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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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あの世で お仕事(1)

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「ああ、それも用足しの道々聞いとります。しかしな、どうせこれから一生、いや、わしは死んだのじゃから、ず~っと末永く付き合いをする訳です。水滸伝の豪傑と同じ姓を呼ぶのも無粋じゃし、セイコウさん、と呼べば益々要らぬ事を想像してしまう。それで、チーちゃんにしましたのじゃ。のう、チーちゃん?」
南大門は、場所柄も弁えず、極楽行きが決まった嬉しさも手伝い饒舌になっていた。そりゃあ何と言っても、極楽の方が良いに決まっている。
しかし、話す南大門は気分が良いけれど、神聖な場所での話しとしては如何なものか?
極楽の話を誰から聞いたか、ただそれのみを答えれば二~三秒で済む話。それがいきなりチーちゃん・・となり、更に話は逸脱し、今や本筋を遥か離れようとしている。いくら何でもと六法堂が一喝して制止しようとした時、それを閻魔がテレパシーで止めた。
(待て!、六法堂。もう暫く話をさせてやれ。陰陽も智深も、よーく観ておけ。人間界で頭抜けた善行を積んだこの男でさえ、一皮剥けばこの体たらく。生前、宇土大先生だの、首相の名前は知らずとも、パリの凱旋門と宇土の南大門は知っているだのと持て囃された人間のもう一つの姿じゃ。)
(はい、仰せの如く・・・)
三者三様に畏まって閻魔の指示に従った。

