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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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あの世で お仕事(1)

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祖母他界の後、忠は、生前の父親同様に荒んだ生活をする様になり、高校卒業後、何を思ったのか南洋の国に行き、そこでも現地の人々と喧嘩三昧。まさに今、生きているのが不思議なほどの暮らしぶりでありました。
しかし、彼の素行は、悪いとは云え、その根源には、そこはかとない正義感が感じられます。つまり、自己中心的な理由から凶暴さを露呈するのではなく、苦しみもがく社会の底辺の人々の怒りの代弁をしている様な・・。
その彼のある種の正義感は、現地の人々にも徐々に受け入れられ、彼自身も、やや落ち着いた生活を続けられそうな環境になったのですが・・・
その様な暮らしに、何故か見切りをつけ、またぞろ日本に帰ったばかりのところです。」
「そうか。・・・で、南大門が言うた様に、我らの世界との交信は出来るのか?」
「はい。それは間違いなく・・。それに、彼が特に関心を抱くのは、人間界の最下層でもがき苦しむ者たちの事で御座います。」
それを聞いた閻魔は、暫く考えた。そして、
「これ智深。すまぬが地蔵を呼んでくれぬか。」
と、言った。六法堂がすかさず、
「それは良い思い付きで御座います。地蔵菩薩様なら人間界の最下層の救済がご担当であります。その者の事も、あるいはご存知かも知れません。」
と言った。

間もなく、地蔵菩薩が、智深の案内でやって来た。
そして、閻魔を見付けるやいなや、
「よう! エンちゃん、先日は御馳走さま。あれ、美味しかったね。何と云うたか桃にも似て桃にあらず。林檎にも似て林檎にあらず。さりとて梨では決してない。・・・まあ、いいや。それはそうとして、何だか人間界の事を知りたいんだって?」
と、おおよそ我々が持つ地蔵菩薩のイメージには程遠い口調で閻魔に語りかけた。
(地蔵め、来た早々に、先日一緒に呑んだ時の話は無いだろう・・)
と内心思いながら、閻魔は頷いた。
「一体、どんな事が知りたいの?」
「矢間忠なる人物の事じゃ。お前、知って居るか?」
「やま・ただし?・・・。知らないよ、そんなの。で、その人間がどうしたの?」

閻魔は、地蔵菩薩を此処へ呼ぶまでの、事の次第を掻い摘んで話した。

それを聞いた地蔵菩薩は、
「な~んだ。そういう事だったの。その人間の事なら知ってるよ。最初から、エンちゃんが、<やまちゅう>だと言ってくれればすぐに分かったのに・・。確かに陰陽が調べた通りだよ。あの男が来れば、きっと役に立つと思うけど、果たして来るかな~。ちょっと待ってね。」
と、地蔵は、目を閉じて何処かの誰かとテレパシーで話を始めた。暫く皆は、地蔵が交信を終えるのを待った。やがて、
「いいよ。最近、私の部下をあの男の処へ行かせて、ある問題を片付ける手伝いをさせて居たんだけれど、部下の話では、丁度一~ニ日前に、その問題は切りが着いたんだって。暇してる筈だから、南大門と話をさせてみる?」
と閻魔に言った。
閻魔、頷く。
地蔵の動きは速い。早速てきぱきと、南大門が、やまちゅうと話せる様に段取りをし始めた。
「六法堂よ。お前、ちょいと中央議会の文殊菩薩を訪ねて、事の次第を伝えて来い。たった今来たばかりの爺さんと、まだ幾ばくか寿命が残っている人間が、直接話したなどと後で分かればややこしくなる。文殊がくどくど言ったら、私の名を出せ。あいつには四千三百年ほど前に貸しがある。私から宜しくと伝えておいてくれ。」
「ははっ!」
「陰陽。お前、私の部下の仲介禅師(ちゅうかい・ぜんじ)と面識があったな。そこから水面鏡を借りて来い。・・・私からの頼みだと云えば、一も二も無く貸してくれる筈。」
「はい。畏まりました!」
「智深よ。この建物の中に居るすべての者の人掃いを、すぐさま致せ! 逆らう者は、全員地獄行きじゃと、閻魔直々のお達しとでも言うてやれい!」
「はい! 仰せの通りに・・」
「よしっ! それぞれに早う行けい!」

