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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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あの世で お仕事 2 (三途の川)

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(ロクさん。今、怒鳴ったら駄目だ。あんた、真っ直ぐなのは良いが、それも時と場合に依る。悪い事をしているのは、この婆ぁだけじゃないかも知れない。此処は婆ぁに付いて行って、様子を見よう。)
言われて六法堂、それもそうだと考え直し、
「そうですね。特にお爺さんには、休息が必要な様です。お婆さん、金に射止めは着けません。案内して下さい。」
と言った。
「おうおう、それは、また豪勢な・・・。それに、お兄さん、よく見ればすらりとした立ち姿と云い、きりっと締まった顔立ちと云い、いずれ何処かの高貴なお生まれの方だったのでしょう。」
と、老婆は、最高の愛想笑いと供に言った。
「当たり前だ。俺の兄貴だもの。二人とも、何処となく品があるだろう。」
「・・・・・」
「どうした、婆さん。俺の言った事には何も答えないのかい・・?」
「兎に角ご案内しましょう。さあ、私に続いてどうぞ・・・」
老婆の後に三人は続いた。

「三人さん、イの七番の席へどうぞ。あそこが、河原を一番よく見渡せる席ですよ。」
さあさあどうぞと薦められるがままに、席に着いた。
丘からのなだらかな法面を利用して、桟敷が段々に設けてある。既に、大勢の人間たちが、河原で繰り広げられている子供と鬼の際限のない追いかけっこを、やんやの喝采と共に見物して居た。
小石を積みながら、子供たちが歌っている。

 とうちゃん恋しや ひとつとな~
 かあちゃん恋しや ふたつとな~

 おさない おいらは ひとりして~
 ここで こうして 石あそび~

 いくら つんでも きりがない~
 たかく つめたと おもったときにゃ~
 おにが かけつけ すぐこわす~

河原で石積みをしている子供たちの数は、半端なく多い。皆、ザンバラ髪に薄汚れた顔、裾の短い綻びた着物姿。中には裸足の者も居る。
「まるで、東南アジアの貧民街そっくりじゃ。」
と、その光景を見て、南大門が呟いた。
鬼達は、目を光らせ、小石を高く積んだ子を見付けては、走って行って小石を蹴散らす。そのついでに、子供を小突く。幼い子供は、泣き叫ぶ。鬼達は、面白がって更に子供を小突きまわす。これが、延々と続くのである。
「うう・・俺は、黙って見て居れない。・・おいっ! 其処の鬼野郎! 寄ってたかって、幼い子供を虐めるなっ!」
やまちゅうは、そう叫ぶが早いか、桟敷を飛び越え、河原に駆け寄ろうとした。それを六法堂が、制止して、
「鬼達は、彼らの役目を果たしているだけです。これが、此処の掟なのです。黙って見ていましょう。」
と言った。その言葉に、やや冷静さを取り戻したやまちゅうは、忌々しげに鬼達を睨みつけながら、腰を下ろした。
南大門は、袋から取り出したノートに河原の様子を細かく書き留めて居る。ちらりと覗いて、六法堂が言った。
「さすがに冷静に観察して居ますね。細かい点まで見逃して居ない・・・」
「当然じゃよ。痩せても枯れても科学者の端くれ。其処でワーワー喚いて居るのとは、ちと違うわい。大体やまちゅうは、感情が先走っていかん。」
と、南大門は、ノートに何か書き込みながら言った。
「そうですね。仰せの通りです。」
と、六法堂は応えて、やまちゅうに、
「やまちゅう、よく見てください、鬼たちの姿を。あの者たち、小石を崩したり小突いたりする時は、怖そうな顔をしていますが、その後で、鬼たちの待機所に帰ってから、皆、泣いていますよ。彼らは、与えられた役目を果たしているだけなのです。何も好きこのんで、虐めて居るのではありません。役目を果たさなければ、鬼達もまた、彼らの業が消えないのです。元を質せば、彼らも人間だったのです。生前、どの様な理由からかは様々でしょうが、彼らは、何かに取り憑かれた様に一つの考えに凝り固まり、他人の迷惑など考えず、一生を終えた者達なのです。」
と、説明した。
よく見ると、六法堂の言う通りである。待機所の鬼達は、お互いに肩を抱き合って泣いている。その顔や眼差しは、子供を虐める時のものとは似ても似つかない、優しい、そして悲しいものだった。

「さあ、どうぞ。喉が渇いておいででしょう。」
老婆が、お茶を運んできた。僅かばかりの干し柿がお茶当てに付いて居る。
「お客さん、ひとつ前金でお願いします。」
「えっ? 前金?」
「はい。時々代金を払わないで消える輩が居ますので・・・。ほっほっほっ・・・いえ、お前さん方は、大丈夫そうですが、一応決まりですから・・・」
「ああ、如何ほどですか?」
「はい。お一人六百文頂戴致します。」
と、老婆は、愛想笑いと供に言った。
「何っ? 六百文・・?」
「はい、左様で。」
「お婆さん、先程の話では確か食事と合わせて六百文とか・・・」
「はい、確かに六百文と申しました。ところがお兄さん、近頃、世間はめまぐるしゅうて、この老いぼれが調理場まで歩いて行って居ります間に、何とこの値段になって居りました。まあ、勘忍なさって下さい。」
と、老婆は、すべった様な顔をして、法外な要求をした。
六法堂は、堪りかねて、
「いや、勘忍なりません! 大体にして、此処で商売をする事自体許されては居ない筈です。それなのに、この様な桟敷席まで設けて、一体、如何なる所存でしょうか? 返答次第では、黙って居れません。」
と、老婆に言った。凛としたその声に、それまで周りでワイワイ騒いで居た者達も、一斉に口を閉ざして、六法道と老婆に注目した。あまりにも真正面から注文を付けられて、一瞬たじろいだが、老婆も負けては居ない。
「ああ、そうかい。お前さん、閻魔様の特別のお計らいで皆の世話をして居るこの私に、そんな事を言っても良いのかえ? 後で、後悔する事になっても、わたしゃ、知らないからね!」
「先程から、閻魔様の名前を何度も使って居る様ですが、その閻魔様からどの様なお計らいを受けたのですか? あなたが、此処で皆の世話をする様に命じられた書状でも有るのですか?」
「うっ!・・・うるさいねぇ、あんたも・・・。まあ、此処では皆さんのこの世で最後の憂さ晴らしに水を差す。ちょいと、お兄さん方。あちらの方に席を変えてゆっくり話しましょう。」
と、老婆は、丘の上に建ててある大きな屋敷を指差しながら言い、周りの人間達に、
「お騒がせしてすみません・・・。どうぞ、ゆっくりして下さいな。」
と、笑顔を向けた後、
「さあ、付いといでっ!」
と、三人を睨みつけた。
この間、結構騒がしかったのだが、南大門だけは、その喧騒にまったく気付かず、賽の河原の様子をノートに記し続けて居た。
やまちゅうが、
「爺さん行くぞ!」
と言った時、
「何処へ行くのじゃ? どうしたのじゃ? 何があったのじゃ? わしは、まだ、もう少し記録せねばならん事が有るのじゃが・・・」
と言いながらも、後に続いて席を立った。
屋敷へと向かいながら、老婆は何度も、
「お前さんたち、後悔する事になるよ。」
と、三人に言った。
しかし、表情一つ変えず、まっすぐ前を見ながら歩く六法堂。
「婆さん、此処は禁煙かい?」
と、嘯くやまちゅう。