怪我猫看病記 ~ミシェル~
治療開始
娘を連れて、車で10分弱の動物病院に向かった。
ドクターは、開口一番、
「うわ、これはひどいな。何か薬物でもついたか、虐待でも受けたか・・・」
といいながら、点滴の準備を始めた。
抗生剤などを点滴して、食べられるようなら食べさせ、自然治癒力を高めましょう、傷の処置は鎮静かけないと厳しいし、いきなり鎮静かけるとショック起こしかねないし、と交通事故の子のときと同じ様な説明をくれた。
賞味期限の切れかかった試供品や高栄養の療法食のa/d缶を無償で提供してくださった。
ありがたいことだ。
帰宅して、大き目の箱を探し、ペットシーツを敷き詰め、傷に触れないよう気遣いながら、移した。持ち上げられると怖いのか、うなり声を上げるが、高栄養療法食のa/d缶を与えたら、よく食べる。
まずは一安心。でも、これから、また病院の支払いが大変だ。
2007年7月3日
再診。
体重2.5キログラム。
余程飢えていたのか、よく食べていたので、初診のときより、500グラムほども増えた。
鎮静をかけて処置していただくため、数時間の入院となる。
小柄だが大人猫のようだと思ったのは、乳首が大きかったからだ。先住猫のみ~やは、現在、推定7~8ヶ月くらいで、2.7㎏。3月はじめにメスとして成熟する前に避妊手術を受けているせいか、ほとんど乳首はわからないほど。それにしても、大きいのが気になって、まさか妊娠しているなどということはないでしょうね?と聞いたら、先生も、そのことは当初考えていなかったらしく、二人で顔を見合わせてしまった。
可能性はなくもない。あるいは単に経産婦の可能性もあるが。
こんな怪我を負ったから痩せてしまったけれど、本当はもっと大きい子だったのかも知れない。
妊娠しているなら、出産させるのは、母子ともに危険がかなりある。抗生剤も投与されていて、流産や奇形の可能性も高い。
もし、今、妊娠初期だとして、出産までにこのひどい怪我が治るかどうか。
産前産後は、精神的に不安定になるし、包帯を今のように巻かせてくれるか?
五体満足で産まれたとしても、母猫の膿が子猫に付くことは好ましくない。
いずれにしても、もし妊娠しているなら、かわいそうだが子猫は諦めるしかない、というのが、ドクターと私の見解。堕胎手術には耐え得る体力がありそうだとのこと。
ある意味、人間の勝手な都合なのかも知れない。
半年前も、ずいぶん迷った。
静かに、澄んだ水色の瞳で見つめ返されると、小さな命が宿っていないことを祈るばかりだ。
数時間後、傷は、化膿した汚いかさぶたを剥ぎ取られ、抗生剤エルタシン軟膏と組織修復剤ソルコセリル軟膏をガーゼに伸ばし貼り付けて、ぐるぐる巻きにされて戻ってきた。体もきれいに清拭されて、本来の白さを取り戻したようだ。
幸い妊娠してはいないようだとのこと。胸をなでおろした。
傷は、時間はかかるが良くなるだろうとのこと。
良かったね。ミシェル。
毎日、薬の貼付と包帯巻きをすることになった。ドラッグストアと100円ショップで、伸縮包帯、くっつく包帯、ガーゼ、サージカルテープ、それにワイヤーネット、結束バンドを買い込んだ。
ワイヤーネットと結束バンドは簡易サークルをつくるため。
以前保護した交通事故の猫は、獰猛で、看護するにも噛み付く引っかくの大暴れだったが、あれに比べたら、この子は割合、おとなしい。
人に馴れているのか、人懐こいからいじめられたのか?
逃げ出そうとしたことは何度かあるが、うなりながらも、包帯も巻かせてくれるし、それを自分ではずしてしまうことも、今のところほとんどない。ちょっとビビッてはいるけれど、撫でても攻撃してはこない。
傷はかさぶたをあえて剥いだ分、アカ剥けして痛々しい。だが、汚臭はしなくなった。
基本、一日一回のガーゼと包帯換えだが、動いてずれたり、すっぽ抜けることもあり、見つける都度付け替える。暴れることは暴れるので、可能な限り、家人に押さえてもらう。
7月6日
おとなしい子だけれど、今朝ワイヤーネットの囲みから脱走していて、どこへ行ったのかと思ったら、流し台下の扉の中にいた。ガス台下の扉が少し開けっ放し(だらしないのがバレバレ。でも、湿気がこもるのが…と言い訳をしておこう)だったところから侵入し、中で隣のスペースに移動したらしい。
捕まえるときに、ちょっとあばれて、噛まれ、引っ掻かれたが、半年前のロッキーのときのようにはざっくりとえぐれるような負傷はしなかった。扱いやすい子だと言えるだろう。
にごっていた滲出液が黄色い透明になってきた。完全ではないが、化膿は止まってきたようだ。
早く良くなるんだよ。と言い聞かせている。
鳴き声一つあげず、静かに見つめ返してくる。
7月8日
再診に連れて行った。
まずまずの傷の治りで、ドクターも喜んでくれた。
包帯巻きが上手くなったと褒められ、複雑な気分。
内服薬は今日出た8日分で、多分おしまいで大丈夫でしょうとのこと。
抗生剤を飲ませていると、便がゆるくなりがち。少し元気が出てきて徘徊されると、あちこち便や膿で汚れても困るので、簡易ケージを作った。小さいながらも、100均のワイヤーネットで2階建てにして、一階はトイレ、2階はお休み&お食事処としてみた。
まあまあ、なじんでくれたようで良かった。
作品名:怪我猫看病記 ~ミシェル~ 作家名:白久 華也