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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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あの世で お仕事 2 (三途の川)

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南大門に至っては、老婆を含む他の三人など全く眼中にない。彼は、記録し残した賽の河原の事が、気になって仕方がない。立ち止まっては振り返り、しきりにノートに書き記す。そして、三人のうちの誰かから、早く、速くと促される。
屋敷の門前で三人は立ち止まった。遠目で見ても、その建物は半端なく大きいと分かったが、改めて近くで見れば想像以上であった。周囲を高さ二間はゆうに有る塀に囲まれ、中央には、一面朱塗りの馬鹿でかい門。
「へぇ~・・・、こりゃ、見事なモンだぞ。・・おい、ロクさん、分かるか、今のダジャレが・・? この門に比べりゃ俺の檀家寺の門なんか、子供騙しの玩具同然だぞ。」
と、やまちゅうが、わざとらしく驚いて見せた。
それもその筈。その建て方は、五間三戸の入母屋二重造り。中央の扉が、両側の扉より一回り大きい。その中央の扉の上方に、鳳凰の透かし彫り。更に上はと見上げれば、高欄を張り巡らせて、二段の斗キョウ。尾垂木は、六角形の詰組である。
門に見入って居るやまちゅうに老婆が、
「お前さん、立派な門に気を奪われ過ぎて、あれが目に入らないのかえ?」
と、門前を指差しながら言った。やまちゅう、
「えっ? 他にも何か素晴らしい細工でも有るのかい?」
と、尋ねると、
「ほらっ、あの扉の前をご覧よ。」
と、老婆は、向かって右側の扉を指差した。
「・・・な~んだ。赤鬼じゃないか。お前、門番かい?・・朱塗りの門に紛れ込んでさっぱり気付かなかったぞ。」
と言って、門前の石段を駆けあがり、さっさと中に入って行った。続いて六法堂、しっかりとした足取りで、悠然と石段を上がり、門の敷居を跨いだ。その時、
「わっ!・・・・痛っ!・・・・・う~っ・・・」
という南大門の叫び声、続いて呻き声が聞こえて来た。彼は、賽の河原の記録に目を通しながら、門前の石段を上がって居た。そして、ノートに気を取られ、三~四段目で、石段を踏み違えて転げ落ちたのである。
唸り声は、続く。しかし、南大門の目はぱちりと開き、まだノートを見据えて居た。さすが生前世界に名立たる大学者であった片鱗を覗わせた。そして、痛みを堪えながら、
「う~む。・・残るは鬼の待機所の屋根瓦の枚数だけじゃが・・・。う~っ・・痛い・・一体、何がどうなったのじゃ?」
と、おおよそ周りの者達が想像もしない様な言葉を吐いた。
南大門の叫び声で、屋敷の中から戻ってきたやまちゅうが、
「爺さん、大丈夫かい?」
と、尋ねたが、彼は、
「何が大丈夫なものか・・・、お前達が急かすから、屋根瓦の枚数が確かめられなかった・・・。う~っ・・・宇土南大門、不覚であった・・・」
と、まるで頓珍漢な受け答えをした。
兎にも角にも、倒れ込んでいる南大門を放ってもおけず助け起こした。彼は、その時点で、自分が転んだ事にやっと気付き、
「どうやら足を挫いたらしい。一歩も動けん。」
と言い出した。やまちゅうは、六法堂の顔を見た。六法堂の顔には、私は南大門を担げません、と書いてあった。やまちゅうは、
「仕方ない。」
と呟いて、
「おい。其処の赤鬼。ちょいとこの世話の焼ける爺さんを中まで担いでくれ。」
と、門番の鬼に言った。これを聞いて老婆は、ついに堪忍袋の緒が切れた。
「黙って聞いてりゃ、何て事を言い出すんだっ! じじいが歩けなくて屋敷の中まで入れないのなら、此処で話を付けようじゃないかっ!」
