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タイタニック気付 ジャック

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7 未来の姿



(1)

「結婚ぐらい
耐えられる」?

「あの人を
愛してる」?

「大丈夫だから
ほっといて」?

意地っ張りにも
ほどがある

いつだって
あの負けん気には
感心するけど

こればっかりは
褒めてやれない
じれったすぎて
見てられない

僕だって
馬鹿じゃないよ

君には
手なんか
届かない

それは
知ってる

ずっと一緒に
歩いてやるのは
無理なことだと
判ってる

でもせめて
逃がしてやりたい

忌み嫌ってた
檻の中から
君が逃げ出す
手助けぐらい

この僕が
してやりたいのに

たぶん
そんなに
時間もないのに

このまま船が
港に着いたら

死ぬまで2度と
引き返せない
一本道を
歩かされて

行きたいときに
行きたいところに
思いどおりに
行くなんて

死ぬまで夢で
終わってしまう

それくらい
判ってるだろ?

判ってるのに
目をそむけるの?

そんなに怖い?

僕が一緒に
飛び込んでやる

そう
言ってるのに
それでも怖い?

--後悔するな--

ディナーの席の
あの一言は
君に向かって
言ったのに

やっぱり気づいて
なかったのかな


(2)

海がどんなに
凪いでても

舳先では
遮るものが
全くないから

四六時中
風が荒くて
もちろん誰も
寄りつかなくて

冷えそうもない
頭を冷やす
これ以上ない
場所だった

「ねえジャック」

振り返ったら
君が立ってた

「やっぱり
後悔したくない」

その先は
言わなくていい

憑き物が
落ちたみたいな
その顔に全部
書いてある

「おいで」

手を取って
舳先に立たせた

「目を閉じて」

「支えてるから
フェンスを1段
上ってごらん」

「僕を信じて
両手を横に
まっすぐ伸ばして」

ゆっくりゆっくり
恐る恐る
僕が言う
言葉どおりに

切り立った
タイタニックの
舳先で君は

全身で
十字架になり

どうしたって
震えてる
十字架の君の
腰を
腕を

真うしろで
僕は支えて

「目を開けてみて」

一瞬おいて
呆然として

「空を飛んでる!」

君は叫んだ

行きたいところに
思いどおりに
行ってみたいって
言ってたろ?

束の間だけど
叶えてあげる

あの夕焼けの
水平線まで
行ってみる?

君の呼吸の
高ぶりを
 
寄り添った
その体中から
感じながら

心の中で
僕は言ってた

ローズ

今なら僕が
支えてあげる

今なら
支えてあげられる

いや正確には

今しか支えて
あげられない

判るだろ?

船を降りたら
それから先は
君が1人で
飛ばなくちゃ

がんじがらめで
生きたくないと

命さえ
捨てかねない
人だから

筋金入りの
負けず嫌いで

幸も不幸も
自分で選ぶと
物怖じしない
人だから

大丈夫
君なら飛べる

この僕が
保証する

だから
きっと
覚えてて

これが君の
未来の姿

空も海も
広いだろ?

邪魔ものなんか
何にもないだろ?

怖がらずに
自身を持って
思いどおりに
飛べばいい
君なら出来る

心の中で
そう言いながら

いつのまにか
飛んでる君に
見とれてた

ショールの翼を
はためかせて

夕焼けに
溶け込みそうに
美しく
君は舞ってた

僕が目にする
まちがいなく
最初で最後の
君の雄姿

目の奥に
焼きつけなくちゃ

そう思いながら

愛してるとは
言えなかった

船を降りたら
もう縁もない
人だから

言っても
詮無いことだから

愛してるって
言えなかった

後ろから
抱きしめて
口づけて

「怖くない?」

ただそう
訊いた

「信じてるから
怖くない」

それでいい
それならいい

君の答えが
うれしくて

その君を

もうそう長く
支えて
あげられないことが
歯ぎしりするほど
悔しくて

もう1度
口づけた