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タイタニック気付 ジャック

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5 ディナー



(1)

20年近く
生きてると

ときどき笑える
こともある

出港の
5分前まで
ポーカーに
目の色変えて

フルハウスで
転がり込んだ
3等切符を
握りしめ

岸を離れる
寸前の
世紀の
豪華客船に

間一髪
飛び乗ったりする
こともある

かと思えば

見知らぬ女性の
突拍子もない
身投げの現場に
居合わせて

突拍子もなく
強姦犯だと
疑われかけた
翌日に

一転
命の恩人として
一躍
英雄扱いされて

1等客の
ディナーの席に
招かれたりする
こともある

20年近く
生きてると

ときどき不思議な
こともある


(2)

借り物の
タキシードなる
代物の

動きづらいのに
辟易しながら
それでもどうにか
慣れたころ

大広間の
大階段で

行きかう紳士の
物腰を
見よう見まねで
暇つぶし

エスコートだって
バカにならない
見るべきものは
いろいろあると
感心しかけた
ときだった

踊り場の
時計の前で

僕を見下ろす
誰かさんと
目が合った

馬子にも衣装と
感心したか

その分なら
エスコートはもう
完璧ねと
からかったか

遠目にも
笑って見えた
君の目が

ワインレッドの
ディナードレスの
裾を優雅に
引きずりながら

一歩一歩
下りてきて
目の前に
立ったときには

不安そうに
曇ってた

遅かれ早かれ
ディナーの席で
晒しものに
なるだろう僕を
案じてる?

平気だよ

貧乏人の
分際でと
好奇の目に
さらされようが
嫌味のシャワーを
浴びようが

いくら何でも
取って食われや
しないだろ?

大丈夫

そんなこと
君が気に病む
ことじゃないのに

そう思ったら
かえって君が
気の毒で

覚えたて
ほやほやの
 
レディの手にする
うやうやしいキスを
披露して

エスコート用の
右腕を

くの字に曲げて
あご突き出して
おどけてみせた

君がクスッと
吹き出してくれて
ホッとした


(3)

君のママは
満座の中で

容赦なく
辛辣で

気を悪くする
暇もないほど
根掘り葉掘り
僕を
質問攻めにして

根なし草の
暮らしはそんなに
快適かと

上品な
言葉遣いで
あてこすった

--健康な
体があって

スケッチブックも
どうにか買える

僕は充分
恵まれてる--と

--何事も
神様の思し召しなら
くよくよしたって
始まらないから

その日その日を
楽しんで

“後悔するな”

それだけを
いつも自分に
言い聞かせてる--

そう言った

自慢も卑下も
したつもりはない

問われるままに
答えたつもり

敢えて
言うなら

目もそらさずに
聞いてくれてた
誰かさんに
言ってたつもり

そんな心中
知ってか知らずか

僕の言葉を
即 引き取って
シャンパングラスを
高く掲げて

「後悔するな」

乾杯の発声を
おもむろに
買って出たのは
誰あろう君

人に不意打ち
食らわせるのが
大好きな

頼もしい
たった1人の
応援団に
僕も乾杯

「後悔するな」