沈降
を手の平に感じる。水中銃
が見えた。取り落とした銃を彼は視界にとらえながら必死で手をのばす。あと少し、あともう少し。半分ほどドアの外に出た肩に、やつの鼻面があたる。後10センチ、後5センチ、右手が銃をつかんだ。すかさずグリップを握り直す。銃口を反転させやつののど元めがけてトリガーを引いた。「ドーン」という鋭い反動が右肩を突き抜けた。「パン」乾いた音が水中を通して頭骨を震わせる。矢はサメののど元に突き刺ると同時に、先端の弾頭
を炸裂させた。やつのあごから頭頂部へと散弾が突き抜けた。血が怒濤のように噴き出し、周囲を血の海に染める。中枢神経をたたきつぶされた巨大鮫は、ぴくぴくと体を痙攣させたかとおもうと底へと静かに沈んでいった。 状況は最悪だった。巨大なサメの尾びれの威力は想像を絶していた。ミドルデッキの途中で天井と両サイドの壁が崩れ落ちている。埃が舞い上がりよく見えないが、とても人が入り込む隙間はない。サメとの格闘で跳ね上がったアドレナリンが引き潮のように引いていく。満身の力で扉を押してみるが、残骸が互いに複雑に絡み合いびくともしない。エアゲージを見る。残圧1.2Kg、さきほどの死闘で大量のエアーを消費していた。普通に活動して30分、すぐにでも浮上を開始しなければならない残量だった。彼は必死に頭を整理しようとした。が、閉じ込められた閉塞感でパニックになるのを押さえるのが精一杯だった。じっとしているのに呼吸が異常に荒い。過呼吸になりかけている。目をつぶり、落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせた。後もどりはできない。そうだ、ミドルデッキから上にあがるラッタルは右舷側ではもうひとつあるはずだ。彼は望みを託し、廊下を前進し始めた。10メートルほど進んだだろうか。水密ハッチにぶつかった。この先に上行階段がある
に違いない。だが今まですべて半開きになっていたドアが、ここで初めてしっかりと閉鎖されている。ここから先は誰も入っていない証拠だ。いやな予感がした。回転式のハンドルを握り満身の力を込めて回す。びくともしない。完全にさび付いている。当然と言えば当然だった。60年間も海中に沈んでいるのだ。バールをドアの間に突っ込み思いっきり引っ張る。エアーが急速に消費されていく。残圧計を見る0.5kg、エアーが切れるま
で後10分。なにか方法は、こじ開ける方法は。爆破でもしないかぎり開かない。そう思ったとき彼はひらめいた。彼は急いで艦長室に戻った。あたりを見回す。恐ろしいサメがまだ下に横たわっている。死んでも開いたままの目は不気味にライトに反射されて金色に輝いている。目を背けるようにして下に落ちているものを拾い上げる。水中銃だった。スペアーの弾頭が3本残っていた。矢を装填し、先端に弾頭を装着する。急いでもとの場所
にもどる。蝶番部分を狙い1発目を発射。「カーン」という乾いた音がして水中に火花が散った。びくともしない。2発目を装填。発射。再び火花が散る。今度は見事蝶番が吹き飛んだ。「ガタン」とハッチが下に下がる。後一カ所。最後の弾頭を装着、発射。「ゴトン」という音ともにドアが向こう側に倒れた。次第に息苦しくなるのが分かった。残量が0になりつつある。埃が舞い上がる。夢中で中に飛び込んだ。「ラッタル、ラッタル」、
が見えた。取り落とした銃を彼は視界にとらえながら必死で手をのばす。あと少し、あともう少し。半分ほどドアの外に出た肩に、やつの鼻面があたる。後10センチ、後5センチ、右手が銃をつかんだ。すかさずグリップを握り直す。銃口を反転させやつののど元めがけてトリガーを引いた。「ドーン」という鋭い反動が右肩を突き抜けた。「パン」乾いた音が水中を通して頭骨を震わせる。矢はサメののど元に突き刺ると同時に、先端の弾頭
を炸裂させた。やつのあごから頭頂部へと散弾が突き抜けた。血が怒濤のように噴き出し、周囲を血の海に染める。中枢神経をたたきつぶされた巨大鮫は、ぴくぴくと体を痙攣させたかとおもうと底へと静かに沈んでいった。 状況は最悪だった。巨大なサメの尾びれの威力は想像を絶していた。ミドルデッキの途中で天井と両サイドの壁が崩れ落ちている。埃が舞い上がりよく見えないが、とても人が入り込む隙間はない。サメとの格闘で跳ね上がったアドレナリンが引き潮のように引いていく。満身の力で扉を押してみるが、残骸が互いに複雑に絡み合いびくともしない。エアゲージを見る。残圧1.2Kg、さきほどの死闘で大量のエアーを消費していた。普通に活動して30分、すぐにでも浮上を開始しなければならない残量だった。彼は必死に頭を整理しようとした。が、閉じ込められた閉塞感でパニックになるのを押さえるのが精一杯だった。じっとしているのに呼吸が異常に荒い。過呼吸になりかけている。目をつぶり、落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせた。後もどりはできない。そうだ、ミドルデッキから上にあがるラッタルは右舷側ではもうひとつあるはずだ。彼は望みを託し、廊下を前進し始めた。10メートルほど進んだだろうか。水密ハッチにぶつかった。この先に上行階段がある
に違いない。だが今まですべて半開きになっていたドアが、ここで初めてしっかりと閉鎖されている。ここから先は誰も入っていない証拠だ。いやな予感がした。回転式のハンドルを握り満身の力を込めて回す。びくともしない。完全にさび付いている。当然と言えば当然だった。60年間も海中に沈んでいるのだ。バールをドアの間に突っ込み思いっきり引っ張る。エアーが急速に消費されていく。残圧計を見る0.5kg、エアーが切れるま
で後10分。なにか方法は、こじ開ける方法は。爆破でもしないかぎり開かない。そう思ったとき彼はひらめいた。彼は急いで艦長室に戻った。あたりを見回す。恐ろしいサメがまだ下に横たわっている。死んでも開いたままの目は不気味にライトに反射されて金色に輝いている。目を背けるようにして下に落ちているものを拾い上げる。水中銃だった。スペアーの弾頭が3本残っていた。矢を装填し、先端に弾頭を装着する。急いでもとの場所
にもどる。蝶番部分を狙い1発目を発射。「カーン」という乾いた音がして水中に火花が散った。びくともしない。2発目を装填。発射。再び火花が散る。今度は見事蝶番が吹き飛んだ。「ガタン」とハッチが下に下がる。後一カ所。最後の弾頭を装着、発射。「ゴトン」という音ともにドアが向こう側に倒れた。次第に息苦しくなるのが分かった。残量が0になりつつある。埃が舞い上がる。夢中で中に飛び込んだ。「ラッタル、ラッタル」、