と、捨て台詞を残した後、中に向かって、
「おおい! 手の空いている者は、皆、出ておいで!」
と大声を張り上げた。間もなく中から、袢纏を背中から掛けた、昔の其の筋の親分の様ないでたちをした老人が、大勢の鬼達を引き攣れて、門前に出て来た。老婆は、親分然とした老人に事の経緯を話して、
「だからこいつらを、此処へ連れて来たのさ。」
と言った。
親分然とした老人は、殊更凄みを利かせ、三人に桟敷の席料を支払う様に迫った。そして、お決まりの台詞、
「それともお前さんたち、痛い目にでも逢いたいのかい?」
で締めくくった。六法堂は、
「法外な請求は受け付けないと言っているだけです。」
と、至って冷静に応えた。親分然は、
「一体、何処が法外なんだ? 俺の女房が話した様に、昨今、物の値段は上がる一方。年老いた女が、あの桟敷と此処の調理場を行き来する間に、ちょいと値段が高くなる事だってあるだろう。俺達だって元値を切っては商売にならない。年老いた夫婦が、細々と倹しい暮らしをする為さ。黙って払って行きな。」
と、一応、尤もらしい御託を並べた。
「この様に立派な屋敷に住みながら、倹しい暮らしだなどとよく言えますね。おまけに大勢の鬼達まで飼っている。あなたの話す内容と実情は、随分かけ離れて居る様ですが? 此処であなた達が、考えを改め、全うに人間達の世話をすると約束すれば、多少の事は目を瞑りましょう。しかし、これ以上御託を並べるなら許せません。」
と、六法堂は、親分然の顔を見据えたまま話した。親分然は、ゆっくりと彼の周りに居る鬼達を、意味ありげに見回した後、大声で笑った。そして、
「若いの。どうしても俺の言う事が分からない様だな。」
と、六法堂に言い、鬼達に向かって、
「おいっ! この三人を、ちょいと可愛がってやれっ!」
と、叫んだ。親分然の号令一過、鬼達は、どっと三人を取り囲んだ。それを見て六法道が、
「ここは、私一人で充分です。それに、南大門は老人だし、転んだばかりで動けない。・・やまちゅう、南大門を隅の方に運んで下さい。」
と、あくまで静かな調子で言った。そして、やまちゅうが、南大門を塀の傍にある大木の根元に座らせるのを見届けた六法堂、
「さあ、お相手致しましょう。手加減無用!」
と、静かではあるが、凛と言い放った。

六法堂は、門前の広場の中央に構えた。
通常、一人が大勢を相手に戦う時は、壁、あるいは大木などを背にして、敵が背後から攻撃するのを避ける。
しかし、六法堂は、広場の中央で静かに立っている。鬼達は、彼一人を取り囲んだ。しわぶき一つ無い静寂が束の間続いた。六法堂と彼を囲む鬼達の距離は、およそ五メートル。鬼達は、鉄の棍棒、鋼の青龍刀を持ち、じわりじわりと六法堂の周りで円を描く。その輪が徐々に小さくなる。
間合いも好しと、一匹の鬼が、六法堂の背後から、気合もろとも鉄棒で大上段に打ちかかる。六法堂、すかさず右足を一歩前に出すと同時に、腰を落とし、体を反転させながら、打ち込む鬼に備えた。鉄棒は、空を切り、ズンと音を立てて地面にめり込む。目の前で、前のめりになった鬼の脇腹に、六法堂の正確無比な突きが入る。「ぎゃっ!」
と、声を上げて倒れ込む鬼。その鬼を飛び越えて、六法道は、正面で構える別の鬼に向かう。低い姿勢から鬼の懐へ潜り込み、近い距離から鳩尾へ拳を一撃。手にした武器を地面に落とし、
「う~っ!・・」
と、うずくまる打たれた鬼。六法道は、間髪入れず、隣の鬼の手首を掴み、
「はっ!」
という短い掛け声と供に、掴んだ鬼の手を真下に引く。手首を中心に鬼の体は弧を描き、地響きをたてて地面に叩き付けられる。声も出ず気絶する鬼。
その場は、兎に角、六法堂の独壇場。鬼達が何匹居ようと物の数ではない。たちまちのうちに、鬼達の無残な姿があちこちに出来た。