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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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あの世で お仕事 3

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「どうも目が冴えて上手く眠れない。此処が、表金剛と同じ山なら、あの奇妙な体形の嶺贈琥が居るかも知れない。ロクさん、俺は、あの四角野郎をちょいと探しに行ってくる。」
と、六法堂に言葉を残し、闇の中に消えて行った。

翌朝、焚火の勢いが衰えた寒さで、皆、殆ど同じ頃目が覚めた。
「あ~、良く寝た。熟睡であった。・・お早う、ターちゃん。目覚めはどうかの?」
南大門は、とにかく橘のお陰で、滅法元気である。橘のにこやかな顔を確認した後、
「やまちゅうが居らぬが、用足しにでも行って居るのか?」
と、六法堂に尋ねた。六法堂は、彼が、昨夜何処かへ出かけたまま、まだ帰って居ないと話した。南大門が、
「さては、やまちゅうの奴、わしばかりが、ターちゃんにもてるので、それに嫉妬でもして姿を眩ましたか。」
と、大真面目な顔をして言った。六法堂は、
「さあ、それはどうでしょう・・・。しかし、どうしたのでしょうね。」
と、応え、取り敢えず暫くの間、やまちゅうの帰りを待つ事にした。

(ロクさん。聞こえるかい? 俺だ。)
帰りを待つ六法堂の耳に、やまちゅうからテレパシーが送られてきた。六法堂は、何食わぬ表情でゆっくりと辺りを見回し、聞こえて来た声が、確かにやまちゅうのものであると確信した後、
(やまちゅう、一体、どうしたのです?)
と、尋ねた。
(いや、ちょいと野暮用でね。今、俺は、そこから二つ離れた山の峰に居る。・・・面白いものを見たぞ。)
(何ですか、その面白いものとは?)
(それがな、・・・おっと!・・・兎に角、ロクさん達は、先に山を下りてくれ。な~に、道は分かって居るから、すぐに追い着く。じゃあな・・・)
(やまちゅう!・・)
返事は、帰って来なかった。
(二つ先の山の峰と云えば、五剣ヶ峰だ。少し遠いが、私の能力で「気」を感じる事は出来る。)
六法堂は、全身を集中させ、五剣ヶ峰の気配を感じ取ろうとした。一瞬、大勢の足音の気配を感じた。が、足音はすぐに、盆地から吹き上げる強風に掻き消された。
(・・やまちゅう、何があった・・・)
もう一度テレパシーを送ってみたが、やまちゅうからの返事は、帰って来なかった。

「やまちゅうは、遅いのう。」
南大門も気になって、六法堂に言った。
「はい。既にかなり待ちましたが、帰って来ませんね。・・・仕方ありません。私達だけで、先へ進みましょう。例えどの様な理由であれ、いちいち待たないのが、天界の規則です。」
六法堂の言葉に、南大門は異様な雰囲気を感じ取った。如何に規則に雁字搦めの六法堂の言葉だとしても、何か妙だと思った。
「六法堂、何があったのじゃ? お前、やまちゅうが、何処で何をしているのか知って居るな・・・」
六法堂は、それには応えず、出立の支度をした後、橘を促して山を下り始めた。南大門も、一人残されたのでは何も出来ない。彼は、渋々後に続いた。

