「夕美」 第四話
「私なんて隆一郎さんとは身分が違いますから遠い存在です。そんなことお分かりなのに仰らないでください」
ちょっと悲しい顔つきに変わった。
「夕美、身分なんて時代錯誤だよ。今は平成だよ。もう昭和じゃない」
「いいえ、どんな時代でも生きている人間には自分の分相応というものがあります。それを弁えることが大切な分別だと考えます。そのことは亡くなった母親も話していました」
「クラスにイギリスから留学帰りの奴がいるんだけど、外人は本当に発想が自由だと言ってたよ」
「そうですか。うらやましいですね」
「近いうちに日本人もそう考えるようになるよ。国際結婚も外国移住も珍しいことじゃなくなる」
「自分には縁のない話ですが、そういう国になれば閉鎖的な部分は無くなってゆきますね」
「そうだよ。すでに無いと言ってもいいけど、親父ぐらいの歳だとまだ頭が固いから困るんだよね」
「隆一郎さまがこれからの時代を作ってゆかれるのですから、お父様に負けないように立派な業績を残されますようにお祈りしています」
「夕美、ありがとう。今は言えないけど、おれは今決めたことがある。たとえ親父に反対されようとも、母親が賛成しなくても自分が勇気を出して叶える」
「どのようなことかわかりませんが、頑張ってください」
隆一郎はそう言い放つと風呂に入ると言って席を立った。
居間で一人になった夕美はあることを考えていた。もうすぐお正月なので暇をもらって弟や妹たちを連れて初詣に行きたいと思い立ったのだ。
母親が居たときは近所だったけどお正月にはみんなでお参りに行ってた記憶が強く残っていた。離れ離れになってみんなで集まることが出来るのは、この日だけだと思えるから一層のこと会いたいと願う気持ちが強くなっていた。