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私の読む「源氏物語」ー69-椎本ー2

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「所につけては、かかる草木のけしきに従ひて」(このような山里では山里相応にまあ、こんな草・木の様子に従って)
「行き交ふ月日のしるしも見ゆるこそ、をかしけれ」
(行き変る月日の兆候も見られるのが、いかにも楽しいものである)
 などと女房達があれこれ言うのを姫達は聞いていて、下手なことを言ってと、まず大君、

 君が折る峰の蕨と見ましかば
     知られやせまし春のしるしも
(もしも、父宮が存命であって、父宮が折って送られた山寺の峰の蕨であると見るのであるならば、私達も知る事ができましょう、春になったしるしを)
 雪深き汀の小芹誰がために
     摘みかはやさむ親なしにして
(雪の深い汀の小芹を、誰のために摘んで、賞美しましょうか。私達は、それを進上する親のない身であるから)

 中君が続いて詠った。山荘の女達は取りとめもない事などを話しながら毎日を送っていた。薫中納言からも、匂宮からも折節ごとに、文が届いていた。その文は、何でもないことをうるさく書きつづったものだから、ここに記すことは止めにした。

 桜の花盛りの頃、匂宮は長谷参詣の帰途、姫君達に贈った「挿頭」の歌
「山桜匂ふあたりに尋ね来て同じかざしを折りてけるかな」(山桜がつやっやと輝くように咲いているあたりに訪ねて来て、姫君達の挿頭と同じ桜の枝を、私は挿頭に手折ってしまったいよ)
を思い出して、その折り山荘に遊んだことをお供をした良家の若者達が
「大層由緒(趣)のあった八宮の山荘であるのに」
「八宮の他界後は、もう二度と見ることが出来ないことは」
 などと、人生の無常を若者達は口々に言うので、匂宮は、去年の春を思い出して、姫君達に会いたいものと、思うのであった。匂宮は、

つてに見し宿の桜をこの春は
       霞隔てず折りてかざさむ
(長谷参詣のついでに、去年の春、見た、山荘の桜を、今年の春は、霞を隔てる事なく、直接に手折ってかざそうと思う)
 と少し得意になって姫達に贈った。とんでもないことを言う男よと、姫達は見ていたが、まあ暇なことだし何もすることもないので、靡くわけではないが上手な文だけを承って、返歌しないのもどうかと思って、中君は、

いづことか尋ねて折らむ墨染に
       霞みこめたる宿の桜を
(どこを目当てとして、さがし求めて手折るのであろうか、墨色に霞が立ちこめて包んでいる喪中の宿の桜を)

 返歌にもやはり、このように、匂宮を相手にせず、冷淡な中君に、しゃくにさわる女めと、匂宮は思うのである。こんなことを言われるのは薫の取りなし方が悪いからであると、なんだかんだと言っては責めるので、薫は匂宮は中姫に興味があると、思いながら、自信を持った宮の後見人であるように、匂宮に話しかけ、そうして、匂宮の浮気っぽい処を見つけると、
「そのような浮気心ではお引き合わせの手だては出来ませんよ」
と、注意をするから、匂宮も中君に浮気であるようには見えないように注意するであろう。
匂宮は、
「私の浮気な気持ちは、気に入った女が見つからない間だけよ」
 と言うのである。
 話変わって、匂宮が夕霧大臣の六の君を娶ろうとしないことを、夕霧は面白く思っていなかった。然し、匂宮が
「匂宮は六君と従兄妹なので気が進まない、その上、タ霧が何かと口出しするのがうるさくて、些細な浮気にも大目に見ずに、私は見咎められるようなところが、厄介なのである」
 と、陰で言っていて、六君との縁を辞退した。 その年に、匂宮の母である三宮が住む三条宮が火事で焼けてしまい、三宮入道は六条院に移る、と言う何かと騒ぎがあってそれに紛れて、薫は宇治へ行くことが久しくできなかった。真面目な薫は普通の人より少し違っていたので、あまり細かいことは考えずに、大君は自分のことを思慕していると、あてにしながらもし大君の気持がまだそうでなければ、もうすこし薫は、女捜しの気持ちや、思いやりのない男に見られたくないと、思いながら、八宮に託された遺志を忘れていない自分を、大君はもう少し深く知って貰いたいと、思うのであった。中君も大君もこの時点ではまだ薫も匂宮、二人から完全に信用されていなかったことになる。

 この年は平年よりも暑く、人々が暑さに参っているので、宇治の山荘は河邊にあるが、涼しくしているであろうかと、薫は心配して急に二人の姫の許を訪れた。朝の涼しいうちに京を出発し、宇治に着いた昼頃はあいにくと、さし込んでくる日の光も眩しいので、八宮の居室であったところの西の廂に鬘鬚の宿直を呼んで薫は座っていた。西廂の母屋の佛の前に姫達は居たので、薫の近くにいたくないと、仏前から自分の居間に移ってしまった。その姫達の動きは、薫に気づかれぬようにしたのであるが、身動する動きの音が近く聞えるから、薫は、やはり、そうかと、その儘ここにいるわけにはいかないと、薫の居るところに通じる襖の端の方で、掛金を掛けた所に、穴が少しあいているのを、ずっと以前から知っていたので、襖の前にある屏風を動かして、その穴に近寄って覗いてみる。障子の向こう側のすぐ近くに几帳が立てかけてあるのが、腹立つなあと、思うがどうしようもないので元の座席に引き返すとその時風邪が簾をものすごく吹き上げるので、女房が、
「外から丸見えじゃないの。その几帳を御簾の方へもってきて立てた方がよいと思う」
 と言うのが聞こえた。馬鹿なことを言っているわと、思うものの薫は嬉しくて、再び穴によって中を覗くと、高い(四尺の)几帳も,低い(三尺の)几帳も、持仏安置の部屋の御簾の方へ押し寄せて、薫が覗いているこの襖の真向いの襖のあいている所から、姫君達は、あちらの居間へ行こうとしているのであった。先ず中君が立ち上がって、几帳から外を覗いて、薫の供の者が川岸をあちこちへ往ったり来たりして涼んでいるのを見ていた。喪中であるので、薄墨色の単衣に、萱草(紅黄即ち柑子)色の袴をつけ、鈍色を引立ててあるのは、普段の服装よりは様子が変わっていて何となく華やかに見えるのは着ている人が中君であるからであろう。彼女は暑いからか、裳の掛け帯を、形だけ無雑作わざと引き掛けて、数珠を袖の中に隠し持っていた。背たけは、すらりと高くて体つきが優雅な、頭髪は袿よりも少し短めで、末の方まで、塵程の乱れもなく、つやっやとして、房房と沢山あって可愛らしげである。横顔など本当に可愛いく、顔色がつやっやとしていて、身のこなしの、物柔かでおっとりした様子は、明石中宮腹の女一宮も、多分このようであろうと、かつて薫は、女一宮をほのかに見たことがあるので、中君と女一宮と、自然に、思いくらべ、薫は思わず溜息をついていた。
 大君が、用心深く、膝をすべらして出て来て「あの襖は、几帳がないので、どうも、あけっぱなしのようである」
 と薫が覗いている襖の方を見ている大君の心遣いは、気をゆるしていない態度で、この女と話し合ったら色々と楽しいであろうと、薫は自然に思うのである。大君の髪形や、髪の垂れている様子は、中君よりも、もう少し上品で、優雅さが勝っているようである。女房が、
「あちらには襖があり、屏風も添えて立ててござりました」