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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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あの世で お仕事 3

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「それは、いけません。此処に来た人間は、全て審査室で生前の罪業を再調査する筈です。この爺さまは、少々好奇心が旺盛なだけです。」
と、相変わらず冷静に言った。それを聞いて大鬼は、
「一応、お前の言う通りじゃが、あまりにも、鬼を鬼とも思わぬお前たちを見て居ると、わしもイライラして来る。」
と、やや落ち着きを取り戻して話した。六法堂は、
「あなたの気持ちは、私には、よく分かります。しかし、規則は守らねばなりません。私たちは、審査室での再調査を要求します。」
と、きっぱりと言った。言われた大鬼も妙に納得して、三人を審査室へ届ける様、命じ直した。
六法堂の要求通り、三人は、審査室へ連れて行かれた。しかし、何処でも同じ事。南大門の鬼を食った様な、すっとぼけた質問責めと、六法堂の落ち着き払った態度のせいで、全員烈灰川行きと宣告された。割が合わないのは、橘である。二人が原因で彼女まで、烈河増で最も過酷な川を通って、八熱地獄へ行く事になってしまった。
三人は、鬼に後を追われながら烈灰川へ着いた。
其処は、見渡す限り岩山が連なり、山間を四本の川が流れて居る。流れて居るのは、溶岩と見紛う程、真っ赤な色をした灰である。それぞれの川には、既に大勢の人間たちが、灰の熱さに悲鳴を上げながら流されて居る。四本の川は、平行に並んで居る。そして、手前の川幅が最も広く、灰の流れる勢いも激しい。烈灰川である。川幅は、遠くにあるもの程狭くなり、流れも緩やかである。
人間達は、生前の罪業の重さに依り、何本目の川から渡るかを決められる。
烈灰川の様子が、あまりにも凄惨なため、人間達は川辺で足をすくませる。それを、鬼達は、情け容赦なく首玉を掴んで、川の中に放り込む。熱さに耐えかね、絶命する者が続出する。絶命した者は、気付けば川辺で息を吹き返して居る。そしてまた、鬼達の手に依って、灼熱の川に投げ込まれるのである。

「さあ、早く川に飛び込めっ! いちいち手を煩わせるな!」
番卒鬼が、後ろから急かす。
「ちょっと待ってくれんか? もう少しで終わる故。」
南大門は、しきりに烈河増の情景をノートに記録して居る。
「うるさいっ! お前たちは、此処へ来た時から面倒の掛けっ放しだ。素直に入らないのなら、俺たちが放り込むぞ!」
「そこを何とか・・・あと僅かなのじゃ。ほれ、この通り。もう九十五パーセントは終わって居るであろうが・・・。何なら、この若いのから放り込んでくれ。その間に仕上げる故・・・」
と、南大門が、六法堂を指差して言う。
「口数の多いじじいめっ! こうしてくれるわ!」
と、怒った鬼は、南大門が大切にしているノートを川に投げ込んだ。
「ああっ! なっ、何という事をする! わしのノートが・・・」
と南大門は、ノートを追いかけて自ら川に飛び込んだ。
「うわっちっちっ! ノートは、何処じゃ~うわっちっちっ!」
烈灰川の熱さは、並大抵のものではない。もがきながらも、ノートの行方を必死で探す南大門。六法堂が、灼熱の川に飛び込んだ。橘も、意を決した形相でそれに続いた。

南大門と橘は、川辺で蘇生した。鉄をも溶かすかの如き、熱さの記憶だけが残って居る。思わず全身を見回したが、傷は何処にもない。川に飛び込む前と全く同じ状態である。
「おお、ターちゃん。・・・生きて居ったか・・・・。それにしても、熱かった・・・。う~む、あの熱さを何に例えようか? ・・・っ! わしのノートは何処じゃ?」
南大門は、肌身離さず持ち歩いていたノートの行方が気になって、辺りを探し始めた。そこへ番卒鬼が近付いて来て、
「じじい! まだ懲りずにノートを探して居るのか! そんなもの、とっくに川下へ流されて居るわ。尤も、灰の熱で溶けて、跡形も無くなって居るであろうがの。」
と大笑いした。そして、
「どれ、またぞろ熱い思いをして貰おうかの。じじいも、其処の女子も覚悟せい!」
と、二人の襟首を掴んだ。そこへ番卒鬼の背後から、
「待てい!」
と、誰かの声が飛んで来た。振り返って見れば、其処には、烈河増の門番頭である青鬼百二十二号が立っていた。
「これは、門番頭様。一体、どうして此処に?」
と尋ねる番卒鬼に、門番頭は、
「うむ、入り口で御託を並べて居った、こいつらが気になって見に来たのだ。」
と言った。番卒鬼は、
「はい。まったくこいつらときたら、まともな怖がり方をするのは、この女だけでして、このじじいと言い、もう一人の若いのと言い、此処を物見遊山の場と勘違いして居ります様で・・・」
と、報告した。
「やはり、そうか。鬼を鬼とも思わぬ奴らじゃ。どうじゃ、番卒。こいつらの仕置きを、わしに任せてくれぬか? 入り口での、こいつらの鬼に対する不遜な態度に、腸が煮えくり反って居るのじゃ。一人ずつ放り投げて、あの山の岩壁に叩きつけてくれるわ。」
と、門番頭は、怒気を含んだ表情で、南大門と橘を睨みつけながら言った。
それを聞いた番卒鬼は、驚いて、
「しかし、門番頭様。あなたの力で投げ飛ばされたら、こいつらは、粉々になってしまいます。それに、あの山は、烈灰川よりも更に過酷な責め苦が待って居る処。余程の悪人でない限り、あの山は素通りさせる事になって居ります。私の記憶では、秦の始祖である思考停止が投げ飛ばされて以来、見た事がありません。何もそこまで為さらずとも・・・」
と言ったが、門番頭は、益々凄みを持たせた形相で、番卒鬼を睨み、
「お前が、その様に手ぬるい態度だから、わしが、此処まで来なければならぬのだ! 次々と来る人間どもへの見せしめの為にも、こいつらを投げ飛ばして、塗炭の苦しみを味わわせてくれようぞ!」
と、言うが早いか、まず橘の襟首を掴み、尖った岩肌を見せる山へ、彼女を投げ飛ばした。周りで見て居た人間達から、悲鳴にも似た叫びが出た。そして、門番頭は、
「じじいっ! 今度は、お前の番じゃ!」
と南大門の方へと振り返った。が、南大門が見当たらない。青鬼百二十二号、キョロキョロと南大門を探し、そして見付けて、
「じじいっ! 手間のかかる奴じゃ! まだノートを探して居るのか!」
と一喝。しかし、南大門は、門番頭の声が全く届かないかの様に、
「ノートが・・・わしの大切な記録が・・・」
と、辺りを這いずり回って居る。
「何処まで、すっとぼけた奴じゃ! あの岩山へ行った後も探し続けておれっ!」
と、門番頭は、渾身の力を込めて、南大門を投げ飛ばした。そして、高笑いをしながら、肩をいからし、悠々と帰って行った。