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33粒のやまぶどう  (短編物語集)

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 二人で乗り込んだ車内、初対面であり、特別な会話へとは進まなかった。だが、「何をされてるのですか?」の男の問いに、女はさらりと答えたのだ。「女優です」と。
 男はぶったまげた。アクトレスなんて、映像の中でしか観たことがない。男は嬉しかった。タクシー内のほんの一時ではあったが、綺麗な女優さんと時を過ごせたのだから。
「また、お会いしたいわ」
 女は軽く手を振り、そして雨の中へと消えて行った。

 偶然に出逢った女、鬱々(うつうつ)とした日々を過ごしていた男にとって、ぱっと花が咲いたようなもの。さらに妄想は膨らみ、女に恋心を抱くようになった。
 もう一度あの女、女優さんに会いたい。そう願う日が続いた。そして再会する時がきた。
 それはやっぱり雨の夜だった。あの時と同じように、女は発車してしまった最終バスを待っていた。

「あのう、今夜もバスは出てしまいましたよ。私がこんこんちき山までお送りしましょう」
「あらっ、そうなの。じゃ、お願いするわ」
 女が微笑む。
 男はこれで一気に距離が縮まった感がした。そしてここがチャンスと「これからもお送りしますよ」と自分を売り込んだ。女は不愉快な顔もせず、「そうね、また雨の夜にお会いしましょうね」と約束してくれた。

 あとはタクシーの乗客となり、軽い世間話で一時を過ごした。そして女は降車し、山へと消えて行った。