小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
白久 華也
白久 華也
novelistID. 32235
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

怪我猫看病記 ~ミシェル~

INDEX|1ページ/4ページ|

次のページ
 

大怪我の大天使



2007年6月30日(土)

 夕方、店で接客中に、小5の娘が慌ててやってきた。
 
「緊急事態なの。友達が怪我した猫を引き取ってくれるところ探してるの」
 
 お客様に金額を言いながら、私は、かなり、いらいらしていた。 
 このお客様、来店当初から、連れているワンちゃんがギャンギャン吼えてて、会話が成り立たないほど。 ああ、もう、自分のペットにうるさい!と怒鳴るなら、連れてくるなよー、と心の中で叫んでいた。 動物は好きだが、どちらかというとというか、断然、猫派の私。犬は幼い頃、鼻をかまれたこともあり(珍しい経験だ)、獰猛な奴と、けたたましく吼える奴は、かなり苦手。個性もあるが、猫と違って犬はしつけが肝心な部分も大きいし、やはり、このお客様の愛犬に対する態度を見ていて、しつけの問題なんだろうなと思う。
 接客中だというのに、娘が脇でなにやら言っているのが鬱陶しくて、つい、
「つれてくれば?」
と、うわの空で言ってしまった。

 愛犬に対して怒っているお客様より、内心こちらのほうがよほど切れそうになっているのを押しかくし、
「ありがとうございましたー」
と、にこやかに送り出して、はっとする。


 え? 
 
 振り返れば、娘は、すでに、、猫を迎えに家を飛び出した後だった。
 私ったら、いったい何を???
 うわー、しまった! と思ったが、もう遅い。


 5分としないうちに、娘は友達といっしょに戻ってきた。
 段ボール箱に入れられた、白かったのが薄汚れた風な毛玉。
 だが、見上げてきたその双眸は・・・
 どこまでも澄んだブルーアイ。
 魅入られてしまった瞬間だった。

「ひどい怪我をしてるんです」
 べそをかく娘の友人は、引っ掻かれて血のにじむ手で指差した。
 
 見れば見るほどひどい。四肢のうち三肢がズル剥けし、化膿している。いずれも香箱組んだら地面につく部分だ。 
 昨日今日の新しい怪我ではなさそう。
 なでても怒らないが、傷を見ようとすると、そうとう痛むらしく、低いうなり声をあげる。ぐったりしてはいないが、蒸し暑くなってきているこの気候では、化膿菌が全身状態に関わってくるかもしれない。
 娘の友達の家の車の下に隠れていたのだそうだ。とりあえず保護し、お小遣いでネコ缶買って与えたが、家では飼えないし、どうしたものかと娘に相談したらしい。
 近所で頻繁に見かけたりしていた猫ではないという。
 
 それにしても、普段、たいして仲良くしているわけでもないクラスメートが、何でこんなときだけ、うちの娘なのだ?
 よくよく聞いてみると、以前保護した猫のこと、今飼っている猫のことを作文に書いたので、あそこのうちなら何とかしてくれるかもしれないと思われたらしい。
 半年ほど前、うちの店の前で交通事故にあった猫を保護し、治療に当たったが、どうしても人に慣れない上、外を見て夜な夜な哀しい声で啼くので、外猫に戻したら、娘に泣かれてしまったのだ。
 転校して来たばかりの娘は、クラスになじめず、いじめにもあっていた。懐かない凶暴な猫ではあっても、存在だけで慰められていたのだった。だから、猫用品をそろえてしまったことでもあり、娘が世話をする約束で、ライフボートという所から3月の末に一匹の三毛猫を譲渡してもらった。 
 二匹目を飼う事は、我が家の家計、そして、世話をする手間暇を考えるととても厳しい。今飼っている猫だって、娘が世話する約束であったのに、ほとんど私がしている状態である。家業が忙しく、いつもくたくたに疲れていて、家事も思うようにできないでいる私は、正直、気が遠くなりそうだった。
 だが、つれてくれば?と言ってしまったのも私。

 涙目になっている娘に、今後、こういうことがあっても、これ以上は、絶対無理だからね、と念を押した。友達にも、あえて聞かせた。
 次々に押し付けられてはたまらない。そして、助かる見込みがあるかどうか分からないことも言って聞かせた。以前、保護した交通事故の猫と違い、呼吸が荒いわけでも、骨折しているわけでもないが、菌が回れば急変することだってありうるのだから。
 
 それにしても、我ながら、まったくお人よしだ。
 子供たちが小さかった頃はこういう厄介ごとは引き受けない主義だったのだが。
 自嘲しつつ、なじみになった獣医さんに電話を入れ、診療時間を確認し、暗くなってきたので、娘の友人たちには帰るように促した。

 すでに、ミシェルと名づけられていた。もちろん、私たちが好きな名を付けても良かったのだが、カトリックでは、大天使ミカエル・・・まあ、良いか・・・ということになった。