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33粒のやまぶどう  (短編物語集)

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 そう言えば、今思い当たる。朝電車に乗ってから大樹の目に入ってきた文字、それらすべてが明朝体に変わっていたのだ。駅名も車内の広告も、駅そばの看板までもがだ。
 とならば節子が話すように、俺は今、明朝体だけの世界にいて……、そこに住む節子と会ってるっていうことなのか?

「大樹、何をぶつぶつ言ってるのよ。さっ、行きましょ」
 節子に腕を引っ張られ、大樹は明朝体フォントの大提灯の下をくぐった。そして賑わう仲見世を通り抜け、本堂へと向かう。
 確かに、目に入る看板も店内のメニューまでもが、すべて明朝体。これが現実、節子が言う通り、ここは明朝体ワールドなのだ。