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私の読む「源氏物語」ー82-蜻蛉

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 など、亡き浮舟は勿論、その上この侍従までも別れが辛く思うのである。
明け方暗い内に侍従が帰ろうとすると、浮舟が京に来たときに、調度にしようと思って用意していた、櫛の箱一具(よろひ)と、衣入れの箱一具を侍従への贈り物にされた。浮舟のために色々と支度されたのは多かったが、多くを与えるのも大層なことであるから専らこの侍従が持てるだけの程度なのであった。
 侍従女房は、何も考えずに二条院へ行って匂宮に浮舟の在りし日のことを語り、このような立派な贈物を頂戴したことが、周囲の女房はどう思うであろう。不審に思うに違いないと、何と言う事なしに困ったなあと、当惑するけれども、どうして断ること出来ようか。宇治に帰って右近とこっそりと見ながら隙だから、よく見ると、細工は精巧で、形態や意匠は、当世流行風に目新しく作り、また、戴いた品々(櫛箱など)を見ても、浮舟の思出して二人ともさめざめと泣くのであった。贈られた装束も、大層美麗に仕立てられた物で、侍従は、
「喪中に、この花々しい装束を、人の目からどうして隠しておこうか」
 などと処置に困っていた。
 薫大将も匂宮のようにやっばり、浮舟の死の事情が気がかりなために、宇治へ出掛けた。道中、八宮在世中に初めて山荘を訪れたことから始まって、それから後のことを色々と思い出しながら、どんな因縁で、大君・中君・浮舟などの父親王の許に来たのであろうか、そうしてこのように意外な、こんな末の娘の浮舟までも考えて世話をし、八宮の縁者にかかわって自分は、締め付けられるような愛の苦しみを受けたことだ。立派だった八宮と近づきになり仏を案内者として、後世の極楽往生ばかり夢見てたが、今は浮舟への物思は、大君に懸想した心のきたない結末の間違いであると、仏が自分を懲らしめるように思っていた。右近女房を呼び、
「死に至るまでの浮舟の様子を私ははっきりとは聞いておらず、その後、時がたっても、やっぱり彼女の死の不審が無くならず、なんとなく悲しみが遺るので、喪の期間も少なくなったが、忌が終わってから此方に来ようと思ったのであるが、気ぜわしい心を抑えること出来ず此方へやってきた。浮舟はどんなことで俄に亡くなったのか」
 と右近に問いただすが、右近は、弁尼も浮舟の最後の頃の様子を見ているので、薫はいずれは弁尼に聞くであろうから、自分が隠して言えば、弁尼と食い違うこともあろう、真相は間違った方行ってしまう。実際、匂宮と浮舟との間の秘密の契りについて右近は、、始終思案をしながら嘘を薫や周囲の者に言っていた。然し今の薫の真面目な態度に向かい合えば、右近は前以て、こう言おう、ああ言おうと、考えていた言葉を忘れ、ありもしない事を申しては後が困ると考えて、浮舟入水などを薫に伝えた。呆れもし、思いもかけない意外な事情であるので、驚きのあまり薫は言葉もない。 そんな右近の言うような事は、決して本当でないであろうとしか考えられなかった。おおかた世間の人が考えたり、また言ったりする嫉妬に対しても、殆ど喋らない大様な性格であった浮舟は、どうして、そんな恐ろしい入水自殺を考えるであろうか。匂宮が隠しているのを、匂宮と心を合わせて、右近や侍従それにここの女房達が、どんな風にごまかして話すのであろうか。秘密などがあるらしくて疑わしい、と薫は気持が煮えくりかえるが、匂宮も悲嘆なされている様子が、目立っているから隠している
とも思われない。山荘の様子も浮舟を隠しているので、取繕って話すようなことを、もしも作っているようならば、それは自然にわかるものであるけれども、そうらしくもなく、薫がこのように来訪しても、
「浮舟の亡くなったのが悲しく、また情ない事を、山荘の者身分を問わず、薫を見て泣き騒いでいるよ」と薫は聞いて、
「浮舟と共になくなった者がいるのか。浮舟の入水の当時の状況を正確に言いなさい。浮舟が私を冷淡と思って、背いたと言うことはよもや無いであろうと、私は思う。彼女がどうしようもないことが彼女の身に起こって、そんな入水のようなことをしたのであろう。
私は信じることが出来ない」
 と言う薫が気の毒であり、また、疑を持たれるのは当然のことと思い、それでは今後困るので、右近は、
「既に貴方はお聞きになっておられます。浮舟は最初から、八宮の許で宇治に成長なされることではなくて、常陸の国で育った方で、人里離れた宇治での住いの以後は、いつか自然に物思いに耽る方となられたが、貴方が時々此方にお見えになることを彼女は待ちわびていましたが、平素の寂しさは勿論最初から持って生まれた浮舟自身の不運であった八宮の子として認められなかった悲しみまで、慰められて、のんびりと落ちついた気持で時々は貴方と御逢い出来るように早くなりたいと、言葉に出しては言わないけれども、彼女は心に思い続けて、過ごしていたようでしたが、京に迎えられて希望が叶うと私達も聞いていまして、側に仕えている私達女房も嬉しいので準備に忙しく、あの浮舟の母親も永い年月願っていた本望が、やっと成就されると心に満足した様子で京へ移ることをせっせと用意していました時に、浮舟に合点の行かぬ貴方の御消息、
浪こゆる頃とも知らず末の松
   まつらんとのみ思ひけるかな
(波が越える(貴女が外の男に移るあだし心を持っている)時であるとも知らなくて、私は、御身が私を待つであろうとばかり、思っているのであったなあ)
 悪い噂が世間に広まって、私の愚かしさを匂宮などに、嘲笑されないようになさいませ」
 を受けとりました上に貴方のお指図で宿直を致しておる夜警の内舎人なども、女房達は気が緩んで、だらしがないと言う事であると、貴方が警告を仰せなされる事があり、物事の分別がわからなくて荒々しい内舎人一門の田舎者どもが、浮舟と匂宮の間を変に邪推して貴方に報告が行ったことでしょう。だからその後、久しく貴方の文もなっかたから、父八宮にも認知せられなくて私は、情なくつらい不運な身の上であるとばかり、幼少の時代から悟っているのに、浮舟を人並にして欲しいとばかり思って気を使っている母君は、中途半端であった娘が貴方に思慕したことで、貴方には女二宮という立派な正妻があるから、やがて娘は見捨てられて、他人からの物笑いになってしまうから、浮舟はどんなに悲しいことでしょうなどと、考をその方に向けて、実のところ浮舟は何時も歎いていました。そのこと以外に、どんな事を嘆き悩んでいたのだろうかと、思いめぐらしていますが、私はどうも考えつく事が出来ませぬ。鬼が引きさらって隠したとなれば証拠の品が少しは遺るものです。そんなものも見つかりません」
 右近が泣く姿が可哀想で、薫は、どんな事情であったのか、匂宮が隠したのかと、疑って、悲嘆の涙も考えに紛れて出ないでいた、その疑の気持もなくなって、浮舟は確かに死んだと思い、流石に気が緩んだのか悲しみの涙が堰を切ったように流れ出て、止めることが出来なかった。薫は、