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私の読む「源氏物語」ー81-浮舟ー2

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 浮舟は急に顔を赤くして何も言わなかった。右近があの文を盗み読みしていたとは思わないので、さては外に漏れて噂に上がっているのではと、右近がそれとなく言っているのではないかと、浮舟は思い、誰が、右近に、そんな事(薫が自分と匂宮のことを気づいている)を告げたのかと、右近に聞きもしいで、此処の女房達は私を見て思っていることが、私にとってはとても恥ずかしい。匂宮との秘密の関係は自分自身の気持で関係を結んだのではなく匂宮の力ずくであるが、こうなっては心にわだかまりが出来てしまったと、思いつめて寝ている時に、右近と侍従二人が、
「私の姉が常陸介について下っ時の事です、男二人と関係しましたけれども、世間には身分身分に応じて、上も下も専ら、どうもこんな事があるものよ。その二人の男はこれもあれも、(匂宮と薫とのように)負けず劣らずの気持なので、女はどちらに頼ろうかと迷っているところへ、姉は後から言い寄った男に、前の男よりも少し心が傾いてしまいました。 前の男は姉が後の男に心を傾けている事に嫉妬をして前の男が後の男を殺してしまいました。そうしてその男は後の男を殺して、自分も、姉の所に通わなくなって夫婦別れをしてしまったのです。常陸国としても、国府の庁に勤務する、甚だ勝れている惜しい武士一人を失いました。また、この殺人をした者も、常陸介の立派な家来であるけれども、こんな殺人罪を犯した者を、国府の庁には使われないということで、常陸の国から国外に追い払われました。すべてこうなったのも女の宜しからぬ罪ぞと言うので、常陸介は、その屋敷の内にも姉を置いておけないと東国の田舎者になっているので、私は勿論浮舟の乳母も、今でも姉を恋しがるのはいかにも、罪障が深くなる事と私は思っています。この浮舟のような場合に忌ま忌ましい縁起の悪いたとえのようですが、身分が高くても低くても、私の姉のように、二人の男に関係して苦労するようことは、感心したことではないです。姉のように男同士が命をやり取りするようなことはないでしょうが 苦しむことはその人その人によって違いがあっても、身にしむことでしょう。死よりも優る恥が、高い身分の人には地位の低い人より大事なことです。匂宮か薫のどちらかに浮舟は気持を決めなされ。匂宮も、もしも、浮舟への情愛が薫よりもまさり、しかも、せめて引取ると言うようにでも仰せ下されるならば、匂宮の方を頼りにされて、何やかやと、悩むことはしないで、体が衰えるのは何の足しにも成らないから。病んで痩せている浮舟を、あれ程、母君が、大切に思って御世話なされるのに、そんな事に頓着なく私の母である浮舟の乳母が、匂宮の気持も知らなくて薫の、京に移す、この支度に熱中して、大騒ぎをしておるにつけても、匂宮が此方に引き取ろうと言われることの方が浮舟にとっては辛いことで、気の毒です」
 侍従は、
「命にかかわることや、死ぬ以上の恥辱やを浮舟に言ってはなりません。何事も、その人その人の、運命によるものであります。だから、心の内に少し思い靡こうと気が向くような方を、当然靡くべき運命と思われているだけですよ。本当に匂宮の以前から思いを寄せている方である薫が、このように、以前から、京に移すのを、思い急ぎなされておられたのを、私などは、気が進まなくて、当分は、薫や匂宮の目を逃れて隠れているとしても、浮舟の情愛の多い方を頼りになさいませと、私は思っています」
 匂宮を侍従は立派であるという考えであるから、匂宮一筋に言う。右近は、
「いや、匂宮に靡くのは、どんなものかわからない、右近はどうでもこうでも。薫に定まろうと匂宮に定まろうと、浮舟が無事に一生を終えられればと、初瀬や石山に願をたてました。大将薫殿の山荘に宿直している御荘園の人達と言うのは武勇の者であってその一族はこの宇治の里に多くいる。おおかたは薫の領地の人達でありましょう。みんなは内舎人と言う者の縁者に関係を持っているのである。内舎人の婿の右近の大夫(五位)と言う者を主任として宇治の総てのことを薫が指図しておられる。匂宮や薫のような高貴な人の間柄は、不人情な心ない乱暴な事をしないと、思っておられようが、常識のない住民どもが、山荘の宿直夜番の人として、代る代る交替で勤務していれば、自分の宿直当番に際して、少しの過失も起させまい、などと意気込んで、匂宮の、忍んでの来訪などがあったら過失も犯してしまうであろう。匂宮の先頃の夜、川向の家へ浮舟を連れての、匂宮の宇治川御渡りは、私は気味悪く思いました。匂宮は、無闇と、人の見る目を用心なされるというので、お供も少なく、みすぼらしい姿をしておられる。だから、先に私が言った考えなしの田舎者が、窶れ姿の匂宮を見て、宮とも知らずに本当に、過失をひき起すでしょう」
 と右近が喋り続けるので、浮舟は聞いていて、今でも自分は匂宮に心を向けていると、思って右近や侍従の話が大変恥ずかしく、心の中では匂宮、薫どちらとも思わず、匂宮がお通いになるのを夢のように驚き、途方に暮れて、匂宮がいらいらと気を揉みなされる気持をば、匂宮はどうして、これ程に浮舟を思いなされるのかと、彼女は思うのだが、また一方では、頼りにして長い年月を経ている薫を、今は、これ迄の関係であると、離別しようとも思わないからこそ、このようにどうすればいいのかと、身の振り方について何かと思い悩むのである。右近が言うように、不祥事でも、匂宮と薫との間に、もし発生したらどうしようかと、つくづく考え込んでしまった。
「私は死ななくては。世間なみでなく
心配事の多い身である。このようにつらい事のある例は、身分の低い下々の人の中にでも、沢山あると言うものであろうか、無いであろうなあ」
 と言って俯してしまった。右近は、
「そんなに深くお考えなさらないで、もっと気楽に御考えなされよ」
 と色々と話をする。心配事があっても、今までは、そんな事がない顔で、暢気に見えていたのであるが、匂宮との関係が生じてからは、いらいらとした焦燥の気持を、ひどく表すので、「私も、お変わりになってどうも変であると、姫を見申しあげる」と、右近が言うと、侍従など、事情を知っていた女房達全部は、右近の考えると同じように心配しているのに、何も知らない乳母は自分の気持に満足して、浮舟と、御供する女房達の京行きの衣裳用である絹などを、せっせと染めていた。また、新参の女童などで、可愛らしい者を選んで雇い入れて、
「このような可愛らしい女童を、気晴しにご覧なさい、これと言う病気もなく訳の分からないようなことで、横になっておられるのは、物の怪が姫の京行きを妨げようとしているものであります」
 若い者が嘆かわしいと言わんばかりに乳母は浮舟に言った。
 薫からは、先日浮舟が間違ったのかと言って、薫の文を返却した時の返事だけでもあるかと思いながら日が経っていった。ある日、右近が、先日浮舟に恐ろしいように話したあの内舎人と言う男が、来た。右近が以前に語った通り、なる程、大層乱暴らしく、且つふとって、礼儀知らずの老人で、声はしわ嗄れ、ただこの一帯の親分だけあって貫禄がある者が、
「女房に、良いように物を取計らい申そうと、存じまする」