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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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あの世で お仕事 2 (三途の川)

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「だから、気が効かないのだよ。いいか、考えてみなよ。普通、人間界なら、こんなヨボヨボの爺さんが、重そ~な荷物を背負って居たら、あんたの様な若者は、誰に頼まれなくても自発的に、『お爺さん、私が持ちましょう』と言って、進んでそんな荷物の一つや二つ、担ぐものだよ。」
「歳の若さなら、やまちゅう、お前の方が、私より若い筈だが・・?」
「俺は、閻魔さんや地蔵さんに呼ばれて来た、云わばゲストだぞ。この世界では、ゲストに荷物を運ばせて、本家本元の人達は、手ぶらで歩くのが常識なのか?」
やまちゅうに、そう言われて六法堂は、不承ぶしょう、南大門の重い荷物を背負った。
「ついでに、これを爺さんの腰に結んで、引っ張ってやれば、少しは速く進めるぞ。」
と、やまちゅうは、道沿いにある蔦蔓を切り取って、六法堂に手渡してから、
「さあ、先を急ごう。」
と、再び山道を登り始めた。

三時間ほどで山頂に着いた。
後は、陵線に沿って暫く進み、下方に平原が見え始めたら、其処を目指して山を下る。麓に降りれば、残り僅かで賽の河原に到着する筈である。
山を下った三人は、麓の宿で一晩過ごした。
南大門が、疲れ切って、
「もう、動けん。」
と駄々をこねた為に、仕方なく逗留したのだ。
翌朝、その宿特製の膏薬を沢山買い込んで、出発した。南大門の筋肉痛に備える為である。
麓から賽の河原へ続く道は、意外に道幅も広く立派なものであった。その道に幾つもの小道が合流する。その度に、賽の河原に向かう人数が増える。さすがに世界は広いものだ。毎日、こんなにも多くの人々が死んでいるのかと、いささか驚く。肌の色も目の色も違う人達が、みんな賽の河原を目指して、一つの方向へ向かって歩いて行く。
やがて皆が向かっている方向から、務めを終えて家路をたどる鬼達とすれ違う様になった。目指す処が近付いたという事だ。
すれ違いざまに、鬼たちは、一様に人間に対し鋭い眼光を浴びせかける。
睨みつけられた人間は、これまた一様に下を向き、急ぎ足で先へ進む。同時に、行く先はどんなに恐ろしい処であろうかと不安を募らせる。しかし、彼らが立ち止まる事は許されない。脇道へそれる事も、遠回りする事も出来ない。
最後の小道が合流した辺りから、道幅が、徐々に広くなり、緩やかな上り坂となる。その坂は、前方に見える小高い丘の手前で傾斜を増す。そして、丘の向こうが、賽の河原である。

