慟哭の箱 3
「あははっ。なんで隠すの。さてはエロい本でも見てたー?」
背後に立っていたのは、旭だ。しかし顔つきも、声も、しゃべり方も、旭とはまったく別人だった。交代人格だ、と悟る。顕在化してきた、旭の中の他人たち。
「そんな警戒しないで。傷つくじゃん」
ちょっと軽いしゃべりかたと、少し首をかしげる仕草。目は猫の目のように三日月形に笑っている。前髪を落ち着きなく整えながら、彼は清瀬に向かってにっこり笑いかけた。
「はじめまして。俺の名前は真尋(まひろ)。須賀旭の外交担当してまーす」
「外交…?」
「刑事さん、俺たちのこと知りたいんでしょ?」
その本、と真尋を名乗る彼はデスクの本の山を指さす。
「蓋を開けるなって、クギさされたのに。しょうがない刑事さんだなあ」
「おまえ…あのとき俺を襲ったやつか?」
「違うよー。あれは一弥(いちや)だもん。俺、そんな勝手なことできない立場だしー」
彼はベッドに腰掛けて、だらしなく両手を後ろにつくと、清瀬に向かって続けた。
「夜は長いよ刑事さん。何から話そうか?」
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