タイタニック気付 ジャック
2 単純な質問
「そのフィアンセを
愛してる?」
日が燦々と
降りそそぐ
午後のデッキの
散歩の途中で
僕は一言
訊いてみた
船を降りたら
即結婚だと
望みもしない
縁談だと
左手の
指輪を見ながら
呪わしそうに
君が言うから
いまいましい
この檻から
今すぐにでも
逃げ出したいのに
もがいても
気づいてくれない
蹴破ろうにも
力がないと
どこに怒りを
ぶつけていいか
判らなそうに
声荒げるから
思ったままを
訊いてみたまで
フィアンセを
愛してる?
単純な
質問だよ
しかも
訊きたく
させたのは君
その結婚とやらに
賭けるべきか
賭けざるべきか
そんなこと
この質問への
イエスか
ノーかに
尽きるだろ?
答えられない?
たしかに
僕の質問も
上品とは
言いかねるけど
それにしたって
あの八つ当たりは
豪快すぎる
無礼だとか
ぶしつけだとか
侮辱するにも
ほどがあるとか
淑女の品位も
あればこそ
さんざん罵声を
浴びせた挙げ句
散歩がしたいと
呼びつけといて
きげんが悪く
なったら最後
目の前から
今すぐ消えろ?
君のその
高飛車かげんは
無礼にかけちゃ
僕とどっこい
いい勝負だよ
断言できる
でも
だからって
腹を立ててる
わけじゃない
横で見てると
楽しくていい
退屈しない
それに大方
君の嵐の
やり過ごし方も
心得た
作品名:タイタニック気付 ジャック 作家名:懐拳