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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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あの世で お仕事(1)

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「お二人さんよ。話の途中ではあるが、私は、ここいらで消える事にする。南大門、これからお前たちが始めようとしている事は、尋常無く困難を要する。しかし、既に分かって居るとは思うが、これは必ず誰かが為さねばならぬ重要な使命である。私も、陰ながらではあるが、出来るだけお前たちに助力する。今、時代は混沌とし始め、従来の秩序では世を治め切れない事も多い。特に、悪を悪とも思わず、平気で他人の畑を踏み荒らす者どもが、急速に増えて居る。古き良きものをそのまま残し、時代にそぐわぬものは、新しい秩序の下で治める。それが天上天下で生きて居る者全ての務めである。その上に、我等の平和な日常が成り立つ事を忘れてはならない。
閻魔が危惧して居る様に、今、地獄の体たらくは目を覆うものがある。このまま放っておけば、地獄は大神の御手に依って消滅させられるであろう。そうすれば、人間たちは、そこで矯正され、再び全うに生きて行ける機会を、永遠に失ってしまう。天上天下の秩序を正常に戻すべく、全力を捧げてくれ。それでは、縁があれば、また何処かで会おう。」
と、長ったらしく話した後、彼らに背を向けた。そして、ふと思い出した様に閻魔を見て、
「あっ、そうそう・・・。言い忘れてたけど、エンちゃん。例の店の、エリカちゃんが、『エンちゃんどうしてるかな~、また会いたいな~』って言ってたよ。じゃあね。」
と言って、忽然と消えた。

地蔵の話に緊張感が高まっていたその場であったが、彼の帰り際の言葉で、空気はいっぺんに緩んでしまった。
特に、「エリカちゃん・・・・・」などと、およそ日頃の姿からは想像も出来ない言葉を残された閻魔に至っては、一体、その場をどう取り繕っていいのか分からない。
(地蔵め、あの様な事、帰り際に云わずともいいものを・・・。奴は、何時も一言多い。あれが無ければ、良い奴なのだが・・・。)
閻魔の周りの者たちは、笑いを堪えるのに苦労している。
ついに我慢し切れず、やまちゅうが大笑いし始めた。
「はっはっはっ・・・。宇土の爺さんよ。閻魔さんが、あんたに地獄の粛清をさせたい理由の一つが分かったぞ。一皮剥けば、例え閻魔さんと云えども、あんたと同じ穴の狢(むじな)。夜な夜なネオン街へ出歩いては、目じりを下げて鼻の下を伸ばしている様だな。」
それを聞いた周りのものは、一瞬凍りついた様に閻魔を見た。閻魔は、たちまち物凄い形相になり、
「こらっ、やまちゅうっ! 言うに事欠いて、このわしを狢呼ばわりいたすかっ! 痩せても枯れても下界から来た人間どもを裁く最高責任者であるぞっ! 言葉を慎めいっ!」
と、一喝した。六法堂をはじめ、陰陽も智深も、この様に怒気を満々と含んで、怒鳴る閻魔の姿を久しく見た事が無い。確か、前漢を起こした劉邦が来た時、此処が何処だか知らぬまま、酒に酔った勢いで、逢うた女性達を手当たり次第に追いかけ回した時以来の剣幕だと、陰陽は思った。
しかし、怒鳴られた当のやまちゅうは平然として、
「まあ、あんまり怒るなよ、閻魔さん。誰でも息抜きは必要だ。偉そうに言うのではないが、この宇土の爺さんを見てごらんなさい。生前は、世界に名だたる大学者。この人が、右だと云えば、皆揃って右を向き、左と云えばまた左を向く。専門の宇宙科学に精通しとるのは勿論の事。世界中の言語を操り、話せない言葉と云えば、アップリケ大陸の奥地に住む少数部族のヒリヒリ語だけ。それ程の偉いさんで、しかも、御歳八十にもなろうかという人でさえ、まだ女性の尻を追い回してる。だから、あんたが、エリカちゃんの一人や二人知って居てもな~んの不思議もありません。
それに、俺は、今まで人の肩書と付き合った事は、只の一度もありません。身ぐるみ剥いだ人間そのものと付き合って来ました。そのお陰で、宇土の爺さんとも知り合えた。
爺さんも、俺が何者なのか一切構わず、一人の人間として付き合ってくれた。俺は、そんな爺さんが好きだ。その好きな爺さんが、何の能力も無いこの俺に、大切な仕事を手伝えと言ってくれた。死ぬのは確かに怖かったが、それ以上に、頼まれた事の方が嬉しかった。だから、爺さんの為ならと思い、此処へ来る気になったんだ。
地蔵さんの話を聞きながら、俺は思った。これは、俺なんかには荷が重すぎる大仕事だとな。
しかし、此処まで来たからには、もう戻れない。それに、事を成し遂げる為には、少々の事でビクついてなど居れない。閻魔さん、あんたの声も子守唄程度に感じるくらいでなくて、何程の事が出来ましょうか。」
やまちゅうが、熱弁を奮って行くうちに、閻魔の怒気は徐々に和らいでいった。
「・・・ああ、これは、言う必要の無い事まで言ってしまいました。・・・まあ、つたない人間の、ちっとばかりの意気込みという事で・・・へへへ・・」
「いや、わしも、ちと大人気なかった。・・・しかし、狢はひどいぞ。顔には些かの自信も無いが、狢呼ばわりされたのは初めてじゃ。」
「な~に、閻魔さん。くよくよ気になどする事はないですよ。どんなにひどい顔でも、大抵三日も見ていれば慣れるものです。俺なんぞ、毎日鏡を見る事で鍛えられてます。だから、ほら、もう慣れてますから・・・しかし、見れば見るほど凄い・・・・。まあ、その凄さも使い様で、その顔だからこそ閻魔さんの御威光が増すとも云えるでしょう。所謂、適材適所というやつですよ。」
「・・・褒めて居るのか?・・・それとも、・・・」
「勿論、褒めて居るのですよ・・あなたを、この役職に抜擢した大神さんを。」
「こらっ! またしても、愚弄いたすかっ!」
閻魔は、ヤシの実の様な拳を振り上げた。「ひぇ~っ!」と声を上げて、やまちゅうは、壁際に立って控えていた智深の後ろに隠れた。
「あれ~っ・・・」
と、智深。
「これっ! やまちゅう! 何故にまた好きこのんで、わしのチーちゃんの後ろに隠れるのじゃ! 他に誰でも居るであろうが!」
と、南大門が、叫ぶ。

行き先は地獄か極楽かを決める、神聖なる閻魔の執務室も、秩序無き、何でもありの様相を呈してきた。

しかし、かくして、地獄を粛清する為の人数が揃ったのである。
宇土南大門を筆頭として、天界から差し向けられる六法堂聖信。そして、地蔵に息の根を止められて加わったやまちゅう。
この三人の旅支度が整った。