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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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あの世で お仕事 3

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面白くない俺は、大神に文句の一つも言ってやろうかと、宮殿を訪れた。俺が、大神の御前に跪いた時、既に俺の心は見透かされて居た。そして、俺が何か言い出す前に、大神の方からこう話された。
『・・文殊よ。お前は、わたしが、お前を差し置いて閻魔と地蔵を天界の要職に任じた事を、快く思って居ないであろう。しかしな、文殊。確かにあの二名は、お前よりも天界学習殿での成績は劣って居た。しかし、彼らには、それぞれ想う理想が有った。また、その理想を如何に実現させようかと、日々思いを巡らせて居た。だからわたしは、それぞれの理想を実現させるに最も似合いの職を、彼らに与えたのだよ。その様な二人を横目で見ながら、お前は只管勉学に励んで居た。この天界でも、従来の知識を充分理解し、その上で新たなる秩序を構築する事が必要となる日が必ず来るであろう。その職を任せる事が出来るのは、文殊よ、お前しか居ない。出世の早い遅いではない。如何に適材適所を心がけるかだよ。』
とな・・・。それに、もう一つ。如何に天界の者と云えども、失敗という経験をする事が大切じゃと、申された。なあエンさん、あの二人を用いたのが、完全に失敗だったと決まった訳ではないだろう。今、あんたの話を聞いて、おれは、あんたの考えがよく分かった。陰ながら、応援するよ。
なあに、中央議会で騒いで居る年寄り連中の事など、俺に任せておけ。少々の事など気にする様な顔ではなかろうが。」
と、閻魔を元気づけた。閻魔が、文殊に礼を言おうとした時、突然、地蔵が現れて、
「モンちゃん、さすが良い事言うねぇ。」
と、笑った。その場の雰囲気は、たちまち和んで、閻魔、地蔵と文殊は、暫し旧交を温めた。

その日から十日あまり後、南大門、六法堂、やまちゅうの三人は、再び閻魔殿を後にした。
目指す処は、四門地獄の一つ、烈河増である。しかし、その前にもう一度金剛山を越えねばならない。
金剛山は、二つの峰を持つ。所謂、表金剛と裏金剛である。三途の川を渡った後、彼らが越えたのが表金剛。そして、今、向かっているのは、裏金剛である。二つの金剛山の間は、広大な盆地となり、閻魔殿は、その盆地のやや裏金剛寄りの位置に在る。
表金剛を越えて来た人間達は、閻魔殿で地獄行きか、極楽行きの沙汰を受ける。
その後、極楽へ向かう者は、金剛山を一気に飛び越え、至福の浄土に行ける。しかし、地獄へ向かうという事になると、そうそう簡単ではない。閻魔殿から地獄までは、道案内も無く、標識も無い。その中を自分の力で辿り着く以外方法は無いのである。

