「夕美」 第八話
俊之とのように甘えてはいけないと冷静な自分を演出するとホテルのロビーで雅子は自分に言い聞かせていた。荷物を部屋に入れて、薄暗くなっていた海を見ながら乾杯をして食事を済ませた。
部屋に戻ってきてテレビを見ながら、アメリカでの話を雅子は訊いていた。どれぐらい時間が経っただろう、誠一郎はシャワーを浴びると言って立った。バスタオル一枚で戻ってきた誠一郎と入れ替わるように雅子もシャワーを使った。
もちろんバスタオルだけで誠一郎のそばに来てベッドに腰掛けた。
「あなた・・・久しぶりよね、こんなふうにするだなんて」
「そうだな。今日の雅子は別人のようだ。ドキドキするよ・・・」
「恥ずかしいわ・・・もうおばあちゃんだもの・・・」
「何言っているんだ、そんな風には見えないぞ」
「私ね、仕事始めてからいろんなことに気付かされたの。あなたのこともっと理解しないといけないって。お金を稼ぐことの難しさとか人間関係の気遣いとかも解ったわ。これからはしばらく仕事続けたいので行き渡らない事があるかも知れないけど、たまにはこうして仲良くしましょうね」
「雅子は本当に変わったな・・・付き合っていたころのようだ。おれも仕事で忙しく家のことが出来ないかも知れないけど、時間を必ず作ってこうして仲良くするよ」
もうそのあとは言葉はいらなかった。バスタオルを脱ぎ捨てて、数年、いや十数年の空白を埋めるように激しく求め合い、冷静で居ようと決めていた雅子も、部屋中に響くような大きな声を出すようになっていた。