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私の読む「源氏物語」ー63-匂宮

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体臭からの香りがこの世ではめずら匂いがして、薫が起居動作をするあたりは勿論、追い風に乗って遠くまでその香りが、香には、遠くまで匂う百歩香もあるが、本当に百歩以上も薫の匂いが漂う気配がするのであった。
 誰でも、源氏の御子という薫程の地位になってしまった、君達で、簡素になり、身嗜みもせずにありのままでなり振り構わない者があるはずはない。
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 自分は、人によく見られようと、誰も皆色々とお酒落をし、嗜みをするようであるのに、薫は異常な程までこっそりと立ち寄った物陰でも、はっきりと彼の体臭が隠れているので、薫は其れが嫌なので香を衣に使用することはなかったが、唐櫃にしまい込まれてある香を焚きしめた衣服類も、香りが着用するとさらに香りが加わり、説明の言葉が見あたらないほどの匂になり、庭の花の木でも、薫が、ちょつと袖を触れただけで梅の香を春雨の雫に濡れながらでも、身にしみ込ませようとする人が沢山あり、秋の野に咲いている藤袴の花も
「匂ふ香の君思ほゆる花なれば折れる雫にけさぞ濡れぬる」
「主知らぬ香こそ匂へれ秋の野に誰がぬぎかけし藤袴ぞも」
という歌のように、薫が立ち寄れば梅本来の香りが消えてしまい、薫の人を引きつけるなつかしい追風の匂が格別であり、薫の折る枝の藤袴の香りは梅の香りより優っているのである。
 薫はこのように怪しいほど人が気にする香りに体がしみこんでしまっているので、兵部卿宮である匂宮は薫のことを何よりも体臭のことを気にして、負けてはおられぬと、匂宮は世間にある香を総て集めて、朝夕の仕事として香の合わせを、又、前の庭にも香を衣に移したいと、春は梅の園を眺め、秋は美しい色の女郎花 牡鹿が妻にするようにいう萩の露にも、匂いがなければ見もしない、髪に挿すと老衰を忘れる菊、しおれていく藤袴、何の見映えもない吾木香などは霜枯れが厳しくなるまでその香りを大事にして捨てない、香合わせの技術が上達して香を愛でる風流な方という評判が立った。
このような状況なので、匂宮は「多少、なよなよとしなやか過ぎ、柔弱過ぎて、風流の方にとらわれなされた」と世間の評判であった。然し考えてみると、匂宮の祖父である源氏は総てが彼のように、一事を目標として、その事だけをやると、いう風に普通と様子が違って、「その事」に執着する点は、なく万遍なく何事もやったものであった。
 源中将である薫は匂宮を尋ねては管弦を奏して遊び、競り争う管楽器(笛)の音を吹き立て、競り合うと言う通り競争的であり、然し、若い同士二人は互に思い合う睦しい両人の人柄であった。それを世間の人は、
「匂う兵部卿、薫る中将」
 と耳やかましく評判するので、年頃の娘を持つ公卿達は婿に来てくれないかと心をときめかして二人に言う者もあるが、匂宮は色々と聞く中にこれは良い娘かもしれないと言い寄って、その娘の人の評判、様子などを探ってみるのであった。然しこれと言った娘は見つからなかった。ただ、母は致仕太政大臣(頭中将)の娘の弘徽殿女御である冷泉院の一宮が自分としてはいい娘と思い妃としても良いなあと、思っていたのは弘徽殿女御が身分が高く、人柄は奥ゆかしい方なので、その娘である女一宮の様子は、母女御の勝れておられる通り大変珍しく優秀で、世間の評判もよいことからで、まして、一宮近くに仕える女房たちから姫のこと細かな有様を
、何かの折に匂宮の耳に入ってくるのを聴いて匂宮は心憎く思うようになったのであろう。
 薫中将はこの世をつまらない物として世捨て人のような、深く悟りきったような心であるから、なかなか女なんかに気お向けてはこの俗界から離れにくくなると、思うと、煩わしい問題に首をつっこむことは慎まなければ、と考えて女の問題からは離れてしまっていた。それと言うのも、薫は、現在打ち込む男女関係がないので、悟り澄ました風をしているのであろうか。
まして、薫の性格からは世間から非難されるような恋をしようなどとは思いも寄らぬ事であった。
 薫は十九歳になった年に三位の宰相で右近中将でもあった。普通の場合は宰相は参議で四位の者がなるのであるが薫は三位である。冷泉院と秋好中宮の援助もあり薫は親王でもない普通の公卿であったが、誰よりも待遇がよいのであった。だが彼の心には自分の身の上(出生不審)を、存知している点があるので、何となく寂しいときがあったから、若い情熱で世間を突き進むということがどうも好まず、万事に心を落ち着けて自然に老成したように人に見せていた。
 匂宮の年齢が適齢期になってくると、妃にと気を遣う冷泉院の姫宮のことを、薫が見るにつけても、姫宮と同じ冷泉院の御所内に薫はこの姫と同じように住んでいるの、なにかあると様子を聴いたり又は垣間見たりするので、匂宮の熱中するだけあってなる程、姿形は一通りでなく奥ゆかしく深みのある態度が、この上なく勝れているから薫は、誰を迎えても、同じく妃であるならば、匂宮が愛着深いと言う通り、こんな綺麗な容姿である女と一緒になれば、それこそ一生涯満足ができる。
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 と思いながらも冷泉院は普通のことでは分け隔てなく、薫を大切に扱っていたが、女一宮の居間の方へは薫を極端に近づけないようにしておられるので、薫もそのようにまで隔てられるならば無理して近づくこともあるまいと、万が一、思いも寄らない女一宮を手に入れようとの野心でも起るならば、薫にしても姫にしても良いことではあるまい、と悟っているので、女一宮方に、馴れ馴れしく近寄る事を薫はしなかった。
 薫は世間から評判になる容姿に生まれた事であるから、ちょっとしたからかいの言葉を、言いかける女達でも、聞き流す気持はなく、薫に靡く女も多いので、自然、一時的な彼の気まぐれから通いの情人も沢山いるのであるが、その情人のために真剣に恋をするということがなく、人目に付かないようにして、それでいてどこという事もなく、情愛があるような態度が、女には却って刺激を与えるのか、薫に恋する女は、薫のあるようなないような愛情の態度に引きつけられながら母の三宮の住む三条宮に、奉公に参集する者が多数いるのであった。また、この三条宮に勤めに来て、振り向いてもくれない冷淡な薫の様子を見たり経験したりすると、三条宮に集まったそれらの女達に取っては、つらそうな事のようであるけれども、薫との間が絶えてしまうよりはましであると、心細い思いであるが、とても宮仕する事が出来そうもない、低い身分でも、三条宮に女房勤めが出来る喜びと、薫とはかない契りに頼みを掛けている女が多かった。冷淡であるが何となく優しい性質もある薫の人柄であるので、女達は自分自身の心に、騙されるような気持で薫の冷淡を、自然大目に見過ごしていた。
「母上の居られる限りは、朝に夕に、母の御目から離れずに居ますし、また、私も母上を見申しあげる事を、せめてもの孝行にしよう」
 と薫は思いまた三宮に告げるので、三宮は頼もしい息子であると思うのであった。