小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

33粒のやまぶどう  (短編物語集)

INDEX|70ページ/169ページ|

次のページ前のページ
 


 今は桜花爛漫の時節、高見沢一郎は久々に単身赴任先から自宅へと向かってる。 そんな途中で、駅構内の漬け物店へと立ち寄った。
 ケイタイを掛けてきた妻の夏子から頼まれている、「あれ、買ってきて」と。
「ああ、わかった、あれな」と、その時は忙しく一応返事したが、夏子の「あれ」が何の「あれ」なのか確かではない。だが長年連れ添った女房、およそのことはわかる。

「すいません、それと、これください」
 まずは目に付いたものの中から選び、指さすと、店員はすかさず「赤かぶらと桜漬けですね」と確認し、手渡してくれた。それを受け取り、今度はおもむろに「あれください」と告げる。

「ええっ?」
 店員は小首を傾げ、しばし沈黙。そしてやおら「お客さん、あれって?」と高見沢の顔を覗き込んでくる。
 高見沢はこんな反応に少したじろぐが、「白くって、ペタペタと薄い……」とまずはそのあり様を説明し、それから自信たっぷりに言い切る。「その、あれですよ」と。
 これじゃ何のことかわからない。店員は口を開けたまま、ポカンと放心状態に。