小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

あの世で お仕事 3

INDEX|4ページ/7ページ|

次のページ前のページ
 

と、何処をどの様にすれば、そんなにも大きな声が出せるのかという程の大声で、六法堂を呼んだ。
「南大門。それは無理な相談です。やまちゅうも話した様に、此処に居る人間達には、一切の干渉が出来ないのです。」
と、六法堂は、南大門の傍に近寄って言った。しかし、それで諦める南大門ではない。彼は、女性の事となると、まるで人格が変わってしまうのである。
「其処の処を、何とかするのが六法堂、あんたの良い処であろうが。なっ? なっ? 頼む!」
「幾ら頼まれても、規則ですから曲げられません。」
「硬い事を言うなよ。・・・おい、姉さんも一緒にお願いしなされ・・・ああ、聞こえないのか・・・。な~、ろっぽうどうちゃ~ん・・・・やまちゅう! お前も一緒に頼めっ! 見ろ、この姉さんを。行く事も帰る事も出来ず、此処を彷徨って居る。地獄で生前の罪業を清算し、再び人として生まれたからには、真面目に生涯を送り、今度こそ極楽浄土へ旅立とうと硬い決心で閻魔殿を出立したこの姉さんが、道に迷い、旅半ばでお腹を空かし、挙句の果てにこの様な処で死んでも良いのか?」
「この人は、既に死んで居ます。」
「うう~っ・・。こう言えば、ああ言う。埒が明かぬわい。兎に角、何とかこの美しい、色っぽい、わし好みの姉さんと、話が出来る様にしろっ!」
徐々に興奮してきた南大門、六法堂に向かって怒鳴り始める始末。しかし、片や六法堂は、至極冷静に、
「南大門。駄目なものは、駄目なのです。放っておくのが、最終的にはこの人の為なのです。」
と言う。頼めど頼めど、規則だと冷やかに断り続ける六法堂。南大門も、後へは引かない。挙句の果てには、
「それでは、じゃんけんで決めようぞ。わしが、勝ったなら頼みを聞いてくれ。」
と、まあ子供同然の、なりふり構わぬ頼み方までする。
「駄目です。それに、じゃんけんで南大門が何を出すのか、私には前もって分かりますから。」
「ええっ? その様な事、後出しじゃんけんと同じではないかっ! 汚い手を使いおって!」
「まだ使って居ません。前もって分かると言っただけです。」
大人気ない二人の会話に堪り兼ね、やまちゅうが、
「まあまあ、二人とも止めてくれ。」
と、間に割って入り、
「どうだい、此処は一つ多数決で決めよう。小学校で習った民主主義の基本だ。」
と、またこれも、二人と似たり寄ったりのレベルである。そして、また、
「やまちゅうが、どちらに賛成するのか、私には既に分かって居ます。多数決の原理を採用すれば、少数でも正論を述べている私の負けになります。」
と、六法堂が真面目に応えなくてもいいでしょう。だから、やまちゅう、少しムッとして、
「ああ、そうかい。それじゃあ、何かい? ロクさんは、負ける戦はしないのかい? 確かに俺は、宇土の爺さんに味方する。それは、此処で行く先に迷って、彷徨い続けて居る人を見過ごせないからだ。・・・そりゃあ、この姉さんが、ちょっとばかり別嬪だからというのもあるが・・・、人間というものは、そういうものだ。幾ら正面切って正しい事を言っても、心の中が真っ白という訳じゃない。だがな、ロクさん、それで良いじゃないか。一人の困っている人が救われるんだもの。宇土の爺さんは、真っ正直なだけだ。むしろ、それを素直に見せてくれるから、俺は、この爺さんが好きなんだ。あんた、アラモの砦に、負け戦と知りながら駆け付けた、デビー・クロケットにはなれないと言うのかい? 正論や規則も大切だが、分かっていながらも、負けてやる情の方がもっと大切な時だって有るだろう。」
