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鏡の中

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全てのトレーニングメニューを終えた広瀬は、大浴場で汗を洗い流した。
そこそこの広さを持った浴場には、ジェットバスや薬湯、水風呂などの他に、スチームサウナやドライサウナ、露天風呂まであった。この大浴場が目的でこのスポーツクラブに入会する人も多いと聞く。
大浴場から出てバスタオルを腰に巻いた広瀬は、メイクアップルームの鏡の前に並べられた籐製の椅子の一つに腰を下ろした。
ドライヤーで髪を乾かしながら、鏡に映った自分の顔をぼんやりと見る。
当たり前だが、広瀬の右眉の切れ込みは、鏡に映った広瀬の顔では、左眉の切れ込みになっている。
この切れ込みのせいで、人相が多少他人に悪い印象を与えてしまっているんだろうなあ、と広瀬は考える。この右眉の切れ込みも、なんとかならないだろうかと思いながら、以前の自分だったら絶対にこんなこと考えなかっただろうなと、ふと、苦笑したい気分になった。
多少体が引き締まってきたくらいで、もう体の他の部分を気にし始めている。おまえは40歳台半ばのおやじだろ。
広瀬は心の中で自分に言い聞かせた。
そのとき、鏡に映った自分の顔にわずかな変化があった。ちょうど眉の辺りの顔の横に、なにかがちらりと見えたのだ。
広瀬は一瞬鏡を凝視した後、後ろを振り返った。自分の背後に何かあるのではないかと思ったのだが、そこには何もなかった。
自分の背後にも、壁一面に大きな鏡が貼られ、その前にはカウンターがあって、籐製の椅子がずらりと並んでいるだけだった。そして、そちら側にも広瀬が座っている側にも、まばらに人が座って髪をかわかしたり、耳に綿棒を突っ込んだりしている。
広瀬は正面に向き直り、改めて鏡を見つめた。
メイクアップルームの両側の壁には一面に鏡が貼られ、巨大な合わせ鏡になっている。互いを映しこんだ合わせ鏡の中の映像は、徐々に小さくなりながら無限の彼方まで続いている。そこに映りこんだ人も、まったく同じ動きをする何十人・何百人の映像となって、無限の彼方へと続いている。
自分の顔も同様に無限の彼方に続いているはずだが、その映像は真正面にある自分自身の顔に邪魔されて、見ることができない。
広瀬が鏡に映った自分の顔を見つめていると、再び顔の横で何かが動いた。それは、先ほどちらりと見えたものよりも、多少大きかった。
動いたのがほんの一瞬だったため、よく見えなかったが、何かが自分の顔の横から姿を現し、すぐに顔の陰に隠れたようだった。
作品名:鏡の中 作家名:sirius2014