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私の読む「源氏物語」ー80-浮舟

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 浮舟は薫とは違う人であると分かると、ひどく驚き恐れるけれども、浮舟に匂宮は物も言わせなかった。かつて、周囲に人がいたのにもかかわらず二条院においてでも、その節、無分別であった、匂宮の行動なのであるから、ここでは気がねする事もないので、浮舟にとって匂宮の手の動きは全く驚き呆れて声も上げられなかった。最初から、薫でない匂宮であると、浮舟が承知していたならば、少しは匂宮の行動を阻止する方法もあったであろうが、薫とばっかり思っていたので全く気を許して夢心地になっているのへ、匂宮があの二条院で始めて逢って強引に横に添い寝したあの時から彼女のことを思い詰めていたことを話すと、浮舟はこの男は匂宮であると知る。匂宮と分かると彼女は恥ずかしくあの姉である中君のことを思うと、此処まで男の手が自分の恥ずかしいところに触れていると、
彼女は外にもう匂宮の手から逃れる方法がなく、泣くことだけが抵抗を示す方法だけになり泣き続けた。匂宮も今はこのように会えて体の結びも出来たけれども、この後簡単に会うことが出来ないことが分かっているので、それを思うとこの浮舟がいじらしくて涙が出てきた、二人は泣きながら結ばれた。
 夜は何事もないように明けていく。右近方へ、御供の道定が来て、匂宮の帰京を促す咳ばらいをする。それを右近が聞きつけて,匂宮の前に参上した。匂宮は帰京する気持はなく、浮舟を何時まで見ていても見飽きることがなく、可愛いいし、同時にまた自分が簡単に宇治に来ることも身分上困難であるから、京では自分の所在が分からないで大騒ぎをするであろうが、自分は今日ばかりはここに留まっていよう。人生とは生きていてこそである、と思い、今京に帰るとすれば死ぬことであるとまで思いこみ、右近を呼び、
「馬鹿げた思慮ない態度と、右近には思われるだろうが、自分は今日は、帰京しようとは思わない。供の者はこの邸の近いような所に、十分に隠れて控えていよ。また時方は京へ参って人に聞かれれば、山寺に忍んで参籠していると、問いに応じて上手く答えるように」
 と右近に言うが、浮舟の女房達は薫でなくて匂宮であることを知って驚き呆れて、人物をしっかり見極めなかった昨夜の軽率さを思うと、右近は気持が惑乱するが、気を静めて、今となっては昨夜の問抜けな行動に大騒ぎをしてもどうしようもないことであるが、騒げば匂宮に対して失礼である。二条院で変な一件のあった際に。 昨夜のようにのがれないのであった、浮舟の宿命というものであろう。だから人から押しつけられた宿命であると心を慰めてと、匂宮に、
「今日、迎えに来ようと、母北方から、先だって、連絡がありましたのに。匂宮は、どのように、浮舟をなさるおつもりですか。このように逃げることが出来ない事実をつくり、浮舟の宿命を私などが言ってもどうしようもありません。今日の場合は、母北方が、石山寺参詣のため、浮舟を迎えに来るので、どうにも仕様がないのでございます。だから今日はお帰りになって、また、お出でになるお気持ちがあるならば、ゆっくりとお出でなさいませ」
 ませた口を利いて、と匂宮は右近の言うのを聞いて、
「俺は前々から浮舟を恋しく思っていたので、自分を忘れてしまったのであるから他人が非難するような事も聞きもしないでただひたすら思い焦がれていた。自分が少し自分の地位などを考えているならば、自分のような者がこんな宇治あたりまで遠く忍び歩きなどは思うことはない。母北方の迎えへの返事には、今日は、姫君は、物忌みである。出かけられぬなど、と言えばいい。他人に知られてはいけない事を、私と浮舟のためにお前は考えてくれよ。それ以外の、外の事ほ、私に何を言っても無駄であると思えよ」
 と右近に言って、浮舟を全く理由も分からずに、可愛く思わずにはいられないままに、匂宮は色々な浮舟に関する誹りは忘れてしまっていた。右近は匂宮の前から去って、匂宮の帰京を催促する道定に、
「このように匂宮はおっしゃってお出でですので、此処に逗留されるのは見苦しいことであるので、匂宮におっしゃってください。全く世にも稀な匂宮の御振舞は、どういうお考えであろうとも、それはいかにも、貴方達のようなお供の御考えでどうにでもなるであろう。貴方達はこのように、子供っぽく無分別に宇治あたりまで匂宮を、御連れ申しあげなされたか。もしも、無礼な事を、匂宮に申しあげる田舎者などでも、道中に出現したならば、どうなりましたでしょうかなあ」
 内記道定は、本当に煩わしいことであると思いその場を立った。右近は、
「時方と言われるのはどなたですか、匂宮が、かようかように京に帰って云々の事を仰せなされたのである」
 時方は笑って、
「譴責などが、私には恐ろしいから、匂宮の仰言がなくても、逃げて、京に退いてしまいましょう。真実の事を申せば、匂宮の並々でない浮舟への情愛の執心を、私は見させて貰っていますから、誰もが皆、自分個人の事は考えず、御連れ申した事はまあよい。夜番の者連も、全部、起きてしまつたのであろう。見つけられたくない」
 と言って山荘から急いで出て行った。右近は、人に分からないようにするには、どのようにしなければならないか
と、困ってしまった。女房達が起き出したので右近は、
「薫様は、忍ぶような理由があるので、その様子を、私が見ますと、道中で、昨晩、ひどい事があったようにおもわれます。衣などは今夜、こっそりと、ここに持って来るように、京に連絡されたようである」
 とあたかも薫が来たように言う。女房は、
「気味の悪いこと、木幡山は恐ろしい山であること」
「何時もの如く、御先払いもなしで、姿を粗末に装って、御越しなされたのであろうなあ。ああ、大変な事であるよ」
 と言うが、右近は、
「ああやかましい、やかましい。静にしてください。下人達が、ほんの少しでも聞いたならば、色々と吹聴するから」
 と、彼女は嘘を言っている事に、内心はひやひやしている。運悪く、こんな時に、薫の御使が、もし今にでも来るならば、その時、自分はどんな言い逃れをしようか、とても出来ない。と思い、心に、初瀬の観音さま。今日は何事もなく無事に過ごすようにして下されい。今日、薫の使も来なくて、私が無事に過し得る事を、御願い申すと、
心中に大願を掛けているのであった。
「石山に参詣します」
 と、浮舟を母北方の使いが迎えに来た。この御供の女房達も、すべて、美食,肉食を断ち、心身を清めてあるのに
「薫が滞在ならば、今日は、石山寺参詣に、御出かけ出来そうではないようであるなあ」
「大変残念なこと」

 日が高くなったから格子を全部上げて右近は浮舟の側に伺候した。母屋の簾はみんな降ろして「物忌み」の札を付けた。母の北方が娘を心配して自身が来れば煩わしいことと、浮舟は昨夜、夢見が穏かでなく悪かったので、それ故に、謹慎するのであると、わざと言い触らした。朝の手や顔を洗う水などを、右近がさし上げ方は、薫の時の仕来りと同じ方法であるが、浮舟が待っていて世話するのを、あまりに意外に匂宮は思うので
「そこでそなたが御洗いなされるならば、私も洗いましょう」