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私の読む「源氏物語」ー71-総角ー2

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 男が夜這いするとは思ってもいなかった先夜は、中君は無防備の処に突然、匂宮が忍込み、茫然としている彼女の横に添い寝して、それだけでも驚いてあっけにとられて匂宮を見つめている中君の姿が、一通りではなく風情があり可愛かったが、今夜はまた美しい袿を着て、化粧をしている姿を匂宮は見て、いっそう愛情が深まりしっかりと胸に抱き寄せた。昨夜と違って二日目で中君も少し慣れたので体を硬くすることもなく匂宮の胸の中で自分も少しその気になって体を彼に預けていた。宮の胸の鼓動が高く響いていた。
 人妻らしくやさしく柔かにしているのは、匂宮の情愛も勝るけれども、京から宇治へかけての山道を中君恋しとばかり急いで駆けつけて、匂宮は、情愛深く語り続け、貴女の行く末はませなさいと言われるが、中君は嬉しいとも、どうとも、匂宮の気持を理解することができない。大事に育てられた高貴な家の姫であるからといって、多少とも世間のことと付き合いがあって、親とか兄弟とかの所へ出入りする女性があったなら、恥ずかしさや怖さがこれほど酷くなくて済むであったろうと思われる。ところが中君はこの通り山深い山荘で、贅沢な暮らしはしていないが、女房どもに真綿にくるまれるように大事に育てられ、山里であるから世間に遠くて、人に馴れていないこの中君は、急に現れて体を奪った良人が障害無く対面することが恥ずかしい男という意外に考えないし、自分の喋る言葉が田舎臭く聞こえるであろうとばかり思って、ちょっとした問いかけにも匂宮への返辞がしにくなんとなく殻に閉じこもっていた。
 二日目の今日は昨夜のような驚きはもう無くなっていたが、袿を止めている一本の帯を解けば下着まで前あきになる。匂宮は慣れた手つきですぐに中君の前を明けてしまい手のひらは軽く乳房を包み優しく静かに揉んでいた、中君は恥ずかしかったが、周りの部屋には女房達の気配があるので逃げるわけにはいかない、昨夜は肌着一枚で休んでいたところへ匂宮が入ってきて、何が何だか分からないうちに体が奪われたが、今宵は正装をしているので肌だけはまだ晒さずにすんでいる。匂宮は昨夜中君の体を戴いているので今日は焦ることもなくゆっくりと彼女がその気に達するまで愛撫を続け、時折優しい言葉をかけていた。中君は匂宮を愛するとか何とか言う考えの前に、已に体が奪われたのなら夫婦の契りは終わったと、認識していた。中君は二十四歳、匂宮は二十五歳同年代の男女であるが、二人ともそれぞれ性の盛りである。一端燃え上がるともう止まるところを知らずに突進する、匂宮は中君の燃え滾ったところを、中君は匂宮の男性の迸りを、お互い手で感じ更に燃え上がって一つになる。


 薫中納言から、
「昨夜、伺おうと思いましたけれども、宮仕の骨折も、どうと言うこともない世である故に、大君のことばかり考えて恨んでおります。
 今夜は、中君の三日夜であるから、雑用でもあるかと思いますけれども、先夜休ませていただきました部屋が、居心地がよくなかったのでしょうか、病気にかかったようで、自然、愚図愚と休んでおります」
 と何の風情もない檀紙に、散らし書きなどにせず常の書状のように、続け書きに書いて、今夜(三日夜)の準備の物、着用の衣裳など、丁寧に縫わず仮縫いの状態であった衣裳を、いろいろを巻いたままで入れ、幾つもの一人で担ぐ懸子へ分けて納めた箱を弁御許の所へ持たせてやった。女房たち用にということである。薫は母三宮の住居にいた時であって、思うままに取りまとめる間がなかったものらしい。練りも染めもしない、絹や綾(模様のある織物)などを、(御料の二くだりの)下には隠すように人れながら、その上に、姉妹の御料と思われる二襲(くだり)の、大層綺麗に仕立てたものを贈った。袿などの下に着る単衣の御召物の袖に、古風な趣向であるけれども、
さよ衣着てなれきとは言はずとも
     恨言ばかりはかけずしもあらじ
(貴女が、さ夜衣(夜具)を着て、先夜私と同衾したとは言わなくても、私は逢ったという言いがかりだけは、特に、言わない訳でもない、言いたいのである)

 と、薫は歌で大君を脅すのである。大君は本当にこの歌の通り自分も中君も、薫が見ていた二人の奥ゆかしい性質が、見事に破れた恥ずかしさがはっきりと言われているのを読んで、お返しはどうしようと大君が色々と迷っているうちに、使者は帰ってしまった。それで使いについて来た下人だけが控えていたのでそれに渡す。

隔てなき心ばかりは通ふとも
     馴れし袖とはかけじとぞ思ふ
(貴方と、隔てのない気持だけは通うとしても、馴れた仲であるとは、何としても口にかけたくないと思う)

 大君があわただしく乱れた心で詠んだこの歌は結果として、平凡であるけれども、返歌を待っている薫は、大君を哀れに思った。
 匂宮は三日夜に当たる今夜は、参内して内裏からなかなか退出ができそうもないようであるから、宇治に行かれないので、中君を思って心の中はそのことばかりでどうしようと迷っているところへ、母親の明石中宮が、
「こうしてお前が独身で、世間に色好みである評判が何となく広がっていくのは、本当にとんでもないことですよ。物好きに色好みらしくなどを押し通そうとしている考を捨てなさい。父主上もきがひけるよと、おっしゃってますよ」
 と、内裏から退出して、六条院などに里住みが多い匂宮を、注意するされれば、匂宮も両親に心配かけるとは大変苦しいことであると、内裏にある匂宮の部屋に入って、文を書き宇治へ送った後も考え込んでいるところに薫がやってきた。中君の後見の人が来たと思い匂宮は、いつもよりも嬉しく、
「どうしようか三日夜の日であるのにこのように暗くなっても退出できない、心が落ち着かないよ」
 と嘆くが、薫は、十分に中君に対する匂宮の気持を観察してみようと思い、
「畿日ぶりかで内裏に参内した貴方が、今夜宿直をしないですぐ出かけてしまっては、中宮様は遺憾なことをすると思われるでしょう。先ほど私は、女房達の控所の台盤所の辺で中宮様のお言葉を聞いておりまして、私が貴方によろしくない手引きをしたことでお叱りを受けるのでないかと顔色を変えて恐れていました」
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「母御は本当に耳の痛いことを仰せになった。私の行動を多くの人が悪行と思っているのであろう。世間の人が言うほど好色めいた事をば、私はしていないと思うのだがなあ、窮屈な身分の事よ」
 と、親王という身を嫌になっていた。薫はそんな匂宮を気の毒になあと見ていた。そして、
「宇治に行けば、母明石中宮にがやがや苦情を言われ、三日夜なのに行かねば宇治から恨み騒がれるからどっちにしても、苦情や恨みを受けることはことは変わりありませんね。宇治行きの今宵は私が貴方の変わりに、明石中宮の叱責を受けましょう、何と言われても覚悟は致しています。徒歩で行くという木幡の山越えに、馬はいかがでござりましょうか、そうではあるが、お供もいる故に馬では一層、目立ちましょうか」 と、匂宮に言うと、すっかりよるがふかくなっているので、匂宮は馬で宇治へ向かった。
「私はお供しては迷惑と思うから致しません。その代りに、内裏で後の事の世話を致しましょう」
 と薫は、内裏に控えていた。