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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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あの世で お仕事 3

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「智深は、休暇で釈迦が王子であった頃の時代を旅行中だ。このところ少し忙しい思いをさせたので、わしが許したのじゃ。」
閻魔は、老学者の心を読み取って言った。やまちゅうが、
「爺さん。折角、智深さんに逢えると張り切っていたのに、残念だったな。」
と、ニヤニヤしながら鹹かった。南大門は、
「折角、わしが見付けた嶺贈琥の事を、チーちゃんに話そうと思うて居ったのに・・・」
と、萎れてしまった。閻魔は、南大門に、
「今、お前が言った嶺贈琥とは、一体何じゃ?」
と尋ねた。六法堂が、
「それは、金剛山で遭遇した、奇妙な生き物でして・・・何と申しますか、重力の法則に逆らった様な体形を持ち・・・」
と、説明した。閻魔は、やや驚いた様子であった。そして、
「・・・・・う~む・・・ハルコが出たか・・・」
と、呟きながら、ゆっくりと窓辺に歩み、手を腰の後ろに組み、暫く金剛山の方向に茫洋とした眼差しを向けて居た。
六法道の説明を聞いた閻魔の様子が少々解せぬと、彼は、陰陽を振り向いた。陰陽は、ゆっくり頷いて六法堂にテレパシーを送った。
(私も、随分以前に一度だけ父から聞いた事がある、金剛山に箱の様な姿を持つ、ハルコと呼ばれるものが、棲んで居ると。だが、話してくれた父も、実際にハルコを見た事は無い様であったし、それ以上の事は、何も語らなかった。だが、その時の父の様子が普段のそれと比べて、一種異様ともいえる別の何かを私に感じさせた、丁度、今の閻魔様の様にな・・)
(陰陽でさえ、よく知らない話だとすると、この閻魔殿に居る者は、閻魔様以外、誰も知らないでしょうね。)
(さて、それは兎も角として・・・ハルコは、今回の六法堂たちの使命に何か関わりが有るのでは?)
陰陽と六法堂のテレパシーのやり取りは続いて居る・・・。
その間、南大門は、ヘナヘナと床に座り込んで、一人何か呟いて居る。
「・・・嶺贈琥は、新種の生き物ではなかったのか・・・。ああ、二重の災難じゃ・・・。チーちゃんといい、学名、リ・フレジレタ・スリドア・スクエアといい・・閻魔さんは、どうして余命幾ばくも無い(完璧に死んだ事を忘れて居る)、この年寄りを虐めるのじゃ・・・・チーちゃ~ん・・・・・れいぞうこ~・・・。チーちゃっ。。。!・・。おおっ、そうじゃ!こうしては居れんわい。なあに、例え嶺贈琥が新種の生き物では無くとも、やつが絶滅寸前の貴重な研究材料である事に変わりはない。
・・・ちーちゃん。わしは、めげぬぞ。きっと、あの嶺贈琥の生態を暴いて、わしの輝かしい研究実績の一つに、必ず加えて見せるぞ。さて、そうと決まれば早速金剛山へ出立じゃ。」
と、南大門は、呟きの声を次第に大きくして、新たな研究課題を勝手に創り上げ、威勢よく立ち上がろうとした。が、あまりにも威勢が良すぎて、立ち上がる途中で、
「ううっ・・・痛~っ!・・・こ、腰が・・・足が吊る~・・・」
と言いながら、再び床に倒れ込んだ。やまちゅうが駆け寄り、南大門を抱えながら、
「爺さんが、智深さんの顔を早く拝みたいと、年甲斐も無く急いで歩き過ぎたから、足や腰が痛くなるんだ。・・まったく、自分の歳を考えろよ。」
と、呆れ顔で言った。六法堂もそれを受けて、
「その様ですね。確かに山を下りてからの南大門は、我々よりも速く歩いて居ました。その無理が祟った様です。」
