小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

私の読む「源氏物語」ー81-浮舟ー2

INDEX|4ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

「妙な事であるなあ。妊娠のせいで、物怪などがついているのであろうか」といって、また
「どんな御気分であるかと思うけれども、石山寺参詣も、月の障りというので、中止なされてしまったねえ。
 と母が言うのを。浮舟は聞くのは、きまりが悪いから、母と顔を合わす事が出来なくてうつ向いている。日が暮れて月が明るい。浮舟は、先頃匂宮に抱かれて舟に乗り、橘の小島に寄ってから、対岸に渡った、あの時の有明の空ことを思い出してはいるが、匂宮が恋しくて涙が止まらない、これは不都合な感情であると、浮舟の理性は反省する。母は昔話などするために、あちらの部屋にいる弁の尼君を、こちらに呼出すので弁尼は参って故大君の態度が、思慮深くあり、当然匂宮が中君に疎遠になるはずと予想した事も、心配なされた間に、目の前に見る見る、亡くなって御しまいになってしまったことなどを母北方に語る。弁尼は、
「もしも、大君がこの世に御存命遊ばしまするならば大君も中君や匂宮と共に浮舟と文通をなされて、以前の寂しかった様子などが、この上ない幸福なことになりましたでしょうにねえ」
 と言うにつけても、弁尼が、大君の恩を、あまりに浮舟に着せる様子なのを、母は些か立腹気味で、娘の浮舟は中君、大君とは他人であるのか、父は同じ八宮ではないか。私の思う通りの考えである、薫が心変りしなくて、浮舟が薫に世話せられ、最後までそれが続くならば、中君などに劣らないであろう、と思いつづけて、
「何時も何時も、この浮舟の事で私は、何かと考えては悩んでいましたが、今は少し気楽になって安心しています。
このように薫が、浮舟を呼び寄せるようにして、浮舟が京に移ればこの宇治に来ることも今後はもうあまりないでしょうと思います。そうなると、二人で逢って八宮や大君の昔のことをゆっくりと貴女から聞くことが出来なくなりますでしょう」
「私は、縁起でもない、忌まわしい尼の身の上であると思いこんでいますので、ゆっくりと浮舟に御逢いして話をすることが余り出来ませんで、慎ましく暮らしていましたその私を宇治において、京に行ってしまわれたならば、心寂しくなりますが然しながら、こんな宇治の山里の生活では、気がかり許りで、将来を考えますと京へ行かれることは本当に嬉しいことで御座います。世にも珍しく、行動が慎重でありなさる薫の態度で、このようにまで、浮舟を心配されるのは、通り一遍の愛情ではない、と言うことを刈って薫が私に言ってお出ででした。根も葉もない、よい加減なことではありません」
「これから後のことは分かりませんが、今は、このように浮舟を見捨てない様子に薫様がおっしゃるように貴女がなかにはいっていろいろと話をしていただいたことを、本当に嬉しく感謝いたしております。中君が勿体ない程に、浮舟を二条院に引き取ったりなどしてしみじみと可愛がっていただきましたが、匂宮が浮舟に迫ったりしたことで遠慮しなければならなくなったことなどがあり、中君の所二条院に御世話になる事も出来ずどっちつかずで窮屈な身の上であると、私は心配し悲しんで隠れ家を用意したりなどして、浮舟を世話するようなことになりました」
 と話が匂宮になると弁尼は笑って、
「匂宮はうるさいほど女好きな方で、気のつくような若い女房は、お仕えしにくいようです。大体は気持のいい方でありますが、女のこととなると、中君も、女房の癖に身の程も弁えず無礼であると、思われるようなことは、どうも、私共には困るのであると、大輔の娘が私に話していました」
 大輔の娘は右近と言って中君の女房を務めている。あの機転の利く宇治の浮舟の女房右近とは別人である。
 大輔の娘の右近ですら、そうなのであるならば、妹の私は、その右近などと別であるからそれ以上に、姉中君に遠慮しなければならないと浮舟は横になりながら聞いていた。母は、
「困ったことですねえ。帝の娘女二宮を正妻としている薫であるが、女二宮と浮舟とは、他人で縁故もないので、関係のない女を、外に持つのは結果が悪かろうとも善かろうとも、それはどうにもならないと、私は私の身分なりに考えておりまする。匂宮と浮舟がもしも浮舟が誘惑して関係を持つようなことがあれば、匂宮の北方である中君に、面目ないことであるから、私は悲しくまたひどく辛いことと、浮舟の事をどうしても勘当するであろう」
 母と弁尼とが話し合うのを横で伏せている浮舟が聞いていると、匂宮と関係を結んだことは秘密であるから、心も胆もつぶれてしまった。だから彼女はやっぱり、自分の身を亡くしてしまいたい。このようにしていては、結局聞きにくいことが出てくるであろうと、思っていると、宇治川の水音が恐ろしいように彼女の耳に響いてくる。
「こんな恐ろしい流れもある。外にはないような荒々しい宇治河畔に、久しい間浮舟が過ごしているのは可哀そうと、薫がきっと、思われるのは当然のことであろう」
 母が、浮舟が薫に迎えられて京に移るのを得意顔に話していた。弁尼は、
「昔からこの川は流れが急で恐ろしいところです
 と言うから、近くの女房も、
「最近も、渡し守の孫の童が、棹を差し間違って川に転落いたしました」
「溺死する人の多い川です」
 と口々に川の恐ろしさを言う。
 浮舟はそんな話を聞いていて、渡守の孫の様に、水死して自分の体が行方知れずになれば、母や薫、匂宮は、悲しくて生きていく力を失ったと、当座は思われるであろう。それでも私が生きながらえて、薫と匂宮との間にはさまり、人に笑われて心が晴れないまま過ごすのは、何時になればその物思いが無くなるであろうか、生きている限り、何時までも無くなるまいと、彼女は生か死かを考えて、死(自殺)は、さし障る所がどこにも無さそうであり、気持もさっばりと、自然に考えられるけれども、また、入水の心を思返して、死ぬ事に未練が残って、大層悲しい。
母の愛情から出る言葉を寝たようにして聞きながら浮舟は心中につくづくと煩悶していた。浮舟が弱って痩せているのを母は乳母にも言って、
「それ相応の病の御祈祷などを、浮舟のためにして下さい。供物や奏楽をして、神に平癒を祈るとか、川べに出て御祓をして、罪や穢れなどを祓ったりなども、当然するようにしてください」 など、乳母に言う。
 浮舟は、祈祷も祭も祓も不用である。御手洗河に御禊ぎをして、切ない匂宮への恋を止めようとしているのに、そんなことは知らない母はあれこれと指図して大騒ぎをする。
「京に移ったら女房の数が少ないようですね、十分に調べて京に連れて行く事の出来るような家庭を捜して、信用ある者を連れて行き、気心の知れない新参者は此処に置いておく。貴人の夫人どうしというものは、本人たちは打ち解けた交際をしていても、嫉妬はなくならないから、お付きの女房からよくないことが起こりますからね、悪いきっかけを作らないように女房たちには気をおつけなさいよ」
 気の付いたことは総て浮舟に言い置いて、
「家の方でお産が近い者が居る故に面倒を見なくては」
 と、帰っていく母に浮舟は、入水などを思っている今は心細いので、もう一度母に逢わなくて私は、死ぬかと思うと、
「体の悪い間、母様に会えないのが大変頼りなく不安ですからそれで、暫くでもおそばにいとう御座います」