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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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あの世で お仕事 4

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六法堂が、川に流れたノートの話をするのを聞いて、南大門は、ある事を思い出した。
それは、烈河増の審査室から烈灰川へ行く時の事である。途中、長い隧道を通った際、岩壁に出来た一つの亀裂が、彼の目にとまった。その隧道は、岩を刳り抜いて造られたドーム型で、幅三メートル、高さ五メートルほどの大きさで、列灰川まで真っ直ぐに続いていた。
その隧道の壁の亀裂を見て、南大門は、
(これは、人工的に造られた亀裂では?)
と感じた。所謂、学者の勘である。
南大門は、花崗岩壁の亀裂が不自然だと感じたのだ。岩石には、通常「岩の目」と呼ばれる筋目が在る。大きな岩を、用途に応じて適当な大きさに割る時、その「岩の目」に剃って楔を撃つ。そうすると、最小の力で、岩は思い通りに割る事が出来る。しかし、彼の目にとまったその部分だけは、「岩の目」の理屈を完全に無視して、まるで意図的に造られた亀裂の様だと感じたのであった。
その事は、ノートの行方と直接関わりは無いかも知れない。しかし、全ての疑問に何らかの答えを見出さなければ納得できない南大門は、出来ればもう一度、その亀裂をじっくり観たいものだと言った。
「あの時、後ろの番卒鬼が、怒鳴りつけて、先を急がしさえしなければ・・・」
と、南大門は、科学者の顔になって残念がった。
その話を聞いた六法堂は、どのみち南大門と橘が、回復するにはまだ日数を要すから、その間、ノートの行方をもう一度探しに戻る。そして、その時、隧道の壁も、彼、自らが調べる旨を伝えた。
「それに、青鬼百二十二号が、やまちゅうの情報を手に入れて居るかも知れません。一両日中には帰って来ますから・・・」
と言い残し、彼は、烈灰川へ戻るべく出かけた。

烈灰川を望む小高い岩場で、六法堂は、様子を覗った。一度川を渡って、また戻った事を、鬼どもに知られたら、面倒な事になる。
川では、相変わらず凄惨な光景が展開されて居た。人間達の泣き叫ぶ声が、六法堂の耳に入る。川の熱さに耐え切れず、中ほどにある岩によじ登ろうとする人間を、鬼が情け容赦無く叩き落とす。それでも、また這い上がろうと、もがく人間・・・
六法堂は、鬼達の隙を見て四つの川を飛び越えた。そして、すぐさま南大門が話した隧道へと姿を消した。用心しながら、隧道を逆戻りする。幸い川の方へ向かって来る者は居ない。暫くして、彼は、問題の亀裂を見付けた。南大門の話した通りである。岩壁の「岩の目」は、上から下に向かって斜めに有る。しかし、亀裂は床に対して垂直に下りて居る。明らかに不自然である。
六法堂は、壁に手を当ててみた。すると、亀裂を境に、僅かではあるが、壁の温度が違う。温度が高い方の壁に耳を当てて様子を覗った。
「・・・!」
 彼は、壁の向こうで、何かがうごめく気配を感じた。
(別の通路か、隠し部屋か? それとも、外側の山の形状のせいで、その部分だけ厚さが無く、烈灰川の人間の叫び声が伝わって来るのか?)
六法堂は、亀裂の辺りを入念に調べ始めた。その時、
「其処に居るのは、誰じゃっ!」
と、入り口の方から大声が飛んで来た。振り向いて見れば、番卒鬼が、こちらに向かって駆けて来ている。
「何をしている! 此処でウロウロしないで、早く奥の方へ入らぬかっ!」
と、言いながら、番卒鬼は、六法堂を蹴倒そうと、勢いよく足を振り上げた。咄嗟に身をかわす、六法堂。鬼の足は、空を切り、勢い余って岩壁に・・。それでも鬼は、足の痛みを我慢して、今度は持って居た鉄棒で、殴りかかる。鬼の懐に飛び込み、スルリと鉄棒を避ける。と同時に、六法堂は、後ろから思い切り、鬼の脇腹へ回し蹴りを繰り出した。
「げっ!」
とうずくまり、暫く動けない鬼。
隧道の中の異変に気付いた鬼どもが、次々と両の入り口から駆け付けて来た。逃げ場を失った六法堂は、たちまち鬼どもに囲まれてしまった。彼を覚えて居た鬼が、
「お前、以前、川を渡った人間だな! また逃げ帰って来たのかっ!」
と、怒鳴りながら、鉄棒を振り回す。他の鬼をかわしながら、鉄棒からも逃れる六法堂であるが、どんどん増える鬼の数。徐々に追い詰められる羽目になった。ついに、十五~六匹の鬼どもが、一斉に彼を取り押さえようとする寸前、
「ぎゃっ!」
っと叫んで一匹の鬼が、倒れて動かない。六法堂を囲んだ鬼達が振り向けば、身の丈四メートルの大鬼が、物凄い形相で立って居る。青鬼百二十二号である。
「門番頭様、何という事を! 鬼が、鬼を殺してどうしますか!」
と、番卒鬼が叫ぶ。青鬼、無言で一切構わず、続けて二匹、三匹と番卒鬼を打ちのめす。その場は、鬼同士の修羅場と化した。
青鬼百二十二号の強い事、強いこと。さながら、全盛期のスティーブン・セガールの如く、鈍い音を響かせる度に、バタバタと番卒鬼が倒れて行く。番卒鬼達は、あっという間に、全員息の根を止められてしまった。青鬼百二十二号、呼吸一つ乱さず、
「六法堂様、此処は私が、何とか取り繕います。さあ、早くお逃げ下さい。」
と言った。
六法堂は頷いて、烈灰川の方へと体を向けた。と、振り返る途中、岩壁の亀裂が有った部分に、ぽっかりと穴が空いて居るのが見えた。人ひとりやっと入れる程であったが、中を覗ってみれば、かなりの広さを持った隧道である。
「この様な処に、何故、隧道が・・・?」
と、青鬼百二十二号も驚いて居る。六法堂は、
「私は、この奥を探って見る。お前も知らない様な隧道が何故あるのか、そして、これが何処に繋がって居るのか・・・。兎に角、青鬼百二十二号。お前は、此処を立ち去ったほうが良い。そして、次に南大門たちの処へ行った時、この事を伝えておいてくれ。」
と言い残し、暗い隧道の中へと消えて行った。