南大門の話は続く。
「チーちゃんと云えば、何時ぞや出張で某所へ行った時、勢いに任せて飛び込んだキャバクラに居た女の名がそうだった。あの女、『チーちゃんで~す』とか、頭の天辺から声を出して・・・しかし、話してみると実は某有名大学の法学部に在籍中であった・・・チーちゃ~ん・・今頃どうして居るかのう・・・ん?・・そういえば、此処のチーちゃんによう似た女性が、一時期わしの秘書をしておった。最初は、堅物で少々扱いにくかったが・・・あれは何時であったか・・そうじゃ、確か世界宇宙科学学会の委員会が、カナタ国のパンクウバッカで開催された時、会合の後の晩餐会を境にグッと柔らかくなってのう。あの時、ドドイツ国の若い委員と親しそうにしておったが、あの時、若い委員と何かあったに違いないと、わしは今でも確信めいたものを持っておる。まあ、彼女の名誉の為にも、わしは詮索せずにいたがな・・・うふっ・・うふふ・・・カテリーナ~!・・・元気で居るか~!・・・。わしは、とうとう死んでしもうた・・・自身、死んだ感覚は無いのじゃが、今、わしの目の前に閻魔さんが居る。チーちゃんも居る。他にお役人が二人ほど居る。みんなわしが死んだと言うておる。・・・・カテリーナ~!・・)
まったく脈絡のない、際限も無く、南大門は、自身の世界にどっぷりと浸かり込んで、話し続けている。内容は、全て彼を通り過ぎて行った女性の事ばかり。
さすがに堪り兼ねた六法堂。テレパシーで閻魔に言った。
(閻魔さま。如何になんでもこの有り様は尋常ではございません。この老人、誰に話しかけるともなく、ペラペラと、既に彼自身の中に入り込み、負のスパイラル状態を招いて居ります。智深女史などは、聞くに堪えぬと耳を塞いで居りまする。)
(ははは・・・。そうじゃの、少し放っておき過ぎたかの。許せよ、智深。)
「これっ!、南大門!。黙って居れば際限も無く下らん昔話を延々と・・・。如何にいうても、限度がある!。口を慎まんか!」
閻魔の声に南大門我に帰り、
「ありゃ!、これは大変失礼致しました、閻魔さん。恐れ多いことで・・・。いや、生前の思い出が次から次へと、走馬灯の如く浮かんでは消え、消えては浮かびしましてな
・・・」
「その様な事、改めて申さずとも一部始終分かって居るわ。この部屋の空気が変わるほど、よくもまあ、女の話ばかり続けざまに話せるものよの。
お前の話を聞きながら、下界に差し向けて人間の行動記録を執らせている役人達は、その務めを全うに果たしておるのだろうかと、ちと不安になって来るほどだ。確かに、この閻魔帳にも、二~三行ほどお前の女癖の悪さが記されてはある。しかし、先程来、お前の話を聞くに、この記載など氷山の一角にしか過ぎん。前言取り消しじゃ!。極楽行きの採決を取り消して、再調査の上沙汰を致す故、暫し待っておれい!」
閻魔の言葉を聞いて、南大門大慌て。
「ええっ!?・・・。・・そっ、そんな~・・・。わしは、素晴らしい桃源郷へ行けるのが、ただただ嬉しゅうて・・・。」
「ただ嬉しゅうて口から出まかせを申したのか?。出まかせであれば、閻魔を前にしてまでも、不埒な大嘘つき。到底極楽へ行く資格などない!。本当の話であれば、再調査。どちらも疎かに見過ごすことはできぬぞ!」
つい今しがたまで、得意満面だった南大門。閻魔の言葉で奈落の底に叩き落とされ、急に干からびた干し大根の様に縮こまった。そして、
「ああ、口は災いのもととは、よう言うたものですな~。・・・ああ、桃源郷が・・・遠退いて行くぅ・・・チーちゃんと楽しくやって行く筈の夢の様な極楽が待っていたのに・・・」
と、天井の片隅に目をやり、ぼやき始めた。
その姿は、かつて世界何とか学会の会合で華々しく活躍していた事など、微塵も感じられないしょぼくれたものだった。
一人、嘆く南大門。
それを薄笑いと供に眺める閻魔。一度は極楽行きと決まっていたのが取り消され、その原因の一端は、僅かではあるが自分にもあると考え、うな垂れる智深清好女史。そして、今や閻魔の意図するところがはっきり分かり、何時彼がそれを南大門に言い出すかと待ち構えている六法堂と陰陽の二人。
それぞれの思いが錯綜する中、閻魔が南大門に向かって声をかけた。
「これ、それほどまでに極楽へ行きたかったのか?」
問われて南大門、
「はい。それはそれは行きとうございました・・・」
閻魔は、何故極楽行きを取り消したかの理由を、今度は静かな口調で繰り返した。そして、
「どうじゃ、理解出来たであろうが?」
と問うた。
南大門は、無言でこっくりと頷いた。
(あ~、もうしょうがない。・・・閻魔さんが言いだしたなら、それが此処の法律。しかし、何とも残念無念。・・・じゃが、悔やんでも惨めになるだけ。もう一度調査が終わるまで待つとしようか。)
「やっと、納得した様じゃのう。・・・ところで南大門。お前が確実に極楽へと行ける方法が一つだけある、と言ったらどうする?」
南大門、えっ??、っといった表情で顔を上げた。
「閻魔さん。今、極楽へ・・・確実に・・と申されたのですか?・・・・。」
閻魔が、ゆっくりと頷いた。そして、
「ある!」
とはっきり答えた。


閻魔曰く、
どうも最近、地獄の様子が妙な雰囲気だ。
以前は地獄と聞いただけで人々は震え上がり、閻魔が執務室で、地獄行きを宣告したと同時に意識を失う者、半狂乱で嫌だ嫌だの連呼を繰り返す者など、皆、尋常ならぬ姿を曝したものだ。
それがこの二~三千年の間に、やや変化が観て取られる様になった。
僅かではあるが、自ら罪を認め、地獄行きを志願する者達が現れ始めたのである。その志願者達の生前の経歴を見るに、進んで罪の償いをしようという気になるなどとは、とても考えられない様な者達ばかり。
悪行の限りを尽くした輩が、しおらしく、
「地獄で修行をさせて下さい。」
という。