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私の読む「源氏物語」ー72-総角ー3

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匂宮と中君を取り持つ必要があったのであろうか。最初は八宮の姫二人を心許ないと心配する八宮に同情し、姫達が素晴らしい姫達であると知り、態度も立派でこの姫達が、この世で落ちぶれてしまうことにもなれば惜しいことと思い、姫君として、人らしく立派に生活をさせたいと、自分ながらどうしてこんな事をするのかと、世話せずにはいられない程身を入れて、匂宮が中君への仲介をせき立てられ、又自分の思う姫は大君であるのに、その大君が自分の代わりに中君を嫁にしてくれるように言われるので、それは自分も困ると、中君を匂宮に仲介してしまった事を考えると、どうすればいいのかと薫は悔しがるのであった。
 宇治の姉妹二人の姫のどちらでも、自分の嫁として世話をするとしても、其れを咎める人はいまい、後悔してもはじまらないが、今更馬鹿らしくどうしようかと薫は処置に困ってしまった。匂宮はまして薫を気に掛け、中君に会いたいと山荘を訪れることが出来ないことを大変気にしていた。明石中宮は、
「貴方の好きな女がいれば女御としてこの内裏に奉仕させて、貴方は忍びの外出は止めて普通の状態で、落ちついた行動をしなさい。父帝が、
他の皇子達とは分けて春宮にと、貴方を御考えのようですから、忍び歩きなど軽々しい行動は人が何かと噂をするのが母は悔しい」
 と母君は匂宮に明けても暮れても注意をするのであった。
 時雨が烈しく降って暇な一日匂宮は姉の一宮の所へ参上した。丁度女房達が多く宮の前にいなくて静かに姉は絵を見ていた。二人は同じ明石中宮腹の姉弟である。匂宮は姉弟とは言ってもそこは男女の区別を付けて几帳を鋏んで語り合う。一宮は至極上品で貴人の姫らしく、気品が高いが、女らしくしなやかで、風情のある御容姿に対して、今まで長い間、匂宮は二人とない美人と思っていて、この姉に匹敵するような女はこの世にないと。ただ冷泉院と弘徽殿女御の間に出来た姫は冷泉院の可愛がり方から私的生活様子も、心ゆかしく評判になっているけれども、懸想しようにもその方法が無く、考えてみるとあの宇治の中君は姉の一宮に劣らぬほどの女であると匂宮は思い、中君が恋しくて会いたく、気持ちを落ち着かせようと一宮の前に散らかった絵などを見てみると、女の艶やかな姿を描いたものがあり、絵の中にその女に恋する男の姿が山荘を背景に描かれていて、匂宮に宇治の山荘を連想させる。姉宮にねだってその一枚を貰い受けて、中君に送ってやろうと考えた。絵師が在五物語と言われた、伊勢物語を書き、在五と呼ばれた在原業平が妹に琴を教えているところの言葉書きに「うら若み寝よげに見ゆる若草を人の結ばんことをしぞ思ふ」と書いてあるのを匂宮はどう思って読んだのであろう、姉の側に少し近寄って、
「昔の人も姉弟は何の障害もなく大変和やかに暮らしたものですよ。姉上は何となく疎遠に私を扱われますが」
 と、そっと匂宮が言うと、姉宮は、それはどういう絵なのであろうかと、言われるので、匂宮は、その絵と詞とを巻き集めて、几帳の下から、入れたのを一宮は俯せになって見ると彼女の黒髪がなびいて外へこぼれ出た幾筋かの髪に姉の面影を想像して、この美しい人が姉弟でなかったならという気分に匂宮はなって、抑えることが出来なくて、

若草のねみんものとは思はねど
     結ぼほれたるここちこそすれ
(寝て見て夫婦の語らいをしようものとは思わないけれども、御身の美しさに、晴れ晴れせず悩む気持ちが致します)

 聞いていた側の女房達が匂宮のことをはずかしくおもって、そこらに隠れてしまった。一宮は、変なことを言う弟よと、無視して何の返事もしなかった。それもそのはず、絵の中の姫は、兄妹の隔てを取り除いてと、言った、伊勢物語中の姫君の態度や自分の態度は勿諭、あだっぽ過ぎるので、匂宮は、冗談に思われたのであろう。亡くなった紫の上はこの一宮と匂宮を明石中宮から離して、二人を共に六条院で育てたので、二人の頭の中には隔てというものがなかった。。母の明石中宮もこの一宮を大変可愛がり、側の女房達も醜くて、少しでも欠点のある者は、宮仕しているのがきまり悪そうである。
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 また高貴な家の出の娘達も女房の中には大かった。そのような中で匂宮は、少し目に付く女房と軽く関係を結び、それも長続きしないで、宇治の中君を忘れることが出来なく、其れでも内裏に止められているので宇治への訪問は絶えて日数ばかりが経っていた。
 匂宮を待ち受けている宇治の山荘は久しく訪問がないと、大君初め女房達までが、やっぱりこのまま捨てられるのだと、心細く思っているところに薫中納言が訪問してきた。大君の体調が悪いということを聞いて見舞いにやってきたのである。大君はさほど体調が悪いということでもないのであるが、病ということにして会うことをしなかった。それを聞いて薫は、
「驚いて急いで都からこの宇治へ駆けつけたのに、今日も又会われないとは、大君の病に伏せっているところ近くに案内をしてくれ」
 としきりに病を心配するので、姫達が落ち着いて生活している部屋の御簾の前に女房が薫を案内する。大君は自分が病に伏せっているところに近いので、迷惑な事と、大君は気分悪いが薫に無愛想な態度は見せなくて、頭を上げて薫と話をした。匂宮が紅葉見物の折に、彼が不本意ながら此方に寄ることなく通り過ぎてしまったことの事情を、薫は大君に話して、
「匂宮のことは、気長に落ちついて考えてください。気持ちをいらいらさせて匂宮を恨むようなことはしないでください」
 と、諭すように言うと、
「中君は何も申しません。ですが、夫を持って苦労する勿れと、亡き父宮の御警告は、こういうことをおっしゃったのだと、思い当るだけ、中君が気の毒です」
 と言って大君は泣いているようである。薫は気の毒であり、匂宮を中君に紹介した自分までが恥ずかしい気持ちになって、
「この世を過ごして行くにはともかく一本調子で単純な行き方は、難しいということです。ですからどの様なことでも、余り深く知らない貴女方にとって匂宮のことを、酷いことをなさる人だと、思われるでしょうが、出来るだけ、気長に落ちついて考えて下さい。中君と匂宮との縁は、気にかかる心配な事は全然ありません、と私は信じています」
 薫は自分の大君対する思いがあるのに、そのことは言うことなく、匂宮のことばかりをよい方向に取り持っているのに気がつくと、何となく自分が変な男のような気がしてきた。大君は昼間はさほどでないが日が暮れて夜にはいると、苦しくなってきて、他人の薫が自分の近くにいることが、女であるから恥ずかしく思うので、其れを察して女房が、
「どうぞいつものように」
「あちらへお出で下さい」
 と薫に言うが、
「いつものこととは違って、こんなに病んでおられることを心配して、気にかかるままに、見舞に参上し、しかも、外部の簀子に、出しっぱなしになされたから面食らっています。こんな病中の看病も、私でなければ、誰が、てきぱきとしつかり看病されますか、出来ないでしょう」 と、薫は弁御許に言うと、病気平癒の祈祷などの準備を始めるように指示した。