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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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あの世で お仕事(1)

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「バカなことを言うなよ。何で死んでもいないこの俺まで・・・。地獄へ行くのは、自業自得。あんたの生前の行いが悪かったせいだ。俺には関係無い。そんな下らん話をするのなら、俺は、もうあんたと話などしないぞ。」
「まあ、待て。待ってわしの話を聞いてくれ。相変わらず気の短い奴じゃ。実はのう・・・」
と、南大門、事の次第を詳しくやまちゅうに聴かせた。

「なるほど、そういう事か・・・。それで爺さん、あんたの言う事が本当だとどうやって信じればいい? 声は聞こえど、姿は見えず。これでは、命を賭ける判断の仕様がないではないか。本当の話だと分かれば、一緒に行くかどうか考えてみても好いぞ。」
言われてみれば、一理ある。やまちゅうにしてみれば、不意に何処かから南大門の声が、いや、正確に表現すれば、南大門そっくりの声が語りかけて来たのだ。そして、事もあろうに、未だ生きている人間に向かって地獄へ行けと言う。にわかに信じられないのは、当然の事である。
何しろ、本物の閻魔や地蔵菩薩を目の前にして居る南大門でさえ、信じられない事ばかり起きているのである。
「よし、分かった。ちょっと待って居れ。お前さん、信じられんと言うかも知れぬが、わしの傍に閻魔さんと地蔵さんが控えて居られる。そのどちらかと話してみてくれ。それでもお前さんが信じないなら仕方ない。わしは、一人で地獄へ行く事にするわい。」
と、南大門は、閻魔と地蔵を見比べながら言った。そして、
「お二方のどちらか、やまちゅうと交信して下され。そうすれば、あいつも信じるでしょうほどに・・・」
と、どちらへともなく頼んだ。
すぐに地蔵が進み出て、やまちゅうに話しかけた。
「やまちゅう、地蔵菩薩だ。つい先だっては、私の部下を助けて、善行を積んでくれた事、有り難く思うぞ。」
「・・何の話だい?」
「ほれ、日雇い労働者の源さんが持ち込んだ問題だ。」
「あ~、あれか。あんなの大した事はない。悪い奴らに騙されて、難儀していた外国人就労者を、ちょいと匿っただけの事だ。」
「ちょいと・・・か? はっはっはっ、やまちゅうらしいのう。お前、その者を逃がす為に、仕事まで休み、全うな働き場所を探し、おまけに別れ際に、当座の足しにと金まで持たせてやったそうな。他人の事どころではない筈なのにのう。」
「放っといてくれ。貧乏とは、親戚以上の付き合いだ。明日、食べる物が無くても、取り敢えず今日、食べる物は有る。言葉も満足に話せない他国で、母国の家族の為に働こうと決心してきた人が、困っているのを見過ごせなかっただけの事だ。それに、他ならん、源さんの頼みでは、断れないだろ?・・・そんな事より、あんた、本当に地蔵さんか?」
「そうだ。」
「そうか。俺は、今まで、石に彫られたあんたの顔しか見た事が無い。ちょいと顔を拝ませて貰えないものですか? それに、宇土の爺さんの話じゃ、閻魔さんも居るとか・・・、ついでに閻魔さんの顔も、ちょいと拝みたいものです。」
「よし、分かった。しかし、やまちゅうよ。我等の顔の事、決して他言無用じゃぞ!」
「はいはい、誰に話して信じる者が居りましょう? 狂人扱いされるのがオチですわ。」
「やまちゅうよ。天井を見ろ。」
地蔵に言われて、やまちゅうは、天井を見上げた。
なんと、やまちゅうの小さな家の天井に、直径二メートルはあろうかという程の、円形の穴がぽっかりと空いている。
穴の向こうは、黄金色に輝いている。しかし、その光は、やまちゅうの居る部屋は照らしていない。
彼は、ぽかんとして、その穴に見入って居た。
と、その穴いっぱいに、何者かが突然顔だけ突き出して来た。
「わっ! わっ! なっ、なっ、なんじゃあ~っ! こりゃ~!・・・。地蔵さん、あんたの顔ですか・・・?」
「・・・わしは、ついでの閻魔じゃ・・・」
「・・・ふぇ~・・・。あまり驚かさないで下さい。出るのなら出ると、前もって断ってからにして貰わなければ・・・。閻魔さん、あんたの顔を拝むには、随分心の準備が要ります様で・・・。しかも、天井の大きな穴一面が、その顔だけ・・・。いや~、悪いものを、・・いや、珍しいものを見てしまった・・・」
やまちゅうに勝手放題を言われて、いささか気分を損ねて、
「顔を見せろというから、見せたのに・・・」
と、ぶつくさ言いながら、水面鏡から離れる閻魔を笑いながら、今度は地蔵が器に近付いた。そして、
「やまちゅうよ、地蔵じゃ。」
と言いながら、やはり穴一面にその顔を写し出した。
「ああ、なんとまた、爽やかな・・・。あの顔の後の、この顔。・・・多少奇妙でも、普通以上に見えますから不思議だ・・・」
「これっ! 褒めて居るのか、貶して居るのか。まあ、良いとして・・・これで、信じて貰えたかの?」
「はいっ! それはもう・・。分かりました! 俺も宇土の爺さんと一緒に地獄へ行きましょう! さて、どうするか・・・。まずは、死ななきゃならん・・・。何処かの踏切から、電車にでも飛び込むとするか・・・」
「これ、どうやって死のうかなどと考える必要などない。ましてや、自ら命を絶つなど、愚の骨頂。お前の意志が固まったからには、死に方など我々に任せなさい。どの様にでもして殺してやる。」
「はい。・・・しかし、殺してやると言われて、どうお礼を言えば良いので?・・・少し複雑な気持ちであります。」
「はっはっはっ、面白い奴め。・・・もう一度だけ確かめる。やまちゅうよ、本当に地獄へ行くつもりなのじゃな?」
「はいっ、二言はありません。・・・何処で暮らしても同じ事。それに、此処で死ぬという事は、そっちで生きるという事でしょ? まあ、この世に未練が無いと云えば嘘になるが、・・好いでしょう! ばっさりやってくださいっ!」
「あい分かった!」
やまちゅうは、目を閉じた。姿勢を正して一呼吸、二呼吸。三度目で大きく息を吐き出して、両の拳を膝に置き、何時でもどうぞと、その時を待った。

「やまちゅう、目を開けるがよい。」
地蔵の静かな声で、やまちゅうは、目を開いた。そして、驚いた。
其処は、やまちゅうが観念して目を閉じた場所ではなかった。
キョロキョロ辺りを見回すやまちゅう。徐々に周りが見えてきた。地蔵と閻魔の顔。すらりとした長身の青年。実直そうな中年の男。見目麗しき美女。そして、懐かしそうにこちらを見ている宇土南大門。
「やまちゅう、よう来てくれたのう。」
「・・・宇土の爺さん・・・・。俺は、もう死んだのか?」
「ああ、今の今・・・。死にたてのほやほやじゃ。」
「・・・・そうかい。・・・・こんなに簡単に死ねるとは、思わなかった。何の痛みも無かったぞ。」
「ああ、天命を全うしたという事じゃ。白黒寺の和尚の話では、天命を全うして召される者は、痛みなど感じる事無く、心穏やかに逝けるそうな。」
「そうなのか?・・・でも、俺は、生きてる最中無理やり全うさせられた。」
「まあ、細かい事を考えるな。お前さんらしくない。」
久々に顔を合わせた、南大門とやまちゅうが話している間に、地蔵が割って入った。