小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

私の読む「源氏物語」ー70-総角

INDEX|7ページ/8ページ|

次のページ前のページ
 

 弁御許が大君の許にやってきて薫の言葉を伝えた。ついでに薫が、会ってくれない大君を恨無のは当然のことであると、くどくどと言うので、うるさくて答えることもしなかった。大君は溜息をついて、どういう行動を取ればいいのだろうか、父か母かどちらかが、生きておられれば、父か母かに相談して、夫を持つのであろうがなあ、そうすれば、夫を持つのは女の宿命である、その宿命に任せて、自分の身を、自分の心の思うように出来ない世の中であるから、運が良い悪いは常に世の中ではありふれたことであって、恥が表に出ないですむ。
 弁を始め女房達は、年配者の経験から考え、私が薫に似合の仲である事を得意になって、私に言うが、信頼して良い物であろうか、そうではないと思う、老いぼれ女房の、経験から考え出した人らしくもない一方的な相手の気持ちも考えずに言うのであろう。大君は考えていた。大君の頑なな気持ちを少しでも動かそうと弁達は大君に言うのであるが、大君は鬱陶しくて気持ちを動かすようなことはなかった。大君と同じような気持ちで何事も隠さずに相談する中君は、このような結婚問題に関しては少し考えが浅く、大君の話を聞いても何とも考えることなく自分の意見を大君に話すことはしない、何というこっちゃ、と奥に入ってしまった。その背に向かって女房は、
「もう喪服を脱ぎかえて、常の色のにお着替えてください。そうして薫にお逢いください」
「お気替えを」
 などと声を掛けながらも、女房達は、薫を大君に手引きしようという考を持っているように見えるのを、大君は浅ましい考えをすると聞いていた。思った通り薫を大君の許に引き入れることは、狭い山荘なので何の邪魔もない。薫の今居るところと大君の居間とはいくらも離れてはいない、狭い山荘は、「世の中を憂しと言ひてもいづくにか身をば隠さん山梨の花」ではないけれども、大君は隠れるような場所がない。
10
 薫は、こんなに表立って女房達の協力がなくて、人目につかぬようにいつ始ったという事ともなく、二人の事を終わらせようと最初から考えていたのであるから、大君が心を開いてくれなければ、いつまでも、自分はこのままの状態で過そうと、考えて、その旨を弁御許に伝えると、弁御許などの老女房は相談して、薫の考と反対に二人の仲が目立つように、ひそひそと計画を練っていた。そう老人達は好意的に目だ立たせようとは言うけれども、考えが浅いか年寄りの偏屈からか、その計画はがたがたで、気の毒なことである。
 大君はそのような計画を察知して弁が前に来たときに、
「父宮在世の長い間も、「薫は、人と違う親切さがある」とおっしゃるのを私達弟妹二人は何回も聞いておりまして、父亡き後は薫君をすっかり頼り申して、私共この家の者総てが、不思議な程まで薫君と打ち解けてしまいました。ところが最近は今まで考えていた彼の心根が変わってしまい、私の体を求めているような好色めいた様子がはっきりとし、避けている私を恨んでいるのは迷惑なことです。
 私が人並の人らしく夫を持って、この世に暮らしたいと考えている身であれば、彼のこのような露骨な態度に、どうしてそのようなことをとは思いません。然し私は前々から、懸想と言う男女が契り会うという俗世の事は、最初から考えても見なかったことで、薫君が私の体を求めておられることは、つらい事でありますが、中君が女の盛りを終わりそうなのも気がかりでありますのでこの山荘の生活も、中君の縁談のために私の自由が少し狭まるばかりで、薫君が本当に父宮の遺言をお守り下さるのであれば、私の体をお求めになる気持ちを、同じように中君にもお持ち願いたい。そうすれば、姉・妹と姉妹である私の心の中を、妹に全部譲って同じ心で一緒に、薫の気持ちを戴き御世話になりたいと思っています。そのように薫君に伝えてください」
 と大君は、恥ずかしそうに現在の心境を弁に語り続けるので、弁御許は大君を、可哀想なお方と、みていた。弁御許は、
「いかにも、そんな風な御考であると以前から大君の御様子を見ておりますが薫君は、中君の婿となる事に考え直す事はできないと思います。中君の婿になれば、匂宮が薫君を恨まれることが深くなり、中君の婿にならなくても別に、中君を匂宮にと仲介することで、中君を薫君はよくお世話なさることでしょう。薫君のこの考えも立派であると私は思っています。
 父母お二人がご健在で、その上で深い心で、たといお二人を大切に御世話なさるとしても、その場合にこんなに世に珍しい御縁が、二組も一緒に成り立つことは、大君のお考え一つで出来上がるのですがねえ。
 このように頼りのないお二人の生活を見ておりますと、この先どうなっていくのかと、この後のことが気になって悲しいことばかりが想像されます。そこで、薫君の御気持が今後どう変わられるか分かりませんが、私は大君は薫君に、中君は匂宮にとの薫の考えに従うのが今のところ最適だと、私は一方では思っています。故父宮の御遺言「よくよくの立派なご縁でなければ男の言葉に従って、この山荘を乱すようなことをなさいますな」のお言葉に背きたく思わないと、お考えの大君のお気持ちは正しいことと思いますが、そのことは、当然、世話をする夫がいなくて、不釣り合いな身分な縁結びがあるであろうか、と薫君は考えた上で貴女方に注意をなさったのでありましょう。
 薫君が大君の婿となる、という気持が、もしもあるならば、二人の姉妹の中、大君一人をまず安心した状態に残し置き、一安心であると、父宮はかって事あるごとにおっしゃっておられ、どんな身分の者でも自分を大切に思ってくれる親に死に別れた女人は、その女が身分の高い低いにかかわらず、気持ちに反して夫を持って、飛んでもない悲惨な生活状態に落ちて放浪するような類の者が、世の中には多く見られるのである。父宮のおっしゃったことは、みな世の中の普通の事のようですから、それをああだこうだと非難する人は、誰もいません。
 わざわざ姫のためにと誂えたような殿方、薫君は、類もなく親切にこれほどまでに大君に求愛なさるのに。大君は、無理に求愛を断り、前から決心されている仏道修行の本望を達成なさろうとも、まさか雲や霞を食べて、浮世の外に住めますか、住むのはこの浮世で、生活の苦労をしなければなりませんよ」
 と色々と言葉多く弁御許は大君に語るから、聞いていた大君は次第に不快になって、うつ臥してしまった。中君も姉の姿を見て、気の毒に思い大君を誘っておくへ寝に入っていった。大君は弁のことが気にかかり、弁御許は、薫をここへ誘い込むのではなかろうかと、思うのであるが、特に隠れるところもない山荘のことであるから、大君は柔かで縞麗な表を中君の上に掛けて、八月となったがまだ残暑がある頃であるから中君の寝ているところから少し離れて横になった。
11
 弁御許は大君から聞いたことを総て薫に話した。聞いた薫は、どうしてこのようにしてまでも大君はこの世から離れようとするのであろうか、聖僧のようであった父八宮の影響を受けたのであろうか、人生の無常さを深く悟っているのは、自分の内にも共通なものがあるから、薫は大君の男を嫌悪する気持ちが分かり、大君の態度言動が嫌なこととは思わなかった。