを組み合わせて仮の方程式を作り、更に質量を加えて、またまた仮の方程式を建てた。そして、人間が、死後、別の世界で生前のままの姿形で、新たに生き続ける可能性を見出そうとした。
そして、南大門は、コンちゃんのあらゆるデータを数字に変換し、苦労に苦労を重ねた上、ついに、その二つの方程式を解く事に成功した。
次に南大門は、数字に変換したデータを、再び文字に置き換えた。
置き換えられた文字を見て、彼は、驚いた。そこには、当に南大門が仮説として建てた筋書きそのものが書かれてあったのだ。
彼は、その研究結果を、すぐさま世界に発表したが、その荒唐無稽な発想をした時点から、その研究を無視し続けて来た他の学者達は、当然の如く相手になどしなかった。

宇宙空間には、地球などの星が、多数点在して居る。これは、まぎれも無い事実である。しかし、宇宙は、いうなれば鉄の塊の様であり、空間など存在しないともいえる。それは、宇宙そのものを見る次元が違うからである。
人間の住む三次元の世界から見る場合と、他の次元の世界から見る場合、自ずと物の形は違って見える。例えて云えば、三次元の世界で、非常に枝ぶりの良い木も、他の次元では、枝など全く無い、電信柱の様な形に見えるかも知れない。三次元で、羽が二枚ある鳥は、他の次元では、四枚かも知れない。あるいは、羽の枚数は、偶数でなく、奇数かも知れない。羽が偶数だと、自在に空を飛べない次元も存在し得る。
六法堂は、天には三十三次元まで在る、と話した事がある。その三十三次元が、宇宙のありとあらゆる処に混在している。三次元の空間にも、他の次元が混在している。時として、自らの死が近いと、遠方から縁者の声が聞こえたりするのは何故か。気の所為ではない。その声は、バイパスでも通るかの様に、異次元空間を抜けて、実際に聴こえて来るのである。
「玄関の扉を開けて、中に入り、その扉を閉めると、裏口から出たところだった。」
など、次元の混在する世界では、珍しくない。登れば一週間程も要す、高く険しい山でも、たったの一歩で頂きに立つ事が出来る。
その考え方を発展させれば、見られると都合の悪い事柄など、その気になれば、覆い隠せる者が居るかも知れない。

「それに、六法堂よ。我が一番、という思いを持つ事は、大切ではあるが、また、危険でもある事を忘れてはならぬ。やまちゅうが良いお手本じゃ。奴は、学問など全く見向きもしないが、何時の間にか他国の言葉を話して居る。僅かではあるが、異次元との交信も出来る。何故交信が出来るのかと尋ねると、奴は、『そんな事、知るもんか。兎に角出来るんだ。』と、言い放った。妙な理屈や知識は、時として邪魔になる。自分が持つ、その僅かな知識だけで、全てを見ようとするからじゃ。」
と、南大門に言われて、六法堂は、暫く黙った。橘は、静かに、優しく、
「六法堂様。わたしには、あなたが今、あなた一人で事に当たれたなら、どんなにか易々と使命を果たせるだろうに、と、お考えになって居るのが分かります。南大門様には失礼ながら、年老いた老人と、わたしの様に役立たずの女が居ったのでは、手足をもぎ取られた様な感覚で御座いましょう。」
と、話しかけた。そして、続けて、
「かつて、わたしがお世話になった、安尉慧様が、話して下さいました。 『自分は、幼少の折から、他国で人質生活を送るばかりであった。それは、何時も命の危険と隣り合わせの毎日。周りは全て敵ばかりと思い、気の休まる事が無かった。しかし、ある時、ふとした事で気付かされた、敵を作って居るのは、自分自身であると。戦の無い時は、誰もが優しく、敵味方の区別など無く笑い合った。誰も好んで戦などしては居ない。わしは、力の無い、一郷族の子として生まれ、家臣や領民の暮らしの安泰と引き換えに、一人苦労して居ると思うて居った。が、自分の考えは、間違いであった。無力さが、自分に様々な事を教えてくれたという事に気付かなかったのだ。無力の偉大なる力を知り得た時点で、わしは、新たな自分を見出せた。年端もいかぬ、小僧っ子の自分が、天下を治め、皆が笑い合える世の中を造ろうと考えさせてくれたのは、実は、自分が卑下していた無力さそのものであった。』 と。そして、後年、覗いますれば、安尉慧様は、欣求浄土・厭離穢土の御旗を掲げ、天下統一を成し遂げられたとか・・・」
と話した。六法堂は、顔を上げて、
「橘の話は、南大門の夢よりよく理解出来ます。」
と、笑った。南大門も、負けては居ない。
「何を言うか、六法堂。例え夢であろうが、思い付きというものを、馬鹿にするでない。全て科学は、まさかという様な思い付きから発展・進歩して来たのじゃ。わしなんぞ、飲み屋でネーちゃんと馬鹿な話をして居る時にこそ、素晴らしいインスピレーションを発揮したものじゃわい。」
と、言い、また、
「三人寄れば、文殊の知恵というであろうが。・・ああ、文殊さんは、この世界の方であったか・・・、まあ、それはそれとして、結果を得る事を急いではならぬ。何も考えず、今、為すべきは何かを、共に考えようぞ。」
と、続けた。六法堂は、即座に、
「今、為すべき事は、失った南大門のノートを探し出す事です。」
と言った。そして、何故ノートが重要であるのか、二人に話した。