近代日本愉快伝~駅長吸血鬼
浦戸 まぁな。着実にそれは向かって来ている。こっちに来ないという事は有り得ない。
勝倉 ところで此処って何駅なんですか?
浦戸 此処の駅はな。名前がないんだ。強いて言うなら無名駅。最早名前という概念を超越したものを保有する駅である。
勝倉 何か難しいですね。僕にはあまり分かりません。
浦戸 だろ?あんたみたいな一般人には到底理解できねぇとは思うけどな。だが安心しろ。お前には関係ない。因みにこの台詞は全てテキトーだ。俺もよくわからん。
赤月 浦戸さん、テキトーな事は言わないほうが良いと思いますよ。そのせいで、奥さんに夜逃げされたんでしょ?
浦戸 お前なぁ。誤解を生むようなこと言わないでよ。俺はさぁ、妻なんておりませんよ。まだ二十歳になったばっかりですから。
赤月 じゃあ、アタシと結婚しようよ。私、まだ誰とも付き合ったことないから安全だよ。
浦戸 安全だよって。赤月ちゃん、結婚っていうのはさ。別に性的欲求を満たすためのものじゃないんだよ。
赤月 そっかぁ。まだ16だから分からないや。
浦戸 歳を重ねれば分かってくるさ。焦らない。
浦戸 まぁ、この辺で止めとけ。この男が泣いちまう。俺も酷いこと言いすぎた。御免よ。
勝倉 まぁ、良いですけど。本当に来るんですか?
浦戸 まぁな。着実にそれは向かって来ている。こっちに来ないという事は有り得ない。
勝倉 ところで此処って何駅なんですか?
浦戸 此処の駅はな。名前がないんだ。強いて言うなら無名駅。最早名前という概念を超越したものを保有する駅である。
勝倉 何か難しいですね。僕にはあまり分かりません。
浦戸 だろ?あんたみたいな一般人には到底理解できねぇとは思うけどな。だが安心しろ。お前には関係ない。因みにこの台詞は全てテキトーだ。俺もよくわからん。
赤月 浦戸さん、テキトーな事は言わないほうが良いと思いますよ。そのせいで、奥さんに夜逃げされたんでしょ?
浦戸 お前なぁ。誤解を生むようなこと言わないでよ。俺はさぁ、妻なんておりませんよ。まだ二十歳になったばっかりですから。
赤月 じゃあ、アタシと結婚しようよ。私、まだ誰とも付き合ったことないから安全だよ。
浦戸 安全だよって。赤ずきん、結婚っていうのはさ。別に性的欲求を満たすためのものじゃないんだよ。
赤月 そっかぁ。まだ誰とも付き合ったことないから分からないや。
浦戸 歳を重ねれば分かってくるさ。焦らない。
勝倉 あのすみません。貴方って変な顔をしていらっしゃいますよね。
浦戸 あれ?気づいてしまいましたか。この顔は見える人には見えるが、見えない人には見えませんよ。
勝倉 もしかして、吸血鬼ドラキュラですか?
浦戸 その通り。俺はな。蜂に刺されてな。気がついたら、吸血鬼になっとったんや。
勝倉 スパイダーマンのようなものですか?それは。
浦戸 俺もよくわからないが、赤ずきんが言うには、点滴の針が俺を吸血鬼たらしめたって話だ。
勝倉 どういうことですか。それは。
浦戸 説明してくれ。赤ずきんや。
赤月 分かりました。実は、ドラキュラ様とは、ある個人病院で会ったんです。私は、その時、看護師をしていました。ってあれ?さっきまで浦戸さんと初めて会ったばかりなのに何でこんな記憶があるの?