と、言った。
南大門は、そのまま係りの者に依って、閻魔殿の救護室に運ばれて行った。
六法堂は、ハルコに付いて閻魔に訊ねたかったが、恐らく閻魔は話してくれないであろうと思い、質問を思い留まった。

賽の河原での負傷に続いて、南大門、またしても災難。
ほぼ全身に膏薬を貼り、少なくとも十日間の治療を要すと診断され、その間歩行禁止。車椅子での暮らしを余儀なくされた。
しかし、朗報が一つ。
彼が、治療病棟に運ばれたその二日後、休暇を終えた智深が帰って来た。南大門、大喜びで、看護師に車椅子を押させて、連日連夜閻魔の執務室に現れる。現れては、やれチーちゃんどうだの、それチーちゃんこうだのと、うるさい事しきり。
閻魔も堪りかねて苦言を呈すが、聞く耳持たぬ南大門。
ついに閻魔は、
「爺さまの面倒を、暫しの間看るように。」
という、新たな任務を智深に与えざるを得なかった。
閻魔のお墨付きを貰った南大門、益々良い気になって、智深が押す車椅子で閻魔殿をうろつき回る。
その様は、天界中央議会にも知れる処となり、実情調査、及び、弱冠閻魔に苦言を呈す為に、文殊菩薩が派遣されて来た。
「エンさん。このところ、閻魔殿の風紀が、少しばかりおかしな具合だね。」
と、執務室で、閻魔と二人だけになった文殊は、やや笑みを浮かべながら言った。
閻魔も実は苦り切っている。地獄の秩序を、従来の整然としたものに戻そうと、南大門に白羽の矢をたて、やまちゅうを人間界から無理矢理呼び出した。そして、取り敢えず賽の河原の秩序は、六法堂と彼らの働きで何とか戻った。
しかし、三人が再び閻魔殿に戻ってからの日々は、例えその日数が僅かとは云え、閻魔にとっては、他の者たちに示しが着かない状態なのだ。
「あの宇土南大門。生前あれ程までに女子に目が無かったとは、報告書を読んだだけでは分からなかった。やはり、此処に来たばかりの者を、必要以上に期待したわしの落ち度じゃ。モンさん(文殊菩薩)よ、大神は、さぞかしお怒りで居られるであろうのう。」
と、閻魔は、文殊に語った。そして更に、彼は本音を語る。
「わしはなぁ、モンさん。閻魔の職を拝命して、以来、今日まで、数多くの人間達を此処で裁いて来た。その中には、大神の本当のお気持ちも知らず、人間界で悪の限りを尽くした、どうしようもない者どもも居る。その様な輩に対しては、わしは、涙をのんで、それこそ非情なまでに重い裁きを言い渡して来た。しかし、わしは、思うんじゃよ、いずれこの閻魔殿など無くなった方が良いとな・・・。わしら天界の者が人間を裁くのではなく、人間界で人間たち自身が、それぞれ我を顧みながら生活をして、もしも罪の意識を少しでも感ずる事が有れば、彼ら自らそれを修正し、罪業が無くなった時、自ら望んで向後の憂いなく、天界に登って来るべきだとな。・・・この度、南大門とやまちゅうに、地獄の粛清を任そうと思い至った最大の理由は、わしの思い描く世界が、絵空事なのかそうでないのか、彼らの行いで試して見ようと思ったのじゃよ。
あの二人、それぞれが人間として素晴らしいものを持ち合わせてはいるが、また、反面、見るに忍びない程の汚さも、同時に持っている。
その彼等が、今回の仕事をやり遂げる事が出来た暁に、はたしてどの様に変わっているか・・。わしは、ある意味期待を込めて、その変化を見守ろうと思っているのじゃ。」
閻魔の話を聞いた文殊菩薩は、
「エンさんは、一見、其の筋の大親分かと見紛う程の、その物凄い顔に似ず、昔から正義感が強く、そして、理想家だった。前回、閻魔の席が空いた時、てっきり後任は俺だと思って居た。だが、大神は、エンさんを使命なされた。地蔵の時もそうだった。地獄から人間界に至るまで、生きる為にうごめき苦しむ者たちを救う。その役目は、俺にしか出来ないと思って居た。しかし、またしても大神は、地蔵を使命なされた。