裏金剛を下るにつれて、辺りは徐々に薄暗くなって行く。山頂付近の強い風をも、幾らか和らげていた木々の枝も、麓に近付くに従い少なくなってきた。二合目辺りからは、枝が殆ど無い枯れ木が立つのみとなり、砂塵を含んだ風が、彼らを狙い撃つ様に吹いて来る。
「そろそろ四門地獄の烈河増です。橘、南大門が吹き飛ばされない様に、しっかり抱えて居なさい。」
と、六法堂は、後ろから来る橘に言った。彼女は、心得て居ますという表情で、しっかりと南大門の手を取り、六法堂を見ながら頷いた。
烈河増の入り口が近くなると、風は益々激しくなった。小粒の石までも跳ね上がって、情け容赦なく、三人に飛礫の嵐を見舞い続ける。
南大門を抱える橘の足取りが鈍る。ともすれば、二人揃って倒れそうになって居る。風は、ゴーゴーと音を立て、砂塵を巻き上げる。その砂塵が、飛礫と共に容赦なく三人を襲う。ついに南大門と橘が動けなくなった。先頭を行く六法堂が振り返って、橘に何か叫んだが、彼女には聞き取れない。
六法堂は、二人が立ち往生して居る処へ走り寄った。そして、近寄りざまに
「はっ!」
という気合もろとも、彼らの頭上を飛び越えた。強風の中で、どすん、と音がした。二人の背後から鬼が迫り来て、まさに橘の襟を掴む寸前であった。間一髪、六法堂は、鬼の顎に蹴りを入れたのだ。
六法堂は、南大門を小脇に抱え、橘の手を引き、
「もう少しの辛抱です。入口に辿り着けば、風は無くなります。」
と、周囲を覗いながら言った。
烈河増の入り口が、目前にある。入口の両側に、枯れた大木が一本ずつ立って居る。その大木を過ぎれば風は止む。
六法堂に抱えられた南大門の足は、宙に浮いて居る。
手を引かれて居る橘が、堪え切れず倒れ込んだが、六法堂は、構わず彼女をズルズルと引きずりながら、枯れ木の間を通り過ぎた。
今までの砂嵐が、まるで嘘の様にぴたりと止んだ。
「ああ、やれやれ・・・。六法堂が、あまりに強い力で、わしを抱えるもんじゃから、息苦しくて、死ぬかと思うた…」
と南大門、地獄の入口まで来ても、未だ死んだという自覚が無い。
「仕方ありません。あそこで鬼に掴まれたなら、放り投げられて、また金剛山に囲まれた盆地に逆戻りしていたところです。」
と、六法堂が言った。橘は、
「それでは、私も以前、一度は此処まで来て居たのですか?」
と尋ねた。
「あの盆地で彷徨って居る者みんなが、ここから投げ返された訳ではありませんが、橘の場合は、あなたの言う通りです。」
と、六法堂が答え終わるのと殆ど同時に、
「こらっ! 其処で何時まで話して居る! 此処こそ正真正銘の地獄の一丁目。わしは、泣く子も黙る門番頭の青鬼百二十二号である。後が閊えて居る。早う先へ進まぬかっ!」
と、天を揺るがす程の大声が響いて来た。
見れば身の丈四メートル近い鬼が、三人を睨みつけて居る。
大鬼を見た驚きで、気を失いかけて倒れそうになる橘を抱き止めて、六法堂は、
「うん。なかなか真面目に職務を遂行致して居る。」
と呟いた。それを聞き咎める、青鬼百二十二号。
「何をブツブツ言って居る! さっさとその女子を担いで、奥へ入れっ!」
そこへ、南大門が口を挿む。
「う~ん。・・・これは大きい。・・・おい、あんた。身の丈はどれ程じゃな?」
青鬼百二十二号、一瞬きょとんとしたが、思い直して、
「じじいっ! 下らん事を言わず、さっさと命令に従え!」
「体重は、如何ほどじゃな?」
まったく以って、懲りない爺さんである。青鬼、益々怒って、
「黙れっ! くそじじい!・・・わしの身体検査など致し居って・・・。これ以上、つべこべ言うと、審査室を素通りさせて、皆が最も恐れる烈灰川へ、三人とも行かせるぞっ!」
「何じゃな? その烈灰川というのは? 三途の川の他にも川があるのか? それは是非とも行って見たいものじゃのう。・・で、何処をどの様に行けば良いのじゃな?」
と、見れば南大門は、その大鬼の姿をノートにスケッチしながら、話して居る。泣く子も黙るどころか、至って平然と、しかもその怖さに驚くのではなく、別の意味で驚いて、あれこれ聞いてくる南大門に、大鬼は、
「ううっ、これではまるで示しが付かぬわ! おいっ、この者達を即刻烈灰川へ連れて行けっ!」
と、背後で控えて居た番卒鬼に命じた。六法堂は、