丘の上から見る賽の河原は、所謂、河原というものとはかけ離れて居た。とにかく広大である。
「う~む。賽の河原がこれほどまでに広いとは、さすがに想像しなかった。上流を見ても、下流を見ても、霞んで見えなくなる程続いて居るぞ。それに、人間の数の多いこと。押すな押すなの大盛況とまでは云わぬが、こりゃ、相当の人数じゃわい。二度と見る事が出来ん光景じゃのう・・・」
「はい。人間は、一度しか此処を通りません。ですから、南大門の言う通りです。二度と見る事は、出来ません。」
「・・・・」
「私は、此処で改めて、閻魔様から頂いた使命の重大さを感じて居ます。賽の河原だけでも、この人数。既に、八熱地獄や八寒地獄で、そうとは知らず行かされたとは云え、身を清める為に苦しんで居る人数まで思えば、まさに膨大な数でしょう。秩序の乱れが、大神の知られるところとなり、地獄が消滅すれば、どれ程の人間が永遠に葬り去られるか・・・。身の引き締まる思いがします。」
と、六法堂聖信は、閻魔から命を受けた時、例え僅かでも気乗りがしなかった事を恥じた。
「こらっ! 其処の三人! 何をぶつくさ言って居る! この期に及んで、怖気づいたかっ! さっさと前へ進まぬかっ!・・・じじいっ! その歳まで生きて居ったのに、まだ娑婆に未練があるのかっ!」
丘から河原を眺めて居た三人は、出し抜けに後ろから怒鳴られた。誰かと振り返って見れば、身の丈三メートルはゆうに有る鬼が、物凄い形相で立って居た。
三人は、丘を下った。じじい呼ばわりされた南大門が、一人でブツブツ言っているのを、面白そうに横目で見ながら、やまちゅうが、
「しかし、ロクさんよ。さっきの鬼の顔も凄かったな~。道々すれ違った奴らといい、どいつもこいつも、閻魔さんに勝るとも劣らないぞ。」
と、六法堂に話しかけた。いきなり、ロクさん、などと呼ばれて六法堂は、
「私は、六法堂です・・・」
と訂正を促した。が、これからの長い旅、ずっとロッポードーさんも無いだろうと、やまちゅうに言い含められて、しぶしぶ納得させられた。
「それよりも、しっかりと働いて居るな、丘の上の鬼。まさに的を得た配置だ。あの顔で怒鳴りつければ、大抵の人間は逆らえないぞ。さっき俺たちの傍に居た人など、あの鬼を見ただけで気絶してしまった・・・」
「そうですね。鬼どもが、皆、あの様であれば良いのですが・・・。此処から見る限り、賽の河原の鬼どもは、真面目に人間を脅している様ですね。」
「真面目に・・・脅している・・・かい? まったく妙な処だな~、<あの世>とは。」

「これこれ。そこの三人連れの方。あんた達、今、此処へ着きなさったのか?」
声をかけられ、振り向いて見れば、品の良さそうな老婆が、笑いかけている。南大門が、
「はいはい、たった今、着きましたのじゃ。綺麗な身なりをして居られるが、婆さん、あんたもそうなのかな?」
と、応じると、
「いやいや、私は、ず~っと此処に棲んで居りますのじゃ。閻魔様の特別のお計らいで、此処で皆さんが冥途へ渡るお手伝いをして居ります。」
「ああ、それはそれは・・・。で、三途の川を渡るにはどうすれば良いのかな? 何しろ初めてなもので、さっぱり分かりません。」
「ホッホッホッ・・・。お客さん、いや・・お爺さん、あんたも面白い。此処へ来るのは、皆、初めての人ばかりです。だから、閻魔様の特別のお計らいで、私が、此処で案内役を仰せつかって居るのです。」
「特別のお計らいは分かったから、一体、どの様にすれば良いのかな?」
「はいはい。まずお薦めは、娑婆でも知らない者は居ないという、河原での子供たちの石積みを見学して頂きます。話には聞いてなさるでしょうが、これを見ないで川を渡ったのでは、後世までもの不覚。其処で鬼と子供のせめぎ合いなど堪能なされたら、近くに座敷を用意してありますから、今生最後の酒盛りでもなさって、美味しいものをたらふく食べた後、渡し場までご案内しますでな。なあに、お代は、そんなに高くはありません。お一人、六百文も有れば充分ですよ。」
と、老婆は、流れるように説明した。話を聞きながら、六法堂は、徐々に怒りが湧きあがってきた。
(・・・奪衣婆め! 閻魔様の名を借りて、ぬけぬけと商売を致して居る。許せん! と、彼が老婆を一喝しようと、足を一歩踏み出した時、
「それは良い。丁度、歩き疲れて、何処かで腰でも下ろして休みたいと思っていたところだ。早速案内してくれ。お代の事など心配するな。この若くてスタイルの良いお兄さんが背負っている袋の中に御満と有るぞ。」
と、やまちゅうが言い、同時に彼は、六法堂にテレパシーを送った。