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私の読む「源氏物語」ー83-蜻蛉ー2

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「あんな真面目な薫が、真面目ながら、女に心を寄せて話をする場合は、その相手として、気の利かないような女は困る。気が利かなくては気心の浅い者と薫に見透かされて、見捨てられるであろうなあ。その点小宰相は気が利く者で心配はなかろう」
 と言い、薫とは姉弟であるが薫をやっばり気にして、自分の周りの女房なども、立派に薫と応対してほしいと思うのであった。大納言の君は、
「外の女房よりは薫は小宰相に気があるようで、彼女の局に御立寄りなされるようであります。小宰相と親密な話し合いをしては夜更けてから薫がお帰りになることがありますが、世間で言うような、好色な色恋のようではないようであります。匂宮が思いやりがなく、好色に乱れておられると小宰相は思って、直接御逢いしない上に、文の返事もしないようでございます。然しながら男の方は親王という身分であります、勿体ない事でござりまする」
 と言って笑うと、中宮も笑って、
「匂宮の見苦しい有様を小宰相がいかにも見抜いていて、返事もしないというのは、面白いことである。どうにかして、このような女遊びで乱れる癖を、直したいと思う。小宰相などまで、匂宮の仇心を見抜いている事は、匂宮の母として恥ずかしい事であるなあ。ここの女房達も見抜いている事であろう」
「すこし変なことが耳に入りました。この薫大将の亡くして御しまいになった浮舟は、匂宮の二条院に御住みなされる北方(中君)の御妹なのであったということです。然し腹違いです。常陸の前の介の妻は、その薫の亡くして御しまいなされた浮舟の叔母であるとも、母であるとも、言うことですが、実際の事情はどうなのでしょうか。その浮舟に匂宮が内々に通っていたのであった。薫はそのことを察して急に京へ移そうと番人、守り役をつけたりなど、警戒を厳しくしたので、匂宮が忍びで宇治に行かれたが山荘内に入ることが出来なくて、馬に御乗りのまま、見苦しい恰好で、戸外に立ったままで、
逢うことも出来ないで京に帰られた。浮舟も匂宮を慕っていたのであろうか、突然に行方がわからなくなったから、宇治川に身を投げたと言う事のようであると人々は言ってますので、浮舟の乳母や女房達は途方に暮れてないっていたと言うことです」
 聞いて明石中宮は、驚くべき大変な話であると、思い、
「誰がそのようなことを言っているか。身投げとは気の毒な情ない事であるなあ。身投げなどの珍しい事件は、自然、世間に評判が、きっとあるに相違ないのにねえ。然し、人は語らず、薫大将も何もそのことには触れないで、世間が頼りなく無常で、甚だ悲しい事や、浮舟とは言わなかったが、宇治の八宮の一族が、その身投げなどをしたように、短命である事を、大層悲しいと考えて言われたが」
「いやもう、よくは存じませぬが、「下々の者は、確実でない事を言うものでるから、あまり当てにはならないと、思うのですが、宇治にいた下働きの女童が、ついこの頃、小宰相の里(実家)に来て、実際に見た確実な事のように、その一件を言ったそうである。然し、こんなに不思議なことで浮舟が御亡くなりなされてしまった事を、他人に話すまい。驚く変事で、恐ろしいような事であると言うので、宇治の人達が懸命に隠している事件であるので、それで、薫にも、浮舟の事を詳細には宇治の人が詳しく話さないのではないでしょうか」
 中宮は、
「このような話を、また外の人に語るなと、女童に、誰かに命じて口止めをさせて置きなさい。匂宮はこのような色恋の事で、御身をまあ持ち崩し、人からも軽々しく、また、気に食わない者として、きっと見られてしまうことになると思う」
 と心配するのであった。
 
 女一宮から女二宮に文があった。女一宮の筆使いが見事であり美しく気品があるのを薫が見て大変嬉しく、このように女二宮に女一宮と文通させて、もっと早くから、女一宮の文を見れば良かったと思うのであった。色々と興味のある絵などを、明石中宮も沢山女二宮に贈ってきた。薫も外にない興味ある絵を一宮に贈った。芹川大将物語の主人公の芹川大将の息、とほ君が、女一宮に心を寄せた、秋のタ暮に恋しさに思いあまって、女一宮方に出かけて行った絵を、面白く描いてあるのに、薫は自分の現在の心に思いを寄せた。薫は、芹川大将物語中の女一宮が、とほ君に靡いたようにそれ程、思い靡く女が、自分にもあるならば、どれ程嬉しいであろうなあと思う自分が悔しい、

荻の葉に露吹き結ぶ秋風も
  夕べぞわきて身にはしみにける
(白露も荻の葉の上に吹いてその露を結ぶ秋風も、タ暮は、取分けどうも、身にまあ、しみて感ずるのであった)

 と歌は書いたが絵に添えたいとは思うが、女一宮に懸想心のあるような、少しばかりのそぶりでも、外の人に漏れたならば、女二宮の夫であるから、面倒な夫婦仲であるから、ちょつとした事でも、懸想めいたような気持は、それとなく漏らし出す事は出来そうもなく、こうして、色々の点でもだえ苦しんで最後は、大君が亡くならずにこの世に生きておられれば、どんな事があっても、外の女に自分は懸想などはしない。時の帝の娘を妻として頂こうということになっても辞退したであろう。また自分に大君のように愛する人があると、帝が御聞き遊ばしながらまあ、こんな女二宮を降嫁させなされる事もなかろう。考えると、やっばり、つらく情なく、自分の気持が乱れて止まらなくなる宇治の大君である。薫は思いあまってまた別に、匂宮の北方である大君の妹中君を心に思って、恋しくもあり、また、大君の言うとおりに自分の物にしなかった事が情なくもあり、匂宮になかだちした自分の行動が、馬鹿げていて悔しいのである。薫は、中君に懸想して思い悩み、その次には、意外な状態で亡くなってしまった浮舟の躊躇なく思いきった死の軽率さには、呆れてしまってはいるが、然しながら、匂宮と薫との間の板挟みで苦しみ、悩み込んでいた時に、自分が、
「浪越ゆる頃とも知らず末の松まつらむとのみ思ひけるかな」(波が越える(御身が外の男に移るあだし心を持っている)時であるとも知らなくて、私は、御身が私を待つであろうとばかり、思っているのであったなあ)
 と歌を送ったので、浮舟は私の態度が何時もと違っていると気づいて、匂宮と薫との間に板挟みなので、気が咎めるために嘆き沈んでいたようであった浮舟のことを、右近女房から聞いてはいたが薫は心配しながらも、浮舟を本妻でなくて、ただ気楽に可愛らしい話し相手としようと自分では思っていたが、かつては可愛らしかった浮舟であったけれども、今までのいきさつを、色々と考えて見れば、匂宮に対しても、恨みは申すまい。浮舟に対しても自分が浮舟を宇治に置いた事が、どうも失敗であるなどと、考え込むことが始終あった。