タイタニック気付 ジャック
3 スケッチブック
さんざん僕を
罵った
気まり悪さを
隠すのに
有無を言わさず
ひったくるなり
眺め始めた
スケッチブック
年中小脇に
抱えてる
僕の分身
デッキチェアに
陣取って
スケッチを
めくるたんびに
質問三昧
君はほんとに
絵が好きだった
パリの娘の
裸婦像に
食い入るように
見とれたくせに
他のお客が
通りかかると
その裸婦を
何食わぬ顔で
そっと隠した
あの初心な
君の仕草は
忘れない
「ねえジャック
あなたは人を
見抜く目がある」
どの絵を
どう見て
そう思ったか
唐突に
君は褒めたね
買いかぶりも
いいとこだけど
せっかくだから
言わせてもらった
「だから僕は
見抜いたろ?
君は絶対
飛び込まないって」
君って人は
男の真意を
読むのが全く
下手クソで
臆病者と
からかわれたと
思ったか
笑みは消え
たちまち険しい
仏頂面で
直りかけてた
君の機嫌は
もちろん
元の黙阿弥だった
作品名:タイタニック気付 ジャック 作家名:懐拳