浦戸 おい、話を先に進めよ。
赤月 はい、すみません。その時、運ばれた急患がこの人でした。彼は意識が朦朧としていて急いで点滴に取り掛かりました。すると、彼は段々良くなってきました。点滴が終わった後、聞いた言葉にぞっとしました。それは…
二人 「お嬢さんの血が舐めたい。」
浦戸 その時、俺の中にドラキュラとしての素質が送り込まれたのである。この時のことは良く覚えている。このまま吸血鬼としての自分を抑えないと、山月記の李徴が虎となってしまったように俺は、ドラキュラに飲み込まれてしまうだろう。そう思っていた。
勝倉 にわかには信じがたい話だが、信じましょう。色々あったんですね。
浦戸 まぁ、結局、俺の人間としての意識がとぶ事は無かったんだがな。
勝倉 あっ、申し遅れました。自分は勝倉遼一です。
浦戸 勝倉?あっ、もしかして常州連合の?
勝倉 知っているんですか?僕の事。
浦戸 知っているも何も、いばロックで対バンしたっぺよ。$Arc-le(ドラークル)と。
勝倉 あっ!もしかして、ドラークルのヴォーカリスト?
浦戸 覚えていてくれたのか?嬉しいな。
赤月 あの、お二人は知り合いなの?もしかして不良グループ?
浦戸 赤ずきん。そんなやましい関係じゃないよ。良いかい。勝倉さんはね。今、来てるバンド、常州連合の、えーと、何だっけな。ギタリストだっけ?
勝倉 はい、そうです。良く覚えていてくれたね。
浦戸 でも、何か最近活躍を聞かないんだよな。どうしてなんだろうな。
勝倉 実は、ついこの前、常州連合は解散したんです。
浦戸 えぇ!あんなに素晴らしいものを何で壊しちゃうんだ。もったいないなぁ。
勝倉 実は、常州連合は一人が旅に出てしまって、皆が居てこその常州連合だったので解散しました。
浦戸 その旅に出た人は?
勝倉 ボーカルの永井です。
浦戸 そりゃあまずいな。ボーカルが旅に出るとは。
勝倉 旅に出たのは、きっとデビューというものが恐ろしくなったんでしょう。僕はまだ、新しいバンドが見つからなくて困っていますが、他の皆は決まりました。
浦戸 よし、勝倉。ドラークルに加入しないか?お前の繊細なギターを披露してくれ。
勝倉 良いんですか?私のような者が。
浦戸 世の中の人は、俺がドラキュラになってから、恐れを成して近寄らなくなった。お前しか頼るものが居ない。
勝倉 で、でも僕もまだ貴方のことが…
浦戸 心配するな。俺は、ゴールド免許なんだよ。
勝倉 ゴールド免許?車のですか。
浦戸 バカ、車の話してどうするんや。吸血鬼にもなぁ。免許があるんや。多くのものを失血死させるのは、ゴールドやない。ゴールドは殺生することなく、血を吸う者のことだ。
勝倉 つまるところ人を殺したことはないと。
浦戸 欲求を抑えてたら、あまり血を欲することも無くなった。一週間に一回の吸血で問題なくなった。あんたの血は吸わないから安心しな。
勝倉 ところで、何で、駅で活動しているんですか?
浦戸 何。簡単な理由だ。よく駅猫とかいるだろ?
勝倉 まぁ、居るところには居ますね。
浦戸 まぁ、それと同じよ。吸血鬼が駅長やっていたら頼もしいかなと思ってな。
勝倉 頼もしいどころか怖いですよ。
浦戸 あん?テメェ何か言ったか?その血液吸ったろうか?貧血になるくらいな。
勝倉 ごめんなさい。
浦戸 あぁ。つい怒っちまった。ごめんよ。最近怒りっぽくてな。心が落ち着かねぇんだ。
勝倉 まぁ、人間そういうときもありますから、気にしないでくださいよ。
浦戸 まぁ、俺は、人間じゃねぇからな。でもその気遣いは有りがたい。
赤月 ドラキュラ様。そろそろ電車が来ます。
浦戸 おおっ!来たのぉ。待たせたな。勝倉さん。
勝倉 そういえば、まだあなた方をの名前を伺っていませんでしたね。
浦戸 俺は、浦戸零。かつて、ドラークルでボーカルを務めていた。
作品名:近代日本愉快伝~駅長吸血鬼 作家名:ガブリー