小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

あの世で お仕事 2 (三途の川)

INDEX|1ページ/6ページ|

次のページ
 

 第2章
 
  三途の川

やまちゅうは、立ち止まって後ろを振り返った。そして、問う。
「おい、六法堂さん、まただよ。・・・これで何回目だい、宇土の爺さんの小便は?」
「用を足したのが、四回。後の二回は、催してきたが、結局、立ち止まっただけで、目的は果たせなかった様です。」
「という事は、都合六回目という事かい?」
「いや、私は、過去形で言った筈です。今回を合わせると、七回目となります。」
「え~、そうなのか・・・。道理でなかなか進まない筈だ。あの爺さん、歩いてる時は、チー、チャン、チー、チャン、チーチー、チャンと長崎のベーロンのお囃子みたいに、智深さんの名を連呼する。静かになったと思えば立ち小便。まったく先が思いやられるぞ。」
「仕方ありません。出もの腫れもの処構わず、ですから。」
「あんたも、たまには上手い事をいうな。」
「はい、やまちゅうの頭脳を覗いて、些か学習しました故・・」
「え~っ、そんなの出来るのか?」
「はい。あなたの知識を全て暗記するのに、四~五秒程要しました。まあ、あまり参考になる様なものは、有りませんでしたが・・・。巷で使われる言葉とか格言の中には、若干使えるものも有る様でした。」
「悪かったな、俺の頭ん中、空っぽで。」
「いえ。空っぽではありませんでした。只、決して多くはなかった・・・」
六法堂の言葉に、やや気分を害したやまちゅうが、何か言い返そうとしたが、用足しを済ませた南大門に阻まれた。
「あんた達、いい若い者が、道端で何を言い合って居る? 急がねば、夕方までに賽の河原まで行く事は出来んぞ。さあ、先を急ごうぞ。」
南大門は、そう言って先へ進み始めた。
六法堂とやまちゅうは、互いに顔を見合わせて、敵わんな~、という様な表情と供に南大門の後に続いた。
「しかし、俺たちは、何故、賽の河原へ行かねばならないんだ? 俺が子供の頃聞いた話では、人は死ぬと、まず三途の川を渡らねばならない。その後、閻魔さんのお達しで、地獄行きか、極楽行きかが決まる。それが本当だとすると、もう既に死んで居る俺たちが三途の川を目指すという事は、先へ進むどころか、後退して居るんじゃないのかい?」
と、やまちゅうが、どちらへともなく聞いた。
「ああ、その事なら私が説明しましょう。」
と、六法堂が、話し始めた。

曰く、やまちゅうの言う通り、人が死ぬと、まず三途の川へ行く。そして、渡し船か橋を使い向こう岸に渡る。渡る順番を待つ処が、所謂、賽の河原である。
其処には、幼くして御世に来た子供たちが大勢居て、河原で石積みをして居る。子供たちには、この石積みの意味は分からないが、これは親よりも先に命を落とした罪滅ぼしの為である。
石を高く積み上げる事で、功徳になる。しかし、そうそう簡単に石は高く積めない。何故なら、其処には、鬼達が居て、子供たちが積んだ石が高くなると、飛んできてその石を崩すからだ。子供と鬼の、まさにイタチごっこである。
その様な光景を眺めながら、大人達は、川を渡る順番を待つ。待っているうちに、懸衣翁と奪衣婆が来る。二人は、三途の川を渡る手間賃を要求する。渡し賃は、六文が相場。これが払えなければ、川を渡れない。地獄の沙汰も、銭次第。払えない者は、着ている物を剥ぎ取られ、渡し賃を払った事になる。
生前、善行の大きかった者は、橋を使って、川を渡る。三途の川は、幅が広い。橋を歩いて渡りながら、周りの情景を見る。そして、彼等は、次第に自分が死んだ事を実感して来る。橋を渡り終える頃には、人間界と完全におさらばした気分になる。だから、心安らかに閻魔様のご採決を聞く事が出来る。
ところが、悪行を働いて来た者は、幾ら金を積もうと渡し船。船の底には穴が空き、大勢乗れば今にも沈んでしまいそう。船底から入る水を素手で汲み出す。汲んでも汲んでも追いつかない。やがて疲れて手もふやけるが、汲み出す事を止めると、たちまち船は沈みだす。また、必死で水を汲み出す。その繰り返しで三日三晩。やっと向こう岸が見えて来る。
更に続けて三日三晩。へとへとになって、向こう岸に辿り着く。
やっと着いたと思いきや、おちおち休んでなど居れぬ。彼岸で控える鬼達が、急げ急げと先を指差す。『まあ、待って下さい、』とでも言おうものなら、たちまち拳が飛んできて、顔より大きなタンコブが出来る。ヒイヒイ泣き叫びながら先へ行く。着いた処が、閻魔殿。何がなんやら分からぬままに、閻魔様のあの顔で、
「地獄行きじゃっ!」
と、怒鳴られる。

「と、まあ、普通、この様な順序を経て行くのです。ですから、私達も一般の人たちと同様に、事を進めようという訳です。」
「ああ、そういう事かい。」
三人は、周りの景色など見ながら、暫く進んだ。
やがて、道はだんだん細くなり、随分高く険しい山に入って行った。最初は、背の低い灌木だけであったが、進むにつれて木は大きくなり、うっそうと茂った薄暗い森へと変わった。道は、更に細く急な上り坂となり、なだらかに曲がっていたのが、急に右へ左へと向きを変えねばならない、人一人がやっと通れる程のものになった。
「おい。ちょいと休ませてくれんか。もう、息が切れそうじゃわい。」
と、南大門、さすがに疲れ果てて、先を進む二人に言った。
「爺さん。こんな処でグズグズしてたら、日が暮れて道に迷ってしまうぞ。」
やまちゅうが、坂道の上の方から声をかけた。
「そうはいうても、この険しい坂じゃ。もう老いぼれのわしには、辛うて辛うて堪らぬわい。・・・背中の荷物が、ずっしりと肩に食い込んで、わしもろともに地面に沈んでしまいそうじゃ・・・」
「ああ、そうかい。俺達のどちらかに、荷物を持てという事なのか? だから言っただろ? 出来るだけ軽くしなさいと。それを、あんたが、あれも要る~、これも要る~と言って、どんどん大きな荷物になって来たんだぞ。止せと言うのに、あんな大きな百科事典まで積め込んで・・・」
「あの世界宇宙科学大百科事典第二十七巻と第二十八巻は、わしにとっては、命の次に大切な物なのじゃ。」
「なに~っ?・・・一冊だと思ってたのに、あんなの二冊も持って来たのかい!」
「ああ、最初は、二十八巻だけにしようと思うて居ったが、やはり二十七巻も捨て難いものがあってのう。出発間際に、袋に押し込んだのじゃよ。何故、二十七巻が捨て難かったのかというとじゃな・・・。」
「下らん話は、もう良いわいっ!・・・しょうがない。背中の荷物を下ろしなさいよ。」
「そうか・・すまんのう・・」
と、南大門は、すまなそうな顔ひとつせず、
「よいこらしょ・・」
と荷物を下ろして、六法堂を見た。見られた六法堂は、まさか私が、これを持つのではないですよねという様に、やまちゅうを振り向いて見た。やまちゅうは、既に六法堂を見ていた。
「・・まさか・・・、私が、南大門の荷物を背負うのですか?」
「分かり切った事を聞くなよ! あんたが背負わないで、一体、誰が背負うんだい?」
「私は、生まれて此の方、他人の荷物どころか、自分の物も背負った事がありません。」