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私の読む「源氏物語」ー83-蜻蛉ー2

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 気持がゆったりとして、態度の立派である薫ですらも、このような色恋の道には、心も体も苦痛に悩むことが自然に着いてくるものであるから、まして好色の匂宮は薫に増して、浮舟を思慕する気持を押さえかねながら、浮舟の死別の悲しみを話す相手もなく、中君だけは、妹であるから浮舟の事を、可哀そうであったなどと、言うのであるが、中君は妹とはいえ、親密に語りあうこともなく、つい最近妹と分かったことであるので急に始まった親しさであるから、浮舟の死に同情することはそう深くはない。だから匂宮が思うままに、浮舟が恋しい、可哀想であるなどと中君に言いいたいがそれも、なんとなくきまりが悪いから、かつて宇治におった女房の侍従を、二条院に、前にも召したがその時と同じようにまた二条院に呼び寄せた。宇治では浮舟の女房達は、全部が暇を貰ってちりぢりになり、浮舟の乳母と女房の侍従と右近のみが浮舟存命中は、格別に目を掛けていたので、浮舟を忘れかねて、残っているのであった。けれども、侍従は、譜代の女房ではなく、浮舟には、乳母や右近よりも浅い関係の人なのであるけれども、浮舟の死後も、やっぱり、乳母や右近と、話し相手として残留していたのであるが、聞き慣れない、荒々しい恐ろしい宇治川の水の音も、浮舟の生存中は、浮舟との毎日が楽しく、川の音も気にすることもなかったのであるが、浮舟没後の今は情け無いほど川音が恐ろしく響いて来たので、京の粗末なところに侍従は居を構えていたのであるが、それを匂宮は探し当てて、
「二条院に仕えなさい」
 と誘うのであるが、侍従は、匂宮の御好意は御好意であるとして、感謝するけれども、二条院の女房達の噂するような事も、浮舟は中君と異母姉妹の関係でありながら、匂宮と関係があったような事情が入りまじってしまっている所は、自分にとって聞き苦しい噂もあることであろうと侍従は思い、匂宮の仰せを受けずに、明石中宮に宮仕に出仕致したいと匂宮にもその旨告げたから、
「それは良いことだ、匂宮の意向からの宮仕では、明石中宮も内々に侍従を使われるであろう」
 と言ってきた。そうすれば身寄りのない淋しさも無くなるであろうと、侍従は、明石中宮に仕える女房の中で知人を捜して、明石中宮の許に参上した。上品で相当な下臈女房であると、許されて、女房達も反対しなかった。薫大将は明石中宮に絶えず参上してこられるのを侍従が見る度に、浮舟を思い出し昔が思われる物哀れな心になった。
「身分の高い、貴族方の姫君だけが宮仕えに参上している宮です」
 と女房が言うのを、侍従はやっと女房達を見渡してみると、浮舟よりも優れた人はいないわと思って仕えていた。
 この春に亡くなられた式部卿の宮の娘を継母の北の方が可愛がらないで、北の方の兄である右馬頭という人柄も格別な事もない男が宮君に懸想しているのに、そんな男が婿では、宮君に気の毒であるとも継母は思わないで、当然右馬頭が宮君の婿になるようにすると、明石中宮が聞きくことがあり、中宮は、
「父式部卿宮が、とても大切に育て上げられた姫君(宮君)であるのに、捨てるもののように右馬頭の妻とするのは彼女の一生を弄ぶようで、どうも御気の毒である」
 と言われるので宮君は心細く心配し、嘆き続ける生活ぶりなので、宮君の兄の侍従が、
「やさしく、明石中宮が、このように親切に、気に掛けて下さる事よ」
 と兄も言い、明石中宮はすぐに宮君を侍女にと迎えられた。女一宮の御相手として、宮君が明石中宮と従姉妹の故に女一宮と、とくに相違のない身分の人であるから、身分も尊く特別な扱いで宮仕えをしていた。だが、式部卿宮の娘、明石中宮の従姉妹とはいえ、宮仕する人であるから、身分には限度があるので、式部卿宮の娘の故に呼び名を、「宮の君」などと言って、唐衣は着なくて、裳だけを着けなされるのが、式部卿宮の姫君としてかしずかれた身分であつたのに、いかにも気の毒に見えた。兵部卿匂宮は、宮君は恋しい浮舟に思い較べる事が出来る姿である。宮君の父親王(式部卿宮)は、浮舟の父親王(宇治の八宮)とは兄弟であるからと、いつもの浮気の心は、浮舟が恋しいので女の人で浮舟に似た人を見たいと思う癖が止まなくて、宮君が明石中宮に迎えられると、早速見たいと、匂宮は宮君に心が奪われていた。
薫大将も、宮君が明石中宮への宮仕に出仕した事は、非難する程までに価する事柄でまああるなあ。昨日・今日と言う程、最近に、宮君を春宮の妻にと父の式部卿の宮は差し上げようと考えていたのに、自分にもかつては、そのようなそぶりを示しなされた。それなのに、女房として宮仕するような、頼りない、落ちぶれを見ると、浮舟のように水に投身して水底に宮君が沈んでいても、誰からも非難を受けない事であろうなどと思いながら、他の人よりは一層宮君に懸想をしていた。この六条院に明石中宮が滞在しているのを、内裏よりも広く楽しく住める処であると常には伺候していない女房なども集まり、すべてが気を許して住みながら、広々と遠くの方まで、沢山ある対の屋や廻廊や渡り廊などに、一杯に住んでいた。左大臣タ霧が昔の源氏の威勢にも負けずに、万事に関して抜け目なく明石中宮に仕えていた。明石中宮の子孫も繁昌し、重々しく立派に栄えてしまった、タ霧の御一門であるからなかなか源氏の昔の時代よりも当世風の花々しさは、まさっいるようであった。匂宮は浮舟の悲嘆が無くて平素のままの、好色の心であるならば、明石中宮が里の六条院に滞在の今までの間に、どんな好色事件などを起こしたことであろう。しかし、最近は落ちついて、少し、御気性が好転なされるのかなあと、人々は見ていたのであるが、この頃になって、宮の君に持ち前の性分が出て、匂宮は懸想して、動きまわるのであった。
 涼しくなったからと言うので、明石中宮が内裏へ戻ろうとすると、
「秋の紅葉の頃を」
「此処で見ないと心残りです」