「夕美」 第四話
夕美はこの日二人だけの時間をお手伝いとしてではなく、高校生同士として、いや初めて男性を意識して話をしていた。もちろん隆一郎も同じであった。
「夕美は将来どうなろうと考えているんだ?」
「はい、収入がたくさん得られるような職場を選んで働いて、弟や妹たちを預かってもらっている親戚に遠慮することなく大学に通わせたいと願っています。自分のことはみんなが卒業してから考えます」
「そんなこと言っているとおばあちゃんになってしまうぞ」
「そうですね。一番下の晴樹が6歳だから・・・あと16年ありますね。その時は自分が32歳。もう結婚出来ないかも知れないですね」
「そんなことはないだろうけど、おれはさ、父親と母親を見てると結婚なんてしたくないって感じるよ。もし自分が大企業なんかに就職したら結局親父みたいに働かされるだろう?仕事辞めたら収入減るから家族を幸せにできない。
そんな矛盾に苛まれるぐらいなら、好き勝手な一人暮らしを続けている方が楽しいよ・・・きっと」
「おひとりで暮らすことなんてお父様がお許しになりませんよ。お母様も寂しい思いをなさるし。隆一郎さまはお一人っ子だから
大切にされていると思います」
「それがおれには負担なんだよ。母親のことを考えるとここを出てゆけない。親父はいるけど居ないようなもんだし。
夕美のような物分かりの良いお嫁さんが来てくれたらいいんだけど・・・」
そう言って隆一郎は夕美の目をじっと見た。