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33粒のやまぶどう  (短編物語集)

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 そこそこ歳を取ってしまった高見沢、きっと指示代名詞の「あれ、これ、それ」に取り憑かれてしまっているのだろう。そのためか、いつも会話は「あれ、これ、それ」のてんこ盛り。

 だが、さすが漬け物屋の若い店員さん、「白くって、ペタペタと薄い」を3回繰り返し、「ああ、千枚漬けですね」と優しい笑顔でご名答。
「ああ、それが……、あれですよ」
 高見沢はお決まりの指示代名詞で答え、ニッコリとする。

 こんなサラリーマン高見沢一郎を、もし横から見ていたら、「たまには会話の中に名詞を入れろよ!」と文句の一つも付けたくなる。だが当のご本人は、妻の夏子から指示された「あれ」を買い求めることができて、とにかく嬉しそう。
 その結果、赤かぶらと桜漬け、それに千枚漬け、これらの漬け物を小脇に抱え、家路へと急ぐのだった。