地蔵の掛け声とともに、三人は、足早に執務室を飛び出して行った。

三人のうち最後に部屋を出た智深が、暫し人掃いの沙汰を告げると、全員素直に従った。
それもその筈。六法堂に続き、何時も冷静で表情ひとつ変えた事のない陰陽までもが、足早に何処かへ出かけて行った。何か只ならぬ事が起きているのでは? と誰しもが感じていたからだ。

建物の中は、急に静かになった。
地蔵菩薩が現れてからの慌ただしさを、南大門は黙って見て居たのみ。そして今、静かになった部屋で、椅子に座り、向こうの方で楽しそうに話している閻魔と地蔵を見ている。

やがて三人とも地蔵の命令を果たして戻ってきた。
「やあ、皆、ご苦労であった。」
と、地蔵は、三人を労い、陰陽に向かって、
「水面鏡をこれへ・・・。」
と、閻魔の大きな机を指差した。
陰陽は、水面鏡を言われるままに運んだ。
「おい、そこの爺さん。準備が整ったぞ。此処へ来てやまちゅうと話してみなよ。」
地蔵が、南大門に言った。
先程から、水面鏡とは一体何だろうかと思っていたので、呼ばれた南大門は早速閻魔の机に近付いた。
(・・・な~んだ。ただ洗面器に水を入れてあるだけじゃあないか。大仰に水面鏡だなどと・・・)
「はっはっはっ・・・。爺さんや、まずこの中を覗いて見てから、な~んだとか言いなよ。」
南大門は、洗面器を上から覗き込んだ。そして、
「おおっ!!」
と、驚きの声をあげた。
その洗面器の水越しに、人間界の模様がはっきりと映し出されていたのだ。
忙しそうに蠢く都会の喧騒。のどかな田園風景。自給自足を今も続ける中央アジアの山岳少数民族。子供を叱りつける母親。チンジャラジャラの騒音の中、仕事もせずギャンブルに現をぬかす大勢の大人たち・・・。
ありとあらゆる光景が、手に取る様に見える。

「どうじゃ。納得できたか? さて、爺さん。やまちゅうは、今自宅に居る。あんたの声が彼に聞こえる筈じゃ。さあ、話してみなさいよ。」
南大門は、洗面器の中に向かって、やまちゅうを呼んだ。
「おおい、やまちゅうや。わしの声が聞こえるか・・・? やまちゅうや、・・・・聞こえるか~・・・?」
十五~六秒程待ち、もう一度読んでみようかと考えて居る時、洗面器の中から微かに声らしきものが聞こえてきた。
「・・・・・。・・・・。」
南大門、もう一度、
「やまちゅうっ! わしじゃ! 宇土南大門じゃぁ!・・・」
今度は、はっきりと声が聞こえてきた。
「おう! 誰かと思えば、宇土の爺さんかい? しかし、あんた、確か死んだ筈だが・・」
と、器の中からの声は、間違いなくやまちゅうのものだった。やまちゅうは、再び言う。
「・・ああ、なるほど・・・爺さん、あの世から俺を呼んでるのかい? どうだい、そっちは・・?」
「まずまずじゃわい。」
「爺さんが、まずまずじゃという事は、そっちにも女性が居るという事だな? もう鼻の下を伸ばしているのか・・80にもなって、女子の尻を追いかけてると、閻魔さんに地獄へ追いやられるぞ。」
「実はな、お前の言う通り、地獄へ行く羽目になってのう。それで、お前も一緒に行って貰えんかと思うてな。」