と、一気に捲し立てた。
「・・・・」
六法堂は、やまちゅうの剣幕にやや気圧されて暫し黙った。すると、何処からか、六法堂にだけ聞こえてくる声が・・・。
(六法堂よ。此処は百歩譲って、二人の頼みを叶えてやれ。この様な処で時間を無駄にするでない。確かに割り切れない思いも在るだろうが、これも経験じゃ。人間というものの情、そして、煩悩というものを、お前が少しでも理解出来たなら、多少の掟破りなど、ものの数ではないわ。それに、見るがよい。今、二人は、熱風と寒風が交互に吹きすさぶこの荒涼とした砂漠で、例え、不純な理由からとは云え、他人を思い、熱弁をふるって居る。そして、なにより二人は、今、暑さも寒さも感じては居らぬぞ。これこそ見逃してはならぬ事じゃ。人間と云えども利他亡我になれるという証じゃ。お前も、天界学習殿で学んだであろう、大神は、無知じゃという事を。無知の意味には、二つある。一つは、大神は、これ以上知る事など一切無い全能で居られるという事。いま一つは、大神は、何一つとしてご存知ない大馬鹿者であられるという事じゃ。六法堂、この意味する処は何処にある?
誰しも長所があり、短所もある。ある者は、長所ばかりをひけらかし、またある者は、短所ばかり気にして縮まって居る。それは、長所、あるいは短所が、時と場合に依っては逆転するという事に気付いて居ないからじゃ。
確かに、南大門は、無類の女好きじゃし、やまちゅうは、短気で情に脆く、二人とも危なっかしい。しかし、今は、その彼らの欠点が、一人の人間を救おうとして居るのじゃ。)
何処からか聞こえて来た声の主は、地蔵であった。
六法堂は、姿を現わさぬ地蔵に、深々と頭を下げた。
「なんだい、ろくさん? まさか、爺さんばかりでなく、あんたまで鶏冠に来たのか?。」
あらぬ方向に向かってお辞儀をする六法堂を見て、やまちゅうが尋ねた。六法堂は、
「いや。私は、何時も冷静です。・・・いいでしょう。その女性と話が出来る様に致しましょう。」
と、二人を見ながら言った。
彷徨っていた女性は、突然、彼女の目の前に現れた三人を見て、
「あれ~っ・・!」
と、驚きの声を上げた。南大門が、
「おお、わし等が見える様になったか・・。姉さんや、何も驚いたり心配する事などないぞ。あんたは、今まで、この砂漠で、風に吹かれながら彷徨い続けていたんじゃぞ。じゃが、もう心配は要らぬ。さあさあ、わし等と共に金剛山を越えようぞ。」
と、優しく彼女に語り掛けた。女性は、徐々に落ち着きを取り戻し、地獄までの同行を求めた。
三人は、裏金剛を越えるまで、その女性を同行させる事にした。
南大門は、大喜びで、三十歳程も若返ったかの様であった。さして面白くも無い冗談を連発しては、一人で悦に入っている。六法堂とやまちゅうは、呆れ果てて声を掛ける気にもならない。吹きすさぶ風の方向や温度が変わる度に、
「姉さんや、暑うはないか? 寒うはないか?」
と、まあこまめな事。
その合い間を掻い潜り、彼女は、身の上話をする。
同行する事になった女性は、備後の山村で生まれた。家が貧しいが故に、八歳の時、知人の紹介で、安芸竹原の郷へ奉公に出された。西暦千五百年代後半の事である。それから十年余、酒造を生業とする大店で、賄いの一人として働いた。
彼女が、十九になった年、杜氏として大阪から来て居た男と良い仲になった。それが店の主に知れ、彼女は、店を叩き出された。
当時、酒造りは、ある種神聖なものとされ、特に酒を仕込んで居る期間、男達は、婦女子を避けるべきという風習があった。酒の仕込み中、杜氏を誘ったと、店の主の逆鱗に触れたのだ。