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タイタニック気付 ジャック

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8 パリの娘のように



君が
裸婦でと
望んだ理由

胸に
ダイヤを
つけてた理由

最初は
真意を
はかりかねてた

「絵を描いて」

君の頼みを
気軽に聞いて

スウィートの
1等室に
招かれて

「パリで描いた
娘みたいに
お願いね」と

それしか着てない
薄いガウンを

目の前で
ためらいもなく
するりと脱がれて
絶句して

それから
しばらく
僕たちは

真面目な
モデルと
画家になった

船の中とは
思えない
静まり返った
贅沢な部屋で

明かりを落とした
暖かな居間の
真ん中で

ソファの君は
お望みどおり
パリの娘と
同じポーズで
横たわったけど

自分が
依頼主のくせに

それから
いくらも
たたないうちに

初心なモデルは
画家の視線に
耐えかねて

頬をうっすら
赤く染めて
それが自分で
気になって

パリの娘は
絶対見せない
はにかんだ
かすかな笑みを
何度か見せた

そのたびに出来る
2つのえくぼが
可愛くて

でも敢えて

紙の上には
写さなかった

抜けるように
白い四肢

ブロンドの
髪のうねり

長い指
小さなほくろ

凝視する
強い瞳

感情を
殺した唇

見たものは
大抵描いた
夢中で描いた

でも幸運にも
垣間見た
頬の赤さと
2つのえくぼは

画家の
勝手な裁量で
割愛させて
いただいた

これだけは
君にも秘密

永遠に
僕の脳裏に
残るだけ

「画家さんが
赤くなってる」

丸い乳房の
縁取りと
みぞおちにできる
その影を
指でぼかして
いたときか

逆襲だと
言わんばかりに
茶々入れて

「偉大なモネは
赤くなったり
しないでしょ?」

誰かさんは
嬉しそうに
追い打ちかけた

「裸婦なんか
モネは描かない」

真面目に答える
ふりをして
眉間にひたすら
しわ寄せて
右手を
動かし続けたけど

頬も耳も
熱いのは
自分が一番
判ってた

目を上げれば

吸い込まれそうな
淡いブルーの
瞳にぶつかり

目を落とせば

絵の中から
僕を見上げる
君の瞳と
またぶつかり

言いようもなく
どぎまぎしながら

僕は幸せな
画家だった

そして僕らは
最後まで

真面目なモデルと
画家だった

木炭の粉を
吹き払って
茶色の革の
表紙を閉じて
完成した絵を
渡したら

モデルが僕に
教えてくれた

タイトルは

“パリの娘のように”

「パリの娘も
この私も
生身の人間

服がなければ
このとおり
全く同じ

お化けみたいな
こんな下品な
宝石が
何の役に
立つかしら」

得意げに
解説してから

照れくさいのを
ごまかすみたいに

初心なモデルは
僕に向かって
キスをした