「夕美」 第六話
雅子はタッチの差で俊之の臨終に立ち会えなかった。
重苦しい空気が支配する病室の一角ですすり泣く由美子とじっと一点を見つめている隆一郎の姿があった。
「俊之さん!・・・」
雅子の顔を見て由美子は血の気が引くような感覚に襲われた。それは女の勘というにふさわしい思いだった。
「あのう・・・お名前は?」
「はい、雅子と言います。夕美が大変お世話になっております。義母です」
「ああ、そうでしたか・・・夕美さんが知らせたのね」
「はい、連絡をくれました。一歩遅かったようで残念です。俊之さんには大変お世話になっていたのにこんなことになるだなんて・・・」
雅子はそこまで言うと涙がとめどなく零れてきて、話せなくなってしまった。由美子は手続きを済ませた後で自宅に来てほしいと雅子を誘った。
それは普通の関係ではないと悟ったからだ。雅子はそうとは気づかず乞われるままにタクシーで大森家に向かった。
「お帰りなさいませ・・・おじさまは?いかがですか?」
「夕美、驚くんじゃないぞ。親父は死んだんだよ、さっき」
「ええ?どうしてですか?信じられません」
「くも膜下出血だって。知ってるかい?」
「いいえ、よくわかりませんが、本当なんですか・・・」
夕美は由美子の顔色と泣き腫らしている雅子の顔を見て真実だと感じた。
なにより雅子がここにいることに不思議な思いを巡らしていた。