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タイタニック気付 ジャック

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10 終わりの始まり



(1)

「船が着いたら
あなたと降りる」

君が気でも
狂ったかと
自分の耳を
疑ったのと

目の前の
夜目にも白い
あってはならない
不気味な山から

爆音もろとも
氷の破片が
大小問わず
降りそそいだのと

皮肉なことに
ほぼ同時

深夜の船首の
甲板だった

氷山衝突

船会社の
お歴々は
血相を変え

救命胴衣を
配るクルーは
右往左往

それなのに

起こった事の
重大さなんか
知る由もない
3等客は

甲板の
氷のかけらで
退屈しのぎに
サッカー三昧

大多数の
客たちだって
真相なんか
知らされもせず

もうしばらくは
旅の一夜を
楽しんでた

ローズ

あれが
終わりの
始まりだったね


(2)

2度目の
濡れ衣
着せられて

今度は
手錠に
つながれて

真っ先に
浸水してくる
船底で

溺死を待ってる
僕を探しに
来た君が

「すぐ戻るから!」

一目見るなり
半狂乱で
助けを呼びに
行ってから

何分くらい
たったろう

戻って来たのは

“剣”ならぬ
“斧”振りかざした
ジャンヌ・ダルクで

時ならぬ時に
不謹慎にも
僕はあやうく
吹き出しかけた

2度打ち下ろした
リハーサル

30センチは
離れてたかな?

それ見て
僕は
勇気100倍

君の斧で
ここで死ぬなら
本望と

僕が覚悟を
決めたのを
知ってか知らずか
ジャンヌ・ダルクは

手錠の間の
細い鎖を

恐怖のあまり
目までつぶって
ものの見事に
一刀両断

解放された
囚人は

喜びも
通りこして
呆気にとられた

それでも
容赦ない水は

ゆうに腰まで
達してた


(3)

ごめんよ
ローズ

悔しいことに
3等客は

ゲートの奥に
閉じ込められて
自由に上にも
上がれない

当然助かる
はずの君まで
巻き添えだ

ごめんよ
ローズ

甲板に
戻ってくるのに
時間がかかった
ばっかりに

とっくに乗ってて
いいはずの

君のボートを
今ごろ僕らは
探してる

手を取り合って
船の底から

とにかく上へ
とにかく外へ

その一念で
走りながら

心の中で
ずっと
謝ってた僕が

1度だけ
どやしつけたね

「ジャックも
次の
ボートに乗れる」

とっさに芝居を
してくれた
気が利く君の
フィアンセに

初めて礼を
言いたくなった
ときだった

頑として
聞かない君を
どうにかこうにか
なだめすかして

狂瀾怒濤の
甲板で
残り少ない
ボートに乗せて

無事に
海に
浮かんでくれと

まどろっこしく
下りていく
君の姿に
祈るしかない
ときだった

「じっとしてろ!」

「バカげてる!」

フェンスから
落ちそうなほど

真下を
のぞいて
どやしつけた