閻魔殿を出発してから暫くは、木々も繁り、暑さ寒さもそれ程感じない。しかし、裏金剛に近付くにつれ、次第に樹木は少なくなる。そして、砂と土だけの無味乾燥の砂漠地帯となる。其処では、熱風と寒風が交互に吹き、それを避ける岩場も無い。ただただ、気まぐれな風の吹くのを耐えるだけである。少し慣れて見れば、その砂漠を彷徨って居る人間達の如何に多い事かに気付く。やまちゅうが、
「ロクさん。あの人たちは何故あの様に同じ処をうろついて居るんだい?」
と、六法堂に尋ねた。六法堂は、答えた。
「ああ、あの人間達は、閻魔殿を出た後に、自分達の向かう方向が分からなくなってしまったのです。」
「方向が分からないなら、誰かに尋ねるとか、先に進む人に付いて行けば良いだろう。」
「それはそうですが、あの人間達には、他の人間の姿が見えないのです。例え肩と肩が触れ合う程近くに居ても、お互いの気配さえ分からないのです。ですから、何としてでも自分の力で地獄へ行くしか方法は無いのです。」
「そうなのか?・・・地獄へ行くのも楽じゃないという事だな。」
「はい。決して楽ではありません。私の見たところ、此処で最も長く彷徨っている人間は、既に七百三十年にもなろうとして居ます。」
「そうかい。大変なんだなぁ・・・・あれ? ・・・そう云えば、宇土の爺さんの姿が見えなくなったぞ。」
二人は、彼らの視界から外れた南大門は何処? と辺りを見回した。すると、二~三百メートル程後方で、ウロウロして居る爺さまを見付けた。やまちゅうが叫んだ。
「お~い、宇土の爺さん。あんた、そんな処で一体何をしてるんだい。まさか、チーちゃんと離ればなれになった寂しさで、脳の一部に支障を来たして、無意識の徘徊でも始まったのかい?」
やまちゅうの大声が聞こえない筈は無い。だが、南大門は、声の方を見向きもしないで、東南西北、行ったり来たりして居る。六法堂が、やや冗談っぽく、
「どうやら南大門は、新たな研究対象を見付けた様ですね。」
と言った。やまちゅうは、
「ええ? またこんな処で、どんな物を見付けたと言うんだい。まったく、学者という生き物の頭の中は、理解不能だな。」
と、ブツブツ言いながらも、南大門が彷徨っている方へ向かった。やや近付いて見ると、南大門は、何かを追いかけて、右に左に向きを変えて居る。本物の徘徊が始まったのではなかったのだと、やまちゅう、安堵の思いで更に近くへ・・・。
「・・・っ! 爺さん! 一体何をしているのかと思えば、こんな処へ来てまでも、女の尻を追いかけているのかい!」
やまちゅうが、怒るのも無理はない。なんと、うろついている南大門の先には、歳の頃なら三十四~五歳、細身でやや小柄な女性が、
「此処は、何処? ・・・わたしは、だ~れ?」
と、地獄へ辿る道を見失って彷徨っている。見れば、なかなかの美形である。長い髪を後ろで纏め、くるりと巻き上げ、串簪で留めて居る。渋い草色の、無双加賀小紋を着流し、腰の辺りで結んだ細帯。やや腰を落とし、身を七三に構えてよろめく様に歩いている。歩を進める度に、小紋の裾が割れて、淡い櫻色の裾除がチラチラ見える。
「爺さん、また病気が始まったぞ。・・・しかし、爺さんが追い回すのも無理はない。・・・いい女だな~・・・」
と、暫し女性に見惚れるやまちゅう。その間も南大門は、
「姉さんや、何処へ行くのじゃな? ・・・おお、此処は、地獄への道。聞いたわしが迂闊であった・・・わしは、南大門じいちゃんじゃ。・・・さっきから呼んで居るのに、冷たいお人じゃの・・・旅は道連れというであろうが・・・。わしと一緒に、地獄詣でを致そうぞ。・・・・これ、姉さんや・・・」
と、嬉しそうに、彷徨っている女性に声をかけている。
やまちゅうは、美形の女性を追いかけて居る南大門に近付いて、
「宇土の爺さんよ。その人に幾ら話しかけても無駄だぞ。あんたの声は、その人に全く届いていないのだぞ。」
と、必要以上大きな声で言った。南大門、やっと聞こえたらしく、やまちゅうを振り返って見た。そして、
「聞こえて居ない?・・・それは、一体、何故なのじゃ? どーしてなのじゃ? こんなに近くに居りながら、何故なのじゃ? どーしてなのじゃ?」
と、杵つきバッタの様に、矢継ぎ早な尋ね方をした。やまちゅうは、先程六法堂から聞いたままを、南大門に話した。それを聞いて、南大門は、
「ああ~、そうであったのか・・・。道理で何の返事も返って来ない筈じゃわい。・・・・そうじゃっ!・・お~い! 六法堂よ~! 此処へ来て、この女性と話が出来る様にしてくれ~!」