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靴ベラジカ
靴ベラジカ
novelistID. 55040
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Ungebetenen Gast 招かれざる客

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無骨な岩肌を、瀟洒な結晶が容赦なく突き破る。
小さな採掘所であるカーロッテ坑道は時に、容赦なくナンターレにおける
縮図の一つを客人に見せびらかす。

金も地位も学もなく、体力だけを持ってしまった男達が最後の夢を見る地。
少し入れば陽の光も届かず、明かりがなければ瞬く間に蝙蝠の闇に飲まれ、
備え無しに深入りをすれば砕けた原鉱に喉を冒されるばかり。
それでも鉱夫達は招かれざる客を、頼りないランタンの光でも眩く輝く金銀を、
家族の為、金の為、或いは夢の為。
その手に迎い入れる日を待ち続けていた。

しかし今日は少々様子が違う。
目も眩む閃光、反響する爆発音。
血生臭い花火と共に、赤子程はある巨大吸血蝙蝠の半身が吹き飛んだ。

 「な、何も、ここまでしなくたって」
 「ほっときゃ鉱夫が死ぬよ。 もちろんティカも」
レミーは無残な死骸を横目に言う。 手に持つくの字に折れ曲がった奇妙な物体から一つ、
金物の小さな円筒が音を立て零れ落ちる。
彼によるとこの代物は拳銃と言って、大砲を小さくした護身の為の武器らしい。
ティカは昔からある兵器を小さくした、と言われても実感が湧かなかったが、
これを目の当たりにして背筋にぞっとした、大きく冷たいものが触れた寒気を感じた。

そもそもは村の夫人から、書き物の為に石筆をかご一杯ほど
調達して欲しいと頼まれた事から始まる。
石筆とは鉛筆や、ペンとインク、またはチョークを
揃える事の出来ない者が代わりに使う筆記具の事だ。
行商が売っていれば何の苦労もなかったが、数日前村を訪れた時には品切れだった。
無論鉛筆もチョークも売っていない。 そもそもアベントロートのような
辺境の地まで、そんな便利な品が売れ残る筈も無い。
結局ティカ達は手間がかかるが、自力で石筆を作る為に
まずは材料の蝋石を調達するべく近場のカーロッテ坑道を訪れたのだ。
震える手を先輩の視界から隠し、ティカは
可愛らしい普段着に似合わぬ、使い込まれた鶴嘴を杖にして問う。

 「それで… 蝋石っていうのは、どれ?」
 「蝋燭っぽい色のやつ」
坑道の壁に点々と吊り下げられたランタンの灯りを頼りに彼女は見遣る。
岩肌と明らかに違う質感の石が確かに埋まっているようだ。
が、どれもこれも均一に光っているようにしか見えない。

 「レンタル料取られてんだ、手当たり次第もらって行くよ」
鶴嘴をいかにも面倒臭そうに、気だるげに振り下ろしながらレミーは零す。
少女も慣れないながら、石目がけて鶴嘴を振りかぶった。

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