「夕美」 第四話
「銀行員にか?そこまで言わなかったけど、コネで一流企業に就職させてやるから、大学だけはちゃんと出ておけと言ったよ」
「そうですよ。一流大学を卒業することは大切だと考えます。私は学歴がないから一生懸命に働いて弟や妹たちがちゃんと大学を卒業できるように応援してあげたいと思っています」
「夕美は本当に立派だな。男に生まれてきたら大した出世をしていたと思うよ。でも、可愛いから、玉の輿に乗る?っていうのもありだよ。ハハハ・・・」
「もう、変なこと言わないでください!私なんか誰ももらってくれませんよ・・・貧乏が染みついているから」
「悲しいこと言うなよ。夕美の欠点は前向きじゃないことだよ。今は叶えられそうにない夢も時代は変わってゆくから、自分にチャンスがきっとまわってくるよ。その時に引っ込み思案にならないことが大切だよ」
「隆一郎さん、ありがとうございます。そんなこと言って頂けるのは・・・初めてです」
夕美は大粒の涙をこぼして泣いていた。
隆一郎にはそれがとても新鮮に映っていた。素朴に感じられたのだろう。
「もう泣くな。こっちまで悲しくなるよ。それでなくても親父に頭が上がらないんだから・・・」
「すみません。お風呂になさいますか?お湯入れてきます」
夕美はそういうと席を立って浴室に向かった。
隆一郎は今こうして二人きりで家にいることをちょっと嬉しく感じていた。話し相手になるし、お互いの環境が違いすぎるから聞くことが新鮮に感じられるのだ。それによく見ると可愛い。
親父のおかげで羽振りが良かった隆一郎はそれなりに学校でも女子に人気はあった。
通っているカトリック系の私立高校は県内の実業家や大手企業の重役連中の息子や娘などが多く通っていた。帰国子女たちもたくさんいた。
当然彼ら彼女らは上の大学にそれも国際学科に進むことが目標である。
隆一郎もそうなって、在学中に留学して語学勉強をするように父